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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ル・ルレ・プラザ(Le Relais Plaza)

夕べは「コスト」だった。湖水地方で、ピュアな自然の洗礼を受けたばかりだというのに、その夜には、もう「コスト」で、俗悪な夜を過ごした。全くもうこれだから、、、。もうしばらく、自然の美しさの余韻に浸っていればいいものを、すっかりパリの雰囲気に戻ってしまった。自然もいいけど、「コスト」もいい。

客層、雰囲気、音楽、デコ、相変わらずすてきだ。イーサン・ホークまでそこにいるし。くー、やっぱりカッコイイねえ。さすが、ハリウッド・スター!連れている彼女は、有名なモデルらしい。ほんとにここはイケてるなあ。やっぱり「コスト」が一番だ。

と思って一夜明けた今日、「コスト」に負けないくらいに素晴らしい場所に巡りあった。プラザ・アテネの新しい「バー・アングレ」。

うっとりするようないいお天気。太陽の熱を受けてポカポカにあったまったバルコンで、ご機嫌なピュスは嬉しそうに飽きることなくゴロゴロを繰り返す。今のうちに楽しんでおきなね、ピュス。西の空がすごい灰色よ。もうすぐ雨が降るわよ。

見る見るうちに近づく雨雲。一緒にベランダで遊んでいた私は、溜息ついて部屋に入る。「ピュスも早く入りなさい。雨、降るわよ」って、言ってやってんのに、「しらないやい。もっとゴロゴロするんだい」なんていつまでもグズグズとバルコン遊びを続けるピュス。

ピカッ!ゴロゴロ!いきなり降りはじめた夕立にびっくりして、慌てて頭でドア明けて中に入ってくるけど、アハハ、案の定濡れてる。だから言ったじゃない、早く入りな、って。バカだなあ。

濡れた毛を毛繕いするピュスの横で、私も出かける支度。でもねえ、この雨じゃ外に出られないわ。小一時間待って、ちょっとだけ雨足が弱くなったところを見計らって、仕方なく靴を履く。濡れるだろうなあ。ピンクとオレンジを基色にした2つの小さなブーケを持って、外に出る。

いつもならクレマンソーからのんびり歩くところを、今夜は、ミロメスニルまで行って9号線に乗り換えて、アルマ・マルソーで地上に出る。んー、まだ降ってるなあ。でも仕方ない。近くだし、頑張って行っちゃえ。冷たい雨の滴を払って、回転ドアをくぐってほっと一息。プラザ・アテネのロビーに落ち着く。

満面の笑顔で近づいて来たところに、後ろ手に隠したブーケを出して二人で声を合わせる。
「ボナニヴェルセール、パトリース!」びっくりしたような、嬉しそうなパトリスの笑顔が可愛い。そう、今夜は「ル・レジャンス」の支配人パトリスの、何回目だか知らない(多分、45回目くらいかな?)お誕生日。日頃の感謝を込めて、色違いでおそろいのブーケを持って、パトリスにプレゼント。

「ありがとう。本当に親切に、、、」
「ありがとうはこっちのセリフ。親切に、、もそう。あなたがいつも、私たちにしてくれることには、私たち、本当に感謝のしようがないのよ」
「そう言ってもらえるとすごく嬉しいよ。ホントにありがとう」ひとしきり、感謝の辞の延べあったあと、出来たばっかりの「バー・アングレ」にパトリスが案内してくれる。

今夜はここが、アペリティフ会場だ。プラザ・アテネのバーは、今まで、ローマ式の美しい回廊があてられていた。表通りに面した部分はいつまでも工事中で、早く出来ないかな、ってとても楽しみにしてたんだ。なんでも、プラザ・アテネのバーとはとても思えないような、めちゃめちゃにイケてるバーになるらしい。こんな噂も聞いてたし、ワクワクしながらその完成を待っていた。

先週、ここに来た時に「来週からオープンだよ」と言っていたパトリスたちの言葉通り、この春のパリの話題をさらうバーになること間違いなしの、素晴らしい空間はその扉を開き、私たちを迎え入れてくれる。

すっごい!すてき!なにこれ!うっわー!ひゃあ!くうぅ!はーっ、、、う〜ん、、、この表現から、想像してください。ほんっとに素敵な「バー・アングレ」の雰囲気を。

anglais明るめの茶を基本とした壁の色。玉虫色に光るカーテン。外光を遮断するブラインド。大きなシャンデリアがどうしてこんな空間に似合うんだろう。ずっしりとした暖炉。背の高い、深く沈み込む大ぶりのソファ。流れるようなラインが優雅で美しいソファ。リンゴとクリスタルの素敵なオブジェ。葉巻やブランデーを並べた棚。インドあたりの東洋の神秘に西洋の廃頽が融合、そんな感のある内装のバー。

