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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ル・ディ ヴァン (Le Dix Vins)

さて今夜は10日ぶりの「ル・ディヴァン」です。

atomo8時半で、もう真っ暗。冬に向かって驀進中のパリ。ひっそりした小路にボォーっと頼りなげな光が瞬いてる。そっと扉をくぐると、既に3分の1ほどのテーブルを埋めた人々