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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ミシェル・サラン(Michel SARRAN)

連日盛り上がっているクープ・デュ・モンドの喧騒から離れて、優雅なランチを楽しみに行く。久しぶりだねえ、日記に書くに耐えうるレストランに足を運ぶのは。

「ミシェル・サラン」。ミシュラン1つ星、ゴーミヨは17点と評価の高い、トゥールーズの名店。去年か一昨年のゴーミヨで、この地方の期待の星、と唄われたレストラン。ずっと前から気にはなっていたのだが、なかなか訪れる機会がなくってやきもきしていたのが、やっと実現。暑さにボーッとなりながらも、うきうきしながら、質素で上品なドアを開ける。

「ボンジュール、メドモワゼル」とまず笑顔で迎えてくれたのは、なんとムシュ・サランその人。え?何でシェフがこの時間に客席にいるの??なんて疑問をものともせず、「どうぞこちらへ」とシェフ自ら奥に案内してくれる。なんだかなあ、いかにもトゥールーズなアットホームな雰囲気だなあ。

店内はトゥールーズにしてはびっくりするくらいモダンでセンスがいい。テーブルの大きさ、オブジェなども好感が持てる。

さらに奥に進むと、外からはちょっと想像できないくらい大きなテラス。大きな樹々がなんとも気持ちのいい風と木陰をつくりだしている。横は学校なのだろうか、子供たちがプールではしゃいでいる音が聞こえてくる。きらめくような夏のイメージでいっぱいだ。

まずは冷たいシャンパーニュで乾いた喉を落ち着かせる。細かな泡が喉に気持ちよく滑り込んでくる。うん、いい感じ。アヴァン・タミューズ(アミューズの前、食前酒用に出てくるつまみ。)の素敵な味に、この後のお料理に期待が高まる。特に「トマトの飴がけ」は素晴らしい!プチトマトを飴でくるんで、素晴らしく美味しい岩塩と胡椒がほんのちょっとかかっている。トマトと飴の甘さが塩と胡椒で引き立って何とも言えない美味しさ。夏とムシュ・セランのイデ(アイディア)が上手く組み合わさった傑作。うん、今日の食事は成功だな、きっと。

周りはビジネスランチを含み、満席。平日のお昼なのに、きちんとお客さんが入って偉い偉い。さて、何を食べようかな。これまたあっさりと上品なカルトから、ムニュ・デジュネ(ランチメニュー)を選ぶ。アントレ・プラ・デセールにカフェそれからお酒も込みで240フラン。魅力的なお値段だよね。さて、どんな幸せを食べさせてくれるのかな。

まずはパン。
「オリーヴ、カンパーニュ、白、どれになさいますか?」と笑顔の可愛らしいセルヴーズ(女性の客席係)が籠に山と積まれたパンを運んでくる。南仏の香りを漂わせる、というムシュ・サランに合わせて可愛い形のオリーブパンをかじってみる。いけるんだ、これが。ちょっとパサッとした感じの歯ごたえのパンから、強すぎないオリーヴの味がしみ出してくる。いいですねえ、このパン。もちろん自家製。

アミューズは「エルブ(ハーブ)を散らしたソモン(鮭)のマリネ」。オイルの香りが夏を感じさせるさわやかなお料理。トゥールーズで初めて、美味しいお魚を食べた気がする。

コート・ドゥ・ガスコーニュのフレッシュなヴァン・ブラン(白ワイン)と合わせたのは、「タラのミルフィーユ仕立て、タプナードとエルブ添え」。サクサクのパートフィユの歯ごたえが素敵。タラはちょっと塩が抜けきれていなかったけど、タプナードの塩気が足りないくらいだったので、中和してOKというところか。エルブのサラダが夏を主張していて、さわやかなお料理だ。

プラは「フォアグラのポアレ、ピュレ・ドゥ・ポムドゥテール(ジャガイモのピュレ)添え」。どーんと大きなフォアグラが、これまた大量の黄色いピュレの上に物々しく鎮座している。うっ、大きい、、、なんて躊躇したのはほんの一瞬だけだった。このお料理、何が凄いかというと、ピュレをバターでなく、オリーブオイルでつくっているところ。よーく見ると、ピュレの周りからオイルが滲み出している。このオイルで和えたピュレは重くなく、喉越しも素晴らしくよく香りも高く、優しくフォアグラを包み込んでくれている。フォアグラはちょっと血抜きが不完全だったけれど、カリッと上手く焼けていて、舌触りもいい。とろとろのフォアグラとピュレがとっても仲良しなのが口の中でよく分かる。アクセントはもちろんオリーヴ。砕いた黒オリーヴがオイルにパラパラと散らされている。バターたっぷりの普通のピュレとでは間違いなく途中で食べつかれてしまうに違いないフォアグラに、たっぷりのオリーヴオイルを合わせてくるなんて、素晴らしいね、ムシュ・サラン。

デセールのフレーズ(苺)のグラタンもなかなか。全ての料理において、盛り付けのセンスも良く、量も適量。この地方の人たちには、少し足りないくらいじゃないのかな。

美味しいカフェと、この地方ならではの、アニスを効かせたカヌレをつまみながら幸せに浸っていると、ムシュ・サランがご挨拶にやってくる。髭を伸ばしているので、更けて見えるが、ムシュ・サランはまだ30代。はにかみ気味なかわいらしい笑顔がチャーミング。あーだこーだとしばらくおしゃべり。14日の日本・アルゼンチン戦をご招待で見に行ったらしい。いいねえ、地元の名士は。

赤いワンピースをさらりと着こなしたマダムも可愛らしく、ほんとにほのぼのと、それでいて上品な雰囲気。従業員はコミ(見習い)の姿勢が悪いのが気になるくらいで、後はまずまず。一つ星のレストランとしては結構いい部類に入るだろう。ムシュ・サランの控えめな雰囲気からはちょっと想像しにくい、ゴーミヨ好みの華やかで鮮やかなお料理は、このレストランに来る人を幸せにしてくれる。カリテ・プリ(コスト・パフォーマンス)もなかなかだし、お気に入りの一件になってしまった。

笑顔がチャーミングなサラン夫妻に見送られ、すっかりいい気もちになって席を立つ。おっと忘れるところだった。次回の予約を入れて行こう。30日の夜。今度はアラカルトで、彼の得意料理を味わってみよう。

またね、ムシュ・サラン!


ven.19 juin 1998



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