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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ル・ブリストル (Le Bristol)

−ル・ブリストル−なんて美しく、高貴な響きだろう。このね、“ル”に弱いんだと思うな、私は。

サン・トノレに居を構えるパラス・ホテルのル・ブリストル。ホテルと同じ名前を持つここのダイニングに、エリック・フレションが迎えられたのは、99年の夏。オテル・クリオンの「レ・ザンバサドール」から独立し、パリの外れ、19区に自分のレストランを開いたのが95年。以来、うら若いMOF取得シェフの店は、素晴らしくお値打ちで美味な料理が食べられるとして、連日連夜の賑わいの中、あっという間に有名レストランになってしまった。

今のパリに多くある、若手オーナーシェフのレストランの走りだっただろうエリック・フレションが、「タイユヴァン」にシェフを引き抜かれた「ル・ブリストル」に入ることになった、というニュースを聞いた時、えーっ!?と言うよりは、よかったね、に近い感想を持ったのを覚えている。

本来が、高級ホテルの一流レストラン出身のフレション。「自分がやりたい料理は、あくまでも高級フランス料理だ」と言うシェフにとって、自分のレストランを切り盛りするよりも、資金の豊富な高級ホテルで雇われシェフになっている方が、よっぽど自由にやりたい事が出来るだろう。

そんな訳で、19区の店は奥様と弟子に任せ、先の夏、鳴り物入りで、ホテル・レストラン世界に、エリック・フレションは戻ってきた。

オーヴァーを預けて、ワンピースの裾直して、レストランへ。品良く華やかにまとめられたサルは、楕円形。ホテル・レストランにしては、かなり低めの天井が気になるけれど、中央に飾られた花のオーソドックスな美しさ、いい間隔で並べられた丸いテーブル、しわのないテーブルにセットされた上品な食器類、落ち着きと洗練、それに優しい笑顔をたたえて滑るようにサルを巡るセルヴール達、「ル・ブリストル」に相応しい、年齢が高めで品よくハイソな客層。全体的に、上品なクラッシクなイメージ。下見をした時にも思ったけれど、うん、ここ、絶対私の気に入るレストランだ。

きれいに引かれた椅子に腰を下ろし、テーブルの上を眺めてにっこり。「ル・ブリストル」マーク入りの上品な飾り皿、エレガントなカトラリー、燭台、テーブルの大きさ、全てに嫌味がなく、とても雰囲気よくまとめられている。好きよ、この感性。

ミュムの89年を空けて、乾杯。ミュムにしてはまともな、荒っぽさがちゃんと調教されたようなシャンパーニュを、各種ミニパイで楽しみながら、ホテル・レストランに戻って来てくれたエリック・フレションの料理とこんにちは。

一通り、お料理を説明。料理名だけ見ると、特にハッとするところはない、とても品よくまとめられた料理達。でもきっと、目の前に現れる時の美しさと味のよさは、すごいんだろうなあ、、、。数十分後に味わうはずの幸せに思いを馳せ、思わず口元がほころぶ。

笑顔とくぐもった声がとても感じいいメートルのアドヴァイスを受けながら、お料理の決定。この季節にはやはり一度はきちんと食べたい「トリュフのサラダ」を二つとって、5人で分ける。その後に、私は「カヴィアのジャガイモ・ゴーフル添え、ミモザ風」に「乳飲み仔羊のロティ」。

「デセールも、今決めていただけますか?」
「ダコー。じゃあ、他の方の注文を終えてから、みなさんにデセールの説明して決めますね」って言ってたのに、最近、なんでもすぐに忘れちゃう鳥頭。みなさんの注文を終えて、ほっと一息ついちゃって、カルトを閉じちゃう。
「マダム、あの、デセールを、、、」控えめに、喚起するメートル氏。
「え?ああ、デセール!ごめんなさい。今、決めますね」慌ててカルトを開き直し、デセールの説明、そして注文。やれやれ、これでぜんぶ終りね?今夜は、お酒は私が決めなくていいし、楽ちんだわ。

creme銀製の丸い蓋がかけられたお皿が運ばれてくる。ワクワク、何が出てくるのかな?ぴったりのタイミングで蓋の開かれた、5つのお皿の中央には、何かをコンカセ(粗くみじん切り)したもの。何かな、何かな?これなあに?続いて運ばれる、銀のスープ入れ。「本日のアミューズは、アルティショー(アーティチョーク)のヴルーテ(ポタージュ)です」と、メートルが、スープの器からお皿にヴルーテを注いでくれる。

