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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ル・グラン・ヴェフール(Le Grand Vefour)

この秋、スピちゃんは東京で、「ギー・マルタン・フェア」に行った。食後、挨拶に回ったギーちゃん自身、「おいしかった?大丈夫だった?ほんとにおいしかった?」と何度も心配そうに念を押したくらい、どうもこうもな出来だったらしい。そんなあ。パリのギーちゃんの店「ル・グラン・ヴェフール」は、他のどんなレストランにも真似の出来ない、気品とエレガンスに包まれた素敵なレストランなのに、、、。ギーちゃんのイメージを、そんな悪いまま持ってもらっちゃ困る。と言うわけで、パリ滞在のラスト日は、ギーちゃんの所でランチです。

久しぶりだ、ギーちゃんに会うの。ちょうど1年ぶりかな?とても好きな店なのだけれど、来られる機会はそうそうない。嬉しいなったら嬉しいな。ララララランラン、ラララララン。

フランス的美しさを代表しているようなパレ・ロワイヤルの公園を愛でてから、「ル・グラン・ヴェフール」の扉をくぐる。と、そこには、またさらにちょっぴり老けたギーちゃんの笑顔。

年をとったとはいえ、それでもギーちゃんはまだまだかわいい。4年前までは、私のナンバー1・ハンサム料理人だったギーちゃん。しわを加えたとはいえ、まだまだ十分イケルよね。でも今はもう、私にとってはナンバー3。現在ナンバー1の料理人は、多分私にとって、死ぬまでナンバー1であり続けるかも。そのくらい、完璧好みのいい男。彼の料理は、来週食べに行くんだ♪

ナンバー3に話を戻そう。

久しぶりのご挨拶して、フェアの時にスピちゃんと撮った写真渡して、ちょっとおしゃべりしてから席に案内される。

店内、立地も最高歴史が息づくこの店のテーブルは、この場所に集った人々の名前がつけられている。今日のお席はフィリップ・キュールの席。コレット席の真横。パレ・ロワイヤルに面した角席で店内を一望できる素晴らしいテーブル。すごいなー、ここ座るの、初めてだよ。スピちゃん曰く、「フェアのあまりのひどさに、いいテーブル用意してくれたんだよ」と。そーかー。

テタンジェのロゼ・シャンパーニュでチン!赤みの濃いピンクの冷たい液体が喉に心地よい。

アミューズのオマール&オマールコンソメにミニジロール茸、感動ほどなく、アミューズが運ばれてくる。「オマール、オマールコンソメとジロール」。一口食べてスピちゃんがつぶやく。「3つ星ってこういうことだ、、、」。

確かに、これこそ3つ星、という味がする。それくらい、昨日の「レ・ゼリゼ」や数日前の「クロ・ドゥ・ラ・ヴィオレ」ら2つ星レストランとの違いは明白。なんていうのかなあ、好みを超えて、ただ単に完璧、とでも言おうか。“完成品”なんだ。小さなアミューズに味覚が震える。

サーディンとヒヨコマメのピュレサラダ添えランチのムニュから、スピちゃんは「ヒヨコマメを巻いたフレッシュサーディン」と「子豚3種」、私は「鶏のプレス仕立て」と「生ダラの南仏風」を選んだのだけれど、まず二人の前に置かれたのは、サーディン料理のハーフポーション。半分にしてね、と頼んだわけじゃないのだけど、嬉しいよね、いろいろ食べられて。

新鮮な生々しさを感じるサーディンに、ピュレにしたヒヨコマメが包まれている。あっさりシンプルに美味。夏の終わりにピッタリですかね。正直言えば、アミューズのハッとするおいしさに比べると力不足だけれど。

ということは、次は「鶏のプレス仕立て」が半分こで出てくるのね、と思っていたところにやってきたセルヴールが皿を置きながらこう告げる。

オマールのトマトエミュルジョン、ベルガモットソース、見た目もお味も絶妙「ヴォアーラ!ムッシュ・マルタンから。オマールエビ、トマトとベルガモットのエミュルジョンです」

あー、おまけサーヴィスだー。んー、嬉しいけれど、おなか、大丈夫かなあ。ここ、絶品のフロマージュがあるし、デセール時の小菓子も充実してるから料理を控えめにしたかったんだけど、、、。シャンパーニュで十分すてきなおまけなのにね。

と、いただいたオマールはさすがのシロモノ。オマール自体はまあ、普通においしいオマールなのだけれど、乳化させたフワフワトマト、それを包むベルガモット風味のソースが素晴らしい。オマールの甘味との相性も絶妙。こういうの食べちゃうと、しみじみ思う。やっぱりフランス料理は、ソースの料理だ、と。別皿で添えられたトマトのソルベ(ほとんどグラニテ)もまた泣けるおいしさ。ギーちゃん、偉い!

