ゆるぎない個性と安心感を持った、本当に素敵なレストランだなあ。
暑い夏の昼下がり、ギー・マルタン率いる「ル・グラン・ヴェフール」でランチをいただきながら、しみじみ感じる。
この店はいつ来てもいい。本当にいい。98年の年末、まだ2つ星だった頃のギーちゃんに初めて会ったときから、この店に流れている根本的な空気は、なにも変わっていない。由緒あるこの店に集い賑わい食した数多の著名人の息づかいがまだそのまま残っているような雰囲気も、当代きっての名シェフであり知識人であったレイモン・オリヴァの面影も、全部そのまま残したまま、この店はひっそり静かに、素敵に年を重ねている。
ギーちゃんの料理は、もちろん、時の移り変わりと共に発展を続けているけれど、根底に流れるカラーというかイメージはずっと同じ。優しく品がよく、茶目っ気がある。ギーちゃんと同じ。
いつ来ても顔ぶれが同じサーヴィススタッフたちの笑顔と完璧なサーヴィスも、この店の魅力だ。ほっぺも鼻の頭も真っ赤なソムリエとワインを選び、エレガントの塊のようなディレクターの歓迎を受け、私の無二のショコラ好きを覚えてくれているメートルと会話を交わす。何気ないことだけれど、こういうことがとても大切だ。
入店と同時にまずギーちゃんとビズーを交わし、その後、最後に店を送り出されるまで、なんど来ても、この店では同じシーンが繰り広げられ、私もその中で同じ楽しいシーンを演じることができる。
こういう店が存在していることが本当に貴重に思える、ここ数年のパリのレストラン業界で繰り広げられている、残酷にすら感じる様々な移り変わり。
こうやって「ル・グラン・ヴェフール」のテーブルで食事をしていると、心から気持ちが安らぐ。
テタンジェのロゼに品のよいウサギ肉のアミューズ。
おなじみのフォアグラ・ラヴィオリの変わらぬ味を満喫しながら、愛するシャーヴのエルミタージュに恍惚。
味覚と嗅覚、触覚が喜びに震えたつようなラングスティヌーのマンゴー風味に、新たにギーちゃんへの尊敬の念を抱いた直後、
相変わらず私にとってはなにかの冗談としか思えない野菜系デセールに脱力。
大のお気に入りのプリン、ガトー・サヴォアにカヌレ、それにショコラやヌガーをたっぷりもらって嬉々と頬張り、ミントのお茶でお腹をなだめる。
いつまでも変わらずに、このままの姿でいて欲しい。そう切に願いながら、心を込めて皆と握手をして、「ル・グラン・ヴェフール」にしばらくの別れを告げる。このレストランを、とても大切に思う。
Ven.22 juillet 2004