まろやかで上品な味のヴルーテ。コンカセされたアルティショーの味の濃さと、ヴルーテになったアルティショーの、コンカセよりも2段くらい優しい味とのコントラストが、なかなか見事。

グリッシーニに続いて運ばれてきたパンの籠から、オリーヴのパンを選ぶ。固めのプティ・パンではなく、ふわふわのパン・ドゥミ風に作られた珍しいオリーヴパン。オリーヴの風味がそのまま残った感じで、とても美味しい。

saladeまたまた、丸い銀の蓋付きお皿。取り除かれた蓋の下に顔を出したのは、トリュフのサラダ。シンプルで上品なお皿に、ドレッシングで和えた生野菜、その上に、スライストリュフがたっぷり。上にはクルミが散らされている。フワッと立ち昇るトリュフの香りは、そんなに強いものではないけれど、それがかえって私にはちょうどいい。あまり強いトリュフの香りは、あんまり好きじゃない。安上がりだね、私。

ロケットやマーシュを使った生野菜のサラダの部分が、素晴らしく美味。柔らかなクルミ系のオイルに包まれた、苦みばしった冬菜。こちらも冬の風物詩、クルミの味の濃さが、とてもいいアクセント。これらを、くるりとトリュフが包んで、なんともまあ、上品で味わい深いサラダに仕立て上げられている。やっぱりエリック・フレションはすごいなあ。

シャプティエの作った97年のコンドリューが完全に負けてる。こんな、正統派で高貴でありながら艶っぽいサラダには、モレイ・サン・ドゥニやシャンボール・ミュジニーなど、コート・ドゥ・ニュイの恋を語るに相応しいお酒を持って来てあげたかたなあ。え?でも、そんなの飲んで、ここで誰と恋を語るの?みなさん、家庭持ってらっしゃる叔父さま方よ。

caviarアントレ2品目が運ばれてくる。ジャガイモで作られたゴーフルに、ぴかぴか光るカヴィアちゃん達がたくさん。周りには、卵を散らしたソース。わーい、カヴィアちゃん達、久しぶりだねえ。私は、あなた達のことがだーい好きなのに、なかなか巡り合えないね。

大好きなカヴィア。そりゃまあ、そのままスプーンですくって食べるのも美味しいけれど、こんな風に素晴らしく、カヴィアを味合わせてくれるエリック・フレションに感謝感激な料理だった。サクサクとしたゴーフルに使われたジャガイモのしっとりした甘さが、塩味がきれいに効いたカヴィアの旨みをひきたてる。周りに敷かれた、卵入りのクレームの優しさがまた、元気一杯に飛び跳ねるカヴィアを優しく包む。上に飾られた、ポワローを極薄にしてカラメル化したものの美しさとテクニックに頭を振りながら、口の中でとろけてゆくカヴィアの香りを楽しむ。くうぅ、、、、。美味しいですぅ、、、、。

難を言えば、お皿か。基本的に、ガラスのお皿は好きじゃない。せっかく、シンプルで美しい「ル・ブリストル」オリジナルのお皿があるのだから、そちらを使ってくれればいいのに。

agneauプラのアニョーで、ちょっとしたハプニング。今夜、2種類あったアニョーのうち、私が頼んだのは、小玉ねぎとジャガイモ付きのものだったのに、ニンニク風味のもう一つのアニョーが間違えて出てくる。まあいっか。ここで「変えて」と言っても、時間がかかるだけだし、こちらのアニョーもおいしそうだしね。ロゼ(レア)にしては、ちょっと火が通り過ぎているけれど、さすがに肉の味は見事。

問題はやっぱり、ガラスのお皿。しかも、お皿がガラスに変わった二つ目のアントレの時から、蓋までもが、丸い可愛いのじゃなくて平たいものになっている。丸い方が可愛かったの!お皿も、陶器の方がいいの!まあ、そうは言っても、美味しいことには変わりない。ちびちゃん羊の肉の香りのよさとサックリする噛み応えを楽しんで、お腹一杯。

白ワインと一緒に頼んでおいた赤ワインの注文が通っておらず、うまく時間を置いてあげられなかった、マルゴーのシャトー・ラ・トゥール・ドゥ・モン95年は、マルゴー独特の濃艶な香りよりも、もうちょっと北の地を思い出させるような、控えめだけれど固めのタンニンと堅実な香りを持っている。時間を置いてあげれば、マルゴーっぽくなったのかもしれないな。