スピちゃん感動。「違う、、、。あのときのフェアとは全く違う、、、」。そりゃそうだ、フェアなんてそんなものでしょ。でもまあ、そう思うと、去年の春に目白のフォーシーズンズで開かれた「ル・サンク」フェアはかなりレベルが高かった。パリで食べたブランマンジェや鳩とほぼ変わらない味を再現してたもんね。花もちゃんとジェフの作品だったし。会場自体のつまらなさはどうしようもないけれど、ソフト面は充実してた。

鶏のプレス用にカトラリーが並べられて数分後、セルヴールがやってきて、「ゴメンネ、カトラリー、全て変えます」と。程なくメイン用のカトラリーがそれぞれ並べられ、子豚とタラがやってくる。

「あはははは。注文した料理は食べさせてくれなくて、かわりにサプライズが出てくるんだ、この店は」

「しかも、頼んでないのに勝手に半分こにもしてくれちゃうし?」察するところ、鶏の用意は出来ていたのだけれど、もうアントレは2品食べたし次はメインだろう、と思って、メインの子豚とタラを料理しちゃったのね。で、もーいいよー、メインが出来てるのなら、鶏はパスしてメインを出しちゃえ!と。多分ね。違ってたらシツレイ(笑)。でもきっと、そうだと思う。でないと、カトラリーを変えた理由がつかないもん。

鶏の味も知りたかったけど、これでよかったんだ。おなかに負担がかからなくて。

生だらの南仏風で、メイン。タラはまあ普通かな。トマトとバジル、オリーヴオイルを利かせて、正統派南仏風。問題なくおいしいけれど、取り立てて感動はない。

その分、子豚が感動させてくれる。

注文時、悩んだんだ。子豚好きの私としては。でも、昨日も「レ・ゼリゼ」で子豚を食べたばかりだし、いいや、スピちゃんのを味見させてもらえば、と、タラを選んだ。私のショコラ担当係のセルヴール、ファビアン(私はいつも、ファブリス、と彼の名前を間違える)が(様子を見ていると、どうもメートルに昇格したような気もするのだけれど)、「子豚、最高ですよ。いい選択です!」とスピちゃんに太鼓判を押したとおり、ほんとに素晴らしい料理だ。

子豚3種。素晴らしい!3種類の部位をそれぞれ、カラメリゼ、マスタード、バジルのソースで味をつけた。カラメリゼが絶品だ〜!豚の角煮だねほとんど。ママの作ってくれた角煮を思い出す。あー、やっぱり豚にすればよかったかも。付け合せの、フォークでつぶしたジャガイモも極上。スピちゃんのジャガイモをうらやましそうに見ていたら、担当セルヴールが、「ジャガイモ、欲しいですか?」と聞きに来る。大きく頷きジャガイモもらってゴキゲンゴキゲン。

相変わらずうっとりするおいしさのサヴォアのフロマージュたちを堪能。シャトーヌフの白がフロマージュにぴったりと寄り添ってる。でも今日、ヴュー・コンテがちょっとだけ普通?すごくおいしいけれど、いつもはここのヴュー・コンテ、“すごく”どころの騒ぎじゃなくて“信じがたく”おいしいの。

モモ♪、パルフェ、サクサク棒パイ。美味デセールは「モモのロティ」。モモ好き♪素直でおいしい。かわいい。添えられたパルフェ、何の味だったっけ?カリソンだったかな?忘れちゃったー。かなり好みだったのに。スピちゃんは、ノワゼット&ショコラのデセール。こちらもなかなか。パティシエ、変わった?なんだかおいしくなった気がする。1〜2年前よりも。

ギーちゃんの故郷、サヴォアの地方菓子、ビスキュイ・サヴォアもいただきさらにゴキゲン。好きなんだ、このシフォンケーキ。いつか、丸ごとお持ち帰りしたいものである。

ミントのお茶飲んで、プチフールをつまみ、コニャックをご馳走になり、ゴキゲン度のものすごく高い食後。店内のそこここでドラマティックに盛り上がりながらレストランという場所に興じていた人々も少しずつ引き上げ、席に着いたときと同じような静かなひと時がまた空間を覆いはじめている。この、テンションの移り変わりが好きだ。静かなアダージョから始まり、熱く高く盛り上がり、そしてまた、静けさに包まれる。この時の流れが美しいレストランと美しくないレストランがある。ギーちゃんの店は、間違いなく前者。極上のオーケストラが奏でるシンフォニーが与えてくれる感動と興奮と同じものをくれる。

席を立って受付へ向かう。支配人とちょっとおしゃべりして、ついでにオミヤのおねだり。いつもだったら、ファビアンにショコラをねだるところなのだけれど、今日は、ショコラでなくて、カヌレとヌガーのおいしさにちょっとびっくりした。と言うわけで、本日のおねだりは、カヌレとヌガー。ファビアンが電話で忙しいので、支配人にオネガイ。

数分後、この店オリジナルのかわいらしい箱を手にして、ララランランランと街を歩く私たち。ぎっしり詰まったカヌレとヌガー、それにマカロンを、おうちでありがたくいただくのでした。

「ル・グラン・ヴェフール」は、いいレストランだ。あでやかで品のよい内装。洗練されていて柔らかなサーヴィス。質の高い料理。ギー・マルタンという、チャーミングな人物が作り出した、とても居心地のよい素敵な店だ。ギーちゃんに乾杯!


Ven.5 sep.2003



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