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グルマン・ピュスのレストラン紀行


レ・ゼリゼ(Les Elysees)

最近いけてるホテルレストランたち。ホテル・ヴェルネの「レ・ゼリゼ」はこの筆頭にたっている。ミシュラン2つ星、ゴーミヨ18点の、おりこうさんレストラン。10日に渡る2つ星レストラン巡りの旅の初日を飾るにふさわしい、エレガントなレストランだ。

「ちょうどヴァカンスの時期なので。いつもはもっと賑わっているのですが、、、」とメートル・ドテルのアランが椅子を引いてくれる。思ったよりもこじんまりとしたサルにはテーブルが15前後。座っているのは6組くらいか。豪華ではあるが落ち着いた内装は決して好みのものではないけれど、ちょっと離れたロビーから流れてくる、ピアノの弾き語りが興を添えている。

ピアノの音色とおしゃべり上手なアラン、以下、素晴らしいセルヴール達に囲まれ、素敵な3時間を過ごす。

お上手!の一言に尽きる料理だ。シャンパーニュ・アミューズからして文句のつけようがない。風味豊かなちっちゃな2つのカリカリトーストにはフォアグラのテリーヌ、ソモン・フュメにキャヴィアをあしらったものがそれぞれに乗っている。味もさる事ながら、ソモン・フュメの飾り方がまた素敵だ。セルヴールが一つ一つセルヴィスしてくれたので、写真に撮れず残念。ただでさえ美味しい、シャンパーニュがさらに美味しくなる。

truffe「ご覧ください。私どものトリュフです」アランが自慢げに運んできたのは大きなガラス瓶にごろごろ詰め込まれた真っ黒なトリュフちゃん達。「いいですか、開けますよ」の一言と共に、どっと周り中にトリュフの匂いが立ち込める。強烈な匂いに頭がくらくらしながらも、アランに写真いい?と頼む。「もちろんですよ!」とにっこり笑いながらアランは、後ろのスタッフにぼそぼそ、っと指示。と、思う間もなく、一枚のお皿とセルヴィエットが運ばれ、目の前に置かれる。
「せっかくですからね、トリュフもドレサージュしましょう!」と一つ一つトリュフを瓶から出してセルヴィエットの上に盛り上げてくれる。どうもありがとう、カシャッ。

さて、アミューズが運ばれてくる。「ウニのヴルーテ(ポタージュみたいなもの)」。殻に注がれたどろりとした液体は、かぐわしいウニの風味タップリ。ウニ好きの友人は泣いて喜んでる。

パンの方は、オリーヴ・オイル、ベーコン、田舎パンの3種。最近はやりのオリーヴ・オイルはおいておいて、ベーコンパンを試す。うん、いけてるぞ、これも。

foisgrasアントレは「フォアグラのラヴィオり、トリュフ仕立て」。傑作!こんな濃いコンソメは日本じゃ決して食べられない。フランスでだって、なかなかお目にかかれないよ。味が濃いのではない、きめが濃い、とでも表現すればいいだろうか。決して重くなく、しかし限りなく深い深い味わいなのだ。

くうぅ、フランス料理の真髄だ。このコンソメに、ラヴィオリがズラリ、と並んでいる。さっき目の前にゴロゴロ転がってたトリュフだろうか、かなり厚めのスライスがラヴィオリを飾っている。素晴らしい柔らかさのラヴィオリをそっとキュイーエールで掬って口に入れる。まずは、完璧コンソメが口内を圧倒。続いて、軽くラヴィオリをかむと、ホワッと中から、半分くらい溶けたフォアグラが流れ出し、口の中に甘みが広がる。ここで大きく一つ溜息。と同時に、一緒に口に入っていたトリュフの香りが、鼻孔を思いっきりくすぐる。これはすごい。コンソメ、フォアグラ、トリュフ、と個性の強い3つを集め、濃くならず、重くならず、しつこくならず、素晴らしいバランスを保った料理だ。パクパクパックン、と小さなラヴィオリ達はどんどん口に運ばれる。ま、でも、量的には、3分の2でちょうどいいくらいかな。ラヴィオリを少な目にして、レードルひとすくい分、コンソメを注いでくれるといいのにな。(そんなことしたら値段が100フランくらい上がるか!?)

プラのリ・ダニョー(仔羊の胸腺)は、ちょっと焼きすぎ。中はトロリと、素敵なリ・ドゥ・ヴォーたっだだけに、外側が残念。こちらもトリュフがざっくざくと、ジャガイモの薄切りと一緒に、リ・ダニョーに突き刺さっている。

友人の取ったバール(スズキの一種)は野菜の生き生きした香りが魚の優しい甘さと絡み合い、非常に完成度の高い料理。ゲラールさんのところのバールに次ぐ、美味しさかも。

そしてそして、今夜の最高傑作のデセール!

シャンパーニュ・アミューズは素晴らしい出来だった。でも、ラヴィオリが出てきたときに、次点に下がった。ラヴィオリは今まで食べたラヴィオリ料理の中で、多分2番目に美味しい出来の作品だった。今夜はこれ以上のものは出てこない、と思った。でもでも!今夜の一等賞をさらっていったのは「柑橘類のタルト、シトロン・ソルヴェ」。

dessertアマンドの香りが香ばしい薄い薄いチュイルの上にオランジュの香りの軽いムース。このムースの上には、オランジュ、赤オランジュ、パンプルムースにシトロンが美しく皮をむかれ、重ねられている。たかが果物、されど果物。この果物達は、グラン・マルニエやラムなど、それぞれ違ったお酒に漬けられていて、えもいわれぬ味に仕上がっている。

これだけでも涙ものなのに、横に添えられたシトロン・ソルベがまた、涙腺を刺激する。こちらはゴマを散らしたチュイルが下に隠れていて、シトロンの酸味を和らげている。そしてそして傑作中の傑作、くるくるチュイル!この螺旋形に作り上げるまでに、どれだけの苦労がパティシエさん達の間でなされたか、考えただけでも、またどっと涙が出てくる。オランジュの香りをたっぷり詰め込んだこの2本のチュイルにすっかりまいってしまい、2月の下旬にして早々と、恐らく今年の最優秀デセールになるだろう!と100点満点の評価を与えてしまう。見た目にも味にも、完璧なデセールだ。コアペが作ったジュランソン最高の甘口ワインが霞んでしまいそうだ。

pf興奮覚めやらぬままに迎えたプティフールたち。あのデセールの後だけにどうしても分が悪いが、このちいさなお菓子たちも、かなりの出来栄え。中でもタマゴの殻に入って来たクレーム・アングレーズ(いわゆる、カスタード・クリーム)には、ウニに引き続き、友人は涙を押さえることが出来なかった。(殻好きなんだね、きっと。)中に薄いショコラのスポンジが埋め込まれたこのタマゴちゃんは、プティフールにしては素敵すぎる作品だ。

マントのアンフュージョンの香りに包まれて、この数時間で口に入れた料理を思い出してうっとり。ラディション(会計)でちょっとうっとり気分は損なわれたけれど、アランにコートを着せてもらって、「お土産です」とピンクのバラとアーモンドのボンボンをもらって、またうっとり。

シェフのアラン、シェフ・パティシエ(お菓子のシェフ)のアラン、メートルのアラン。3人のアランが紡ぐ極上のひととき。チャーミングなこのレストランに、すっかり心奪われてしまった2月も終わりの夜だった。


jeu25 fev 1999



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