そんなミスを犯したのは、二人いるソムリエール(女性ソムリエ)さんの1人。
「これだから、、、。だから女性のソムリエは嫌いなんですよ」
「やっぱり、威厳もないしね。こんなレストランには、やっぱりせめてシェフ・ソムリエだけでも男性をおいてほしいよ」
「そうですよね。私は、基本的に女性のセルヴィスって嫌い。断然、男性の方がプロ意識高いですよ」K川さんと、ちょっとプンプン。

土・日も開けているレストランだから、週末の今日はたまたま、男性のシェフ・ソムリエが休みだったのかもしれない。エリック・フレションも、今日は休日のはず。「シェフですか?今夜もいますよ」と、セルヴールは言っていたけれど、本当かなあ?土日は、家族と一緒に過ごしているようなことを、何かの雑誌で読んだぞぉ。ま、いいや。近いうちにどうせきっと、今度は平日にMきちゃんと一緒にここに来るでしょうから。その時、確かめよう。

「チーズ?とてもとても、、、。もう、お腹一杯ですよ。デザートも食べられるかなあ?」と心配していた、U部長達だったけれど、目の前に運ばれてきた美しいデセールに感嘆の眼を向けた後、あっという間に、ぜんぶ食べてしまう。
「いやあ、不思議だなあ。ぜんぶ食べちゃったよ」不思議でも何でもないです。だって、すっごく美味しいのだもの。こんな美味しいもの、残せる訳ないわ。

parfait私のデセールは、「ショコラのパルフェ」と名がついたもの。シトロン・ヴェール(ライム)風味のムラング(メレンゲ)の上に、生クリームを固めたものと、ショコラのグラス。上からはトロトロに流れるカラメルがかかり、更に細いムラングが全体の形を整えている。ムラングの先っぽに付けられた、金粉がゆらゆらと揺れている。ふわぁ、、、。これはこれは、、、。きれいですねえ。味も完璧。お皿も、ガラスじゃなくなったし。何も言うことないです。

「どう、美味しいでしょう?あなたが気に入る、って分かってましたよ」メートルがウインク。
「気に入るって、私じゃなくても、これ、誰だって大好きになるわ、こんなデセール。すごい、、、」
「シェフ・パティシエが喜びますよ」
「どこから来たの、シェフ・パティシエ?今までの人は、プラザ・アテネに移ったんでしょう?」
「ご存知ですか?」
「お目にかかったことはないけれど、何度かデセールは堪能させてもらってます」
「そうですか。彼も素晴らしいパティシエですよね。今のシェフは、クリオンから来たんです」

でた、またクリオンだ。ジョルジュ・サンク・オテルの「ル・サンク」の、これまた見事なデセールを作っているのも、クリオンから来たパティシエだった。ここでもまた、クリオン。「レ・ザンバサドール」って、一体どんなデセールを作っているの?行かなくちゃ、確かめに行かなくちゃ。

知り合いのMさんも、「クリオン、ディレクターが代わってから、可愛くて若いセルヴールが増えたのよ!見る価値あるわよ」って言ってたし。それはもう、やっぱりいって来なくちゃね!?

コホン、、、。
「そう、クリオンから?「ル・サンク」と同じね。あそこのも美味しかったわ。すごいですね、最近、あなたたちホテル・レストランはどうなっちゃったの?みんなして、あっちこっち動き回ってるんですね」
「そうなんですよ。この半年は本当に、業界内の動きが激しくて、、。僕ももう、誰がどこにいるんだかよく分からなくなっちゃってますよ」と、にっこり笑顔のメートル氏。いやいや、料理も美味しいけれど、お菓子もすごいわ。ぞくぞくやってくる各種プティフールも片っ端からつまんで、マント・アンフュージョン飲んで、満足の溜息。

半分ほどのお客様が帰りかけた「ル・ブリストル」の上品なサルは、入ってきた時と同じように、落ち着いて静かでありながら、優雅な雰囲気に満ちている。うん、上品でクラッシクな雰囲気のいいレストランだ。今度は是非、エリック・フレションが顔を出す、平日の夜に席を取りますね。

U部長達をホテルまでお見送りして、さようなら。素敵な夕食をどうもありがとうございました。とっても楽しかったです。

Mこさんと合流して、「バー・ヘミングウェイ」で飲み直し。素敵なレストランと素敵なバーで、幸せな土曜の夜でした。


sam.22 jan.2000



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