フィリップ・クルトというデザイナーが担当したんだそうだ。「NYのニューヨーク・パレスを作った人だよ」ってディディエが言ってた。ご存知ですか、Cさん?その上、客層がたまらなくいいんだ、これが。「コスト」系に比べると、年齢が少し高目の客層。その誰もが、“お金持ちでイケている”人々。ゴージャスに堂々と、いかにもブールな人たちだ。ビシーッとスーツの大きなオヤジ。濃く派手な化粧にシャネルスーツを纏う叔母さま。イタリア系のモードに身を包み、ベッドのようなソファでラヴシーンを繰り広げるカップル。1人で本を広げるBCBGっぽい青年。夕べとはまた一味違う、マン・ウオッチングを楽しむ。

「コスト」の顧客が“とにもかくにもイケている人々”であるならば、こちらは、あくまでも“アヴニュー・モンテーニュに相応しいイケてる人”が顧客。つまり、「コスト」では、センスがよければ安い服でもかまわないが、こちらは、高級ブティックのセンスのよさを身につけていなくてはいけない、そんな感じかな。

従業員の服も素敵。今まで、クラシックなホテルの制服を着慣れていたおじいちゃまが、モード系の服を着こなすのに苦労している。アハハ、肩のあたりが居心地悪そうよ。頑張って着こなしてね。これは素敵だ。めっちゃめちゃに雰囲気いい。すごいよ、って聞いてはいたけれど、予想以上だ。パトリスがご馳走してくれたシャンパーニュを飲みながら、来週以降のパリの話題のトップに躍り出るはずのバーをたっぷりと楽しむ。

んじゃ、そろそろ夕食に行く?このバーにずっといたいけど、また今度ね。名残惜し気にソファから離れ、ローマ回廊を抜け、「ル・レジャンス」の前を通って、そのまま奥のドアを開ける。今夜の食事は、プラザ・アテネの2件目のレストラン、「ルレ・プラザ」です。ここで食事をするはずだったのが、パーティーの貸し切りになっていてダメになっちゃったのは先週のこと。よかった、今夜はちゃんと、開いているわね。

二層構造になっている大きなサルは、こぎれいなブラッスリーのイメージ。アールヌーヴォーなステンドグラスに、ピンク系のデコラシオン。広いな、何人くらいはいるんだろう。100人は軽く超える。

広げるカルトの料理は、多種多様。サラダからスープ、パスタからカキ、各種お肉やお魚、グリル料理、、、。随分数があるね、これだけ作るの、大変でしょう。

評判高いスープの欄の中から、「アスペルジュトプティポワ(グリーンピース)のポタージュ」と「アントルコト(牛の部位)のグリル」を選ぶ。お酒は、ペサックの「ドメーヌ・デュ・アリヴェ」97年。お気に入りの「ラリヴェ・オ・ブリオン」のセカンドワイン。

asperge「ゴーミヨ」で14点を取っているレストランのスープは、その評判通りの素敵な料理だ。春の香り満載のプティポワのも、ポティロン(カボチャ)のも、このランクのレストランで出すものとしては、見事。お隣と同じように、銀のレードルで、お代わりを注ぎに着てくれるのも嬉しい。でもね、調子に乗って、この美味しいスープをたくさん食べ過ぎて、プラを目の前にする頃には、もうお腹一杯、しかも、お腹痛くなってきちゃった。

目の前にデーンと並ぶ、おっきなステーキ肉を4分の1、食べたかどうか。ガルニのトマト、インゲン、そして自家製だと言うフリットも味見程度。まあでも、いくらお腹の調子がよくないとはいえ、「すっごく美味しい!」と感動するような味ではなかった。そこらのカフェやブラッスリーでよく見かける、フランス人が一番好きな食べ物、「ステーク・フリット」(ステーキのフライドポテト添え」と、何ら変らないプレゼンテーションも、魅力に欠ける。スープが素晴らしかっただけに、プラは全然つまらなかったな。

このスープはいい。お隣の「テアトル・シャンゼリゼ」の観劇の後、小腹が空いた時に、スープだけ食べに来よう。で、さっさと食べて、さっさと「バー・アングレ」に場所移して、とっぷりあそこの雰囲気に浸るの。いいじゃない、このコース。

そうは言っても、それなりにいいレストランでしょう、ここ。従業員は優しいし、客層もスノッブでないし変に悪くもないし、旅行客がふらっと入っても、オッケーだ。料理の種類も豊富だし英語表記もあるし、安心して来られるんじゃないかな。

「終わりですか?」
「ええ。ごめんなさい、こんなに残して。スープ、食べ過ぎちゃったみたい」
「かまいませんよ。デセールは?」
「レジャンスで食べることになってるの。ラディション、お願いできます?」小さすぎるくらい小さなテーブルと、英語とフランス語が飛び交う喧騒を後にし、「ル・レジャンス」に戻り、パトリスの歓迎を受け、テーブルに案内してもらう。

食後のお茶飲んで、各種お菓子を食べ散らかして、今日のディネを終える。お客様の誰もいなくなった、まるでダンスパーティーが終わった後のようなサロンで、いつまでもパトリスたちとおしゃべりして過ごす。

「バー・アングレ」、「ルレ・プラザ」そして「ル・レジャンス」と、プラザ・アテネの食空間を巡る夜の締めくくりに、ブーケを両手にしたパトリスと一緒に写真撮って、仕事への決意を新たにした夜でした。

お誕生日おめでとう、パトリス。


mar.4 avril 2000



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