「ああ、メドモワゼル、いらっしゃいませ。お元気でしたか?」
にっこり笑顔のメートルがドアを開いて私たちを「レストラン」という素敵な空間に導いてくれる。
そう、今夜は10日ぶりのサランさんちです。
「この間と同じ席を用意しました。よろしいですか?」と、夜風か涼しいお庭のテーブルへ。ムシュ・サラン、マダム、ソムリエールも次々挨拶にやってくる。本当にこのレストランはアットホーム。トゥールーズのいいところ満載、といった感じです。
30分近く、あーだこーだと悩んでやっとお料理とお酒を決めて、シャンパーニュと飴かけトマトを楽しみながら周りを見渡す。昼間の客層に比べて夜はカジュアル。結構年齢層の高いグループが多い。
「いいね、年とってからこんなレストランでみんなで食事できるのって」と友人。ほんと、いいよね、のんびり優雅で。
相変わらず美味しい南のお料理をたっぷり楽しんで、デセールに取りかかる頃、サランさん登場。デュカスやゲラールを始め、南の一流シェフのもとで修行をしたサランさんは、何と若かりし頃、医者の道を目指していたのだそうだ。思わず「えーっ!!!???」ってみんなで笑っちゃいました。そのくらい、医者という職業からは想像できない可愛らしい方なのです。
お料理を始めたきっかけは、オーベルジュを経営していたおばあさんの影響。今でも、南西部の田舎でオーベルジュをやっているのだそうだ。レストランの話が弾み、私たちのグラス(アイスクリーム)が融けてゆくのも構わずに「ちょっと待ってて!見せたいものがあるんだ!」と持って来てくれたのは、フランスの南の一流シェフを紹介したレストランの本。辻が監修した日本語の本だ。
「僕が初めて載った本なんだ!見て見て」と嬉しそうに、しおりを挟んだ自分のぺージを広げてくれる。これがなかなか良い本で、サランさんのページだけでなく、ついつい他のページにも目を奪われてしまう。
「この秋ね、日本のね、ナゴヤのヒルトンから一週間招かれてたんだ。父の具合が悪いので今回は残念ながら諦めることにしたんだけど、是非近いうちに日本にいきたいんだ。香港や台湾にはいったことあるんだけど日本はまだなんだ。つい最近まで、このレストランにも日本人が働いてたんだよ」と、日本料理について、いろいろ尋ねてくるサランさん。ごめんね、あんまり日本料理のこと知らなくって。
美味しいお料理と、サンパな雰囲気を今日もありがとう、サランさんとスタッフの皆さん。本当にここは、トゥールーズらしいのんきで楽しい、そして上品なレストランだ。また来れるといいな。もう無理かな、あと一ヶ月じゃ。ごちそうさまでした、サランさん。
すっかりいい気分で帰りのタクシーに乗って、
「で、今夜の試合はどっちが勝ったの?イングランド?」
「ノン、PKでアルゼンチン。ベッカムが退場だったのさ!」という運転手さんの答えに、一気に酔いも覚めてしまったのでした。あーあ、、、。
mar.30 juin 1998