何がどうなったって誰がなんと言おうと、うん、美味しいよ。「ラ・フェロヌリー」は美味しいよ。上手に料理を選べばね。
ひっさしぶりに、夜の「ラ・フェロヌリー」。よーく考えてみたら、どうも、ポ・ト・フを食べた初めての夜以来、ずっとお昼にしかこのレストランに来ていなかったみたい。リュ・ドゥ・ラ・シェズ(シェズ通り)にいつもと違った印象を感じながら、いい匂いに包まれたレストランに入る。
客の入りは遅く、引けは早い「ラ・フェロヌリー」。9時過ぎにようやく大方が埋まり、11時過ぎにはほとんどの客が引けてる。効率いい営業してるなあ、パトリックは。
アヴィニオンで開かれる結婚式に来たという、横の席のアメリカ人ご夫妻とのお喋りを楽しみながら、このレストランらしいお料理を楽しむ。
まずはお久しぶりの「ジャンボン・ペルシエ」。いつもよりほんのちょっとだけ、ハムの大きさが小ぶり。ハムの旨み、パセリの香り、ジュレの味、まさに絶妙。本場のブルゴーニュに行くと、これよりも美味しいジャンボン・ペルシエが食べられるのかなあ?とてもそうとは思えないけど。少なくとも私は食べてないわ、こんなに素敵なジャンボン・ペルシエを。
今夜のプラは、悩んだ末に「パンタード(ホロホロ鳥)のキャベツ蒸し煮」。ドーム型になったキャベツに覆われた、パンタードの足と肝。キャベツの上には、ベーコンが乗っかってる。すっごく、このレストランらしい料理だ。
質のいいパンタードの肉はもちろんのことだけれど、何と言ってもフォア(肝)の抜群の美味しさに舌を鳴らす。ベーコンの香りを受けて、甘く柔らかく蒸し上がったシュー(キャベツ)には満足の溜息。ああ、冬の味がする。説明の仕様がないくらいに、単純極まりない料理なのだけれども、とにもかくにも美味しいの!もう、それだけだよ、このレストランは。
散々悩んで、パンタードに負けた「サングリエ(イノシシ)のシヴェ(赤ワインと血の煮込み)」もさすがの味だし、ガルニのセルリ(セロリ)のピュレがこれまた美味しい。横のご夫婦も、鳥のパテ、ウサギやイノシシの味に、すっかりご満悦。シャトー・ムカイヨーを傾けながら、恍惚としている。
相変わらず、毒舌絶好調のパトリックがやってくる。
「シャトー・ムトンロチルド、知ってるか?」
「知ってますよ、もちろん」
「あのな、そこのテーブルにいるの、あれ、あそこのシャトーの息子だ」
「!?バロンヌ・フィリピンヌの息子ってこと?」
「うん、そう」ひゃー、やっぱりそういう人だったんだ。
年のいった叔父さまと一緒に入って来た、30代くらいの男性。席についたときから、なんか、この店では珍しいタイプの人だなあ、ちょっと違う雰囲気持ってるよね、ってずっと観察してた。さすがにどうして、そういう人でしたね。改めてよく見ると、確かに鼻に特徴がある。この鼻が、名シャトーの一族の証なのかしら?
「彼、独身だ。今度紹介してやるよ」とパトリック。どうぞどうぞ、よろしくお願いいたします。
ムトンロチルドではないけれど、パトリックがごちそうしてくれたボルドーを飲んで、カフェ・グラッセをデセールに食べて、カフェとカルヴァで胃を静めて、ごちそうさまでした。いつも美味しいお料理をありがとう、シェフ。また、うっとりするものを食べさせてね。ぶっきらぼうだけど、スマートなセルヴィスをありがとう、パトリック。今度は、ムトンロチルドの御曹司に紹介してね。
mer.13 oct. 1999