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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ラヴニュー(L'Avenue)

「やっぱり止めようかなあ、どうしよう、、、。でも8月、他に行きたいところもないしなあ。まあとりあえず、様子だけ見てみようかなあ」重い足取りで、シャンゼリゼの「ラデュレ」から、マリニャンを抜けて、アヴニュー・モンテーニュに向かう道をとぼとぼ歩く。

火曜日の午後を過ごした、シャンゼリゼの「ラデュレ」。大好きなジャック・ガルシアの内装には興味があったものの、いつも込み込みで従業員も優しくない、という、最悪の評判に恐れをなして、優しい本店とプランタン店ばかりに足を向けていた。8月後半の午後早くなら、ひょっとして人も少なくて雰囲気もいいかも、と、淡い期待を抱いて訪問した、シャンゼリゼの「ラデュレ」は、確かにすいていて、デコラシオンもガルシアらしく素敵なものだったけれど、笑ってしまうような最悪のセルヴィスをしたセルヴーズのおかげで、『2度と行かない』サロン・ドゥ・テになってしまった。

やっぱりねえ、所詮セルヴィスっていうのは、男の人の職業だ。女の人の方ががさつだし、心が入ってないんだよね。ガチャンとお皿を置き、ドボドボドボとお酒を注ぐ。どうして、そっと柔らかくお皿を置き、トクトクトクといたわるようにお酒を注げないんだろう。だいたい、セルヴィスを楽しんでないものね、女の人は。セルヴィスされる方が、女性はやっぱり自然なんだよ。する方は男たちに任せておけばいいのよ。

この界隈でのお茶は、ちょっと歩くけれど、たおやかで優しげな男性従業員で占められている「マリアージュ・フレール」に決まりだね。ごめんね、浮気しちゃって。9月になったら、また行くからね。待っててね、大好きな椅子ちゃん。

ものすごいセルヴィスに圧倒されて「ラデュレ」をでて、とぼとぼとマリニャンを歩く。どうしようかなあ、って悩んでいたのは、翌日水曜日の夕食のレストランのこと。突貫工事であっという間に出来上がってしまった、新しい「ラヴニュー」に、これもまたジャック・ガルシアの香りを嗅ぎに行こうと思っていたのだけれど、今日の明日じゃ、「ラデュレ」の悪い印象を思い出してしまいそうで、ちょっと不安。まあでも、外から様子を見てみましょうか、、、。と、アヴニュー・モンテーニュに出て、「ラヴニュー」を一目見たとたんに、「あ、いい!絶対、明日来る!」

午後の光を浴びてなお、耽美で廃頽な雰囲気がこもる、柔らかなモーヴとゴールドの内装。デコラティフな椅子に、足を組んで座っているのは、アヴニュー・モンテーニュの高級ブティックの顧客とすぐ側にあるラジオ局「ユーロップ2」の幹部、みたいな人たちばっかり。サクラを雇った?って聞きたくなるくらい、100%、このゴージャスな店の雰囲気に負けないようなクラスの人々しかいない。これはすごいや。絶対来よう。

で、水曜日の夜。新しい「ラヴニュー」の基本カラーのモーヴ色のブラウスを羽織って、冬の靴とカバンをタンスの奥から引っ張りだしての、お出かけ。

冷たい空気が、冬の香りをはらんでいる。あ、好きだな、この匂い。短い夏が姿を消すのは寂しいけれど、冬には冬のよさがあるものね。空気は透明になるし、素敵な手袋だってはめられる。赤ワインは美味しくなるし、ジビエも食べられるしねー、なんて、おしゃべりしながら、グラン・パレを抜ける、お気に入りの散歩道を歩く。久しぶりに青空が見えるらしい明日の天気を約束してくれそうな、真ん中からスパッと切られた半分だけの月が、心もとなげに、はかなげな白い色で、優しく浮いている。

atomo人影少ない道を歩いて、「ラヴニュー」に到着。夜はひっそりするこの界隈で、このレストランだけは、人に溢れている。昼と変わらず、一瞬の隙もないマダームと、恰幅のいいムシュ、それに、モデルー?みたいなお姉さん達で、地上階は一杯。え?この人は従業員?それともお客様?え、え?って、分からなくなっちゃうような、これまたモデル見たいなお姉さんやピカピカに磨かれた靴が素敵な叔父さまに連れられ、上のフロアへ続く階段を上がる。

モーヴ色のビロードのカーテンが、吹き抜けの階段から重そうなドレープを作っている。うわあ、ガルシアっぽーい。

久しぶりに訪れる「ラヴニュー」。ノエルのイルミネーション華やかな頃、ディオールとニナ・リッチの一際華麗なデコラシオンを窓越しに見ながら、幾度か、ここで食事をした頃を思い出す。壁や階段など、中の作りは昔と同じ。雰囲気だけ、徹底的にいじった、って感じだ。なるほど、工事があっという間に終わった訳だわ。こざっぱりと可愛らしかった昔に比べ、やはり今度の「ラヴニュー」は、耽美で廃頽。発色のきれいなモーヴと柔らかな照明の効果、ソファーの生地の柄とカーテンの色の組み合わせ。うん、典型的なガルシア様式だ。パリで一番シックなアヴニューを見下ろせる窓際の席に落ちついて、カルトを広げる。

トップモード・レストランの一つ、「コントル・アレ」からシェフが降りてきた、と言うので、期待して開いたカルトの方は、「え?私たち、オテル・コストにいるんだっけ?」って、ちょっと戸惑ってしまうくらい、コスト的なカルト。置いてあるお酒も同じ物が多い、クルッとひっくり返した灰皿には、“COSTES”とマークが入っている。良く考えてみると、店内の雰囲気は、オテル・コストの奥のバーっぽい。従業員が、下手すると客よりもずっと素敵なのも、コストらしい。まあぁねー、確かに同じ人たちが作ってるんだから、雰囲気も似るけどさあ。でもちょっと、似過ぎじゃなあい?

ここはフォーブル・サントノレのホテルのレストランじゃなくて、あのアヴニュー・モンテーニュにあるお店なんだから。地上階のカフェっぽく作ったスペースはあれでいいとして、上はもう少し、このカルティエらしさを出せばよかったのにね。アメリカンな音楽を流すのも、地上階だけにして、さ。

thonコストっぽいお料理は、生のトンのネム仕立て、鴨のタタキのフォアグラ添え、と、まあ、それなりに考えていて面白いけど、やっぱりとってもコスト臭い。もう少し、新しいシェフの個性が出てくるといいのになあ。

canardモデルみたいに素敵なセルヴーズのお姉さんも優しかったけれど、ここもやっぱり、セルヴールの接し方の方が、全然お上手。「何故セルヴィスは男性の方がいいのか?」という話題ですっかり盛り上がる。

客層は完璧。従業員も悪くない。雰囲気も素晴らしい。まあ、料理が料理なので、夜に食べに来るより、昼間、この辺りのブティックでママとお買物をした後、お昼にサラダやクラブ・サンドウィッチを食べるとか、すぐ側のテアトル・シャンゼリゼでの音楽会の後に飲みに来る、っていう使い方の方が、楽しめるかな、このレストランは。


mar.18 aout 1999



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