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グルマン・ピュスのレストラン紀行


レ・ゼリゼ(Les Elysees)

一件目は「ル・レジャンス」。
「ごめんなさい。9月いっぱい工事中なんです」ふざけてる!2月に電話した時は、3月いっぱい工事、6月に電話した時は、8月いっぱい、って言ってたくせに!次行こ、次!「レ・ゼリゼ」。
「木曜日も金曜日も、もういっぱいなんです。すみません」ちぇー。じゃ、3件目の正直で「ジャマン」。
「木曜日ですか?空いております」
「よかった!そうだ、念のため。パンプルムースのグラニデとタルト、もちろんありますよね?」
「タルトは作ってます。でも、グラニデは用意してないんです、この季節」
「、、、、。申し訳ないけど、予約、取り消してもらえます?」

あーんもう!どこもここも、駄目だなあ。せっかくスピちゃんが遊びに来てるんだもの。素晴らしく美味しいレストランにテーブルの予約を取りたいのに、3件とも振られちゃうなんて、、、。いつまでも工事中の「ル・レジャンス」はどうしようもないし、パンプルムースのデセール2種が両方ともそろわない「ジャマン」は行きたくない。でもねえ、「レ・ゼリゼ」は悔しいよねえ。今、私がパリで一番押しているレストランだよ。しかも、バターをほとんど使わない地中海料理を出し、クラシックエレガントな雰囲気は、スピ様の好みにも合っているのに。

「K子も好きなレストランでしょ?せっかくだから行ってみたい。昼も駄目なの?」と、スピちゃん。
「昼でもいいの、スピ?昼にすると、結局一日つぶれることになるよ」
「いいよ、別に。行ってみたい」スピのご命令に従い、早速電話。
「あの、金曜日のお昼、二人用の小さなテーブル、まだ一つ空いていますか?」
「大きくて快適なテーブルを用意できますよ、マダム」この声、覚えてる。メートルのアランだ。こんな優しく素敵をしてくれるのは、アランに決まってる。

そんなこんなで、期待と喜びに胸をときめかせて、半年ぶりの「レ・ゼリゼ」体験。半年前の、素晴らしい料理とセルヴィスが記憶に甦ってくる。嬉しいな、嬉しいな、嬉しいなったら嬉しいな。

夏の日差しがまだ残る、暖かなパリの昼下がり。シーズン着おさめになる予定の、麻のワンピースを纏って、「オー・シャンゼリゼ〜♪」と歌いながら、シャンゼリゼから一本入ったところにある、ホテル・ヴェルネに向かう。

1時前で、一番乗り。セルヴール達ばっかりがウロウロしてお客様がいなくてちょっと寂しいな。アランもいないよ。アランはどこ?案内されたのは、前回と同じ席。「前もここだったの。出来れば、他の席を試してみたいんだけど?」と、別のテーブルに変えてもらう。

奥の個室になっている辺りからは、天井のガラスを通して、太陽の光が射し込み、温室みたいになってる。いいね、あそこ、昼間なら。レトロクラシックな内装は前と何ら変わることなく、平和的で落ち着いた空間を作ってる。椅子、なかなかいいんだよね、ここ。

シャンパーニュをもらって、カルト吟味のお時間。確かここにはお昼のムニュがあったはず、と、見てみると、何とお昼のムニュの値段が460フラン。う、た、高くないか?確か昔は300フラン台でアントレ・プラ・デセールを出していたと思ったんだけどな。値上がりしてるよ。まあ、確かに素晴らしく美味しいし、前が安かったと言えばそれまでかなあ。安かったうちに、お昼に一回来ておけばよかったな。

2種類あるムニュのもう一つは、プラ・フロマージュ・デセール。これで340フラン(だったっけ?)。あ、これ、いいじゃない。夜もおよばれだから、あんまり食べちゃ辛いし、フロマージュも食べたいし。うん、これにしましょう。適量よ、きっと。

華やかなシャンパーニュに合わせて出てきたのは、緑のオリーヴ。えー、なにこれ?なんで夜と違うの?夜は、フォアグラとソモン・フュメのカナッペ。しかも、2回に分けて、セルヴーール君が優雅にセルヴィスしてくれたじゃないのさ!ブーブー!やっぱりお昼は手を抜いてるなあ。

カルトの説明をしてもらいながら、お料理の名前を眺めていると、あ、アランだ。VIPっぽいお客様を、奥の個室に案内してる。通り掛かりにこちらを見てニッコリ。スピと私もニッコリ。VIPを落ち着かせたアランが、こちらにやってくる。
「こんにちは、メドモワゼル。お久しぶりですね、お元気でしたか?」
「覚えてるんですか、私のこと?半年も前ですよ、前に来たの」
「覚えてますよ、もちろん。前はあちらの席でしたよね?」さっすがだなあ。これぞ、メートル・ドテルの鏡だよ。アランがいるだけで、雰囲気が全然違う。メートル・ドテルとしての存在感がすごいんだよね、彼は。

ameseアランの動きに見惚れているうちに、各種のパンがやって来て、アミューズが運ばれる。ソモン・フュメとカヴィア。パクンと一口。美味しいよ、とっても。でもさ、これ、夜だったら、シャンパーニュ・アミューズだよねえ。前に食べた、ウニのグルーテ(クリームスープ)みたいに、手が込んでるものを期待したのに。

そうこうしているうちに、プラが運ばれてくる。私のは「キャビオー(鱈)のロティ、ブランダードを敷いて。アサリとイカ添え」。スピちゃんのは「トン(マグロ)のお腹部分を軽く焼いて。夏野菜添え」。2杯目のシャンパーニュをもらって、いっただっきまーす!「ボナペティ、メドモワゼル!」アランのくしゃくしゃとした笑顔、という、最高の仕上げをしてもらって、魚にナイフを入れる。

“美味しい”という言葉以外に、美味しさを表現できる言葉ってないのかしら?日本語って、美味しさに関する語彙が少なすぎる、、、。一つのお皿の中で、崇高なハーモニーが鳴り響いている。ブランダードのニンニクの香りと柔らかさ、これと一緒に食べたときの、cabillouキャビオーの身の繊維の口当たり。それぞれに煮汁をほんのちょっとかけて置かれたアサリ達。もちろんこれは、手で戴く。バスク地方の小さなイカを噛み締めると、去年の夏を過ごしたアトランティックの海が口に広がる。これはもう、、、、。想像を超えた素晴らしい味に、しばし手の動きは止まり、茫然とした感嘆の眼をお皿に向けてしまう。

スピちゃんのトンもすごい。火を通すと硬くなりやすいトンの、いわゆるトロの部分だけを使って、軽く火を通した後も、脂が十分に残って、トロトロの状態を保っている。こんなトン料理、初めてだ。添えてある夏野菜には、今更何も言うことはない。

“極上”のセンスと技術。アラン・ソリヴェレが持っているのは、これなんだ。前に食べたときにも思ったけれど、料理だけなら、ここ、完全に3つ星に値する。たぐい稀な、そう、一度食べたら忘れられないような、そんな、記憶に残る料理を、アラン・ソリヴェレと彼のエキップ(チーム)は作っている。

fromage砕いたクルミと一緒に、各種フロマージュを味見。可愛いシェーヴル(山羊)と強めのヴァッシュ(牛)でまとめてもらったフロマージュは、どれもこれもうっとりの美味しさ。久しぶりだなあ、レストランでフロマージュを満喫したのって。最近はいつも、フロマージュに行く前に、死ぬほどお腹がいっぱいになっちゃって、フロマージュを諦めてばっかりだったもんね。

デセールは「フレーズ・ドゥ・ボワ(野イチゴ)のミルフォイユ仕立て」。8月に「ルイ・キャンズ」で食べたものと、原理は一緒。これはこれでとても美味しいんだけれど、fraises「ルイ・キャンズ」のものに比べると、全体のまとめ方がちょっと劣る。グラスも溶け出し気味だしね。きっと、ちょっと前に、出来ちゃってたんだろうね。私たち、いつまでもフロマージュにうつつを抜かしていたから、時間の進行状況が狂っちゃったんだ。

シェフ、メートル・ドテルと同じ名前のシェフ・パティシエ、アランが作るデセールには、前回、これ以上吐きようがないくらいに大きな溜息を吐いた。この時食べた「柑橘類のバヴァロワ」は、私の中での「99年のデセール」のトップの座を8月まで守り抜き、8月以降は「ルイ・キャンズ」のフレーズ・ドゥ・ボワとその座を争っている。

プティ・フールを摘まみ(これも、夜の方が、手が込んでる。あの素晴らしい、びっくりタマゴ、みたいのがないんだよ、K子。どう思う?)アンフュージョン飲みながら、今日のお昼の総括。

料理。これははっきり言ってもう、何も言うことはない。およそ想像がつく限りの料理よりも、もうちょっとだけ美味しい。パンも文句なし。デセール。美味しいよ。でも、前の方がよかったかな。前回が良すぎたのかしら?

セルヴィス。アランは素敵だけれど、他のセルヴール君達、質が少し落ちた?私たちの担当の人があんまりだったのかな?ホテルのセルヴィスらしく、右からの入り方、説明の仕方なんかは、相変わらず素晴らしいんだけど、ちょっと、存在感が気になったな。お客様の視界に入るとろこで、立ち話しないの。目障りでしょ!前のときの方が、全体的な距離感が上手く測れてた気がするな。ヴァカンス明けで、調子が戻ってないのかな?まあ、何はともあれアランにもう一度教育してもらいなね。

この日、一番イヤだったのは、テーブルのお花。ちょっとくたびれたカーネーション、これは良くないよ。オアシスがちょこちょこ見えちゃってるし。お花のことだけアランに言って、帰ろうかな、って思ったら、あら、アラン、もういないじゃない。会議が入っていて、さっき出ちゃったんですって。残念だわ。

お土産にお砂糖掛けのナッツをもらって(夜はバラの花もくれたのに!)、「レ・ゼリゼ」を後にする。また来たいな。近いうちに来たいな。高くても夜がいい、やっぱり。うん、「アラン・デュカス」に行く前に、絶対に来たいな。よし、来よう!

と言う訳で、この日記を書いている今日、9月23日、秋の到来をおゆわいするべく、「レ・ゼリゼ」のテーブルを取ってある。それではそろそろ、出かける準備をしようか。ピュスと一緒にちょっとお昼寝して、シャワーを浴びよう。一昨日から整えている体調は万全。今夜はどんな美味しいものを食べさせてくれるのかしら。今からうっとりだわ。


ven.3 sep.1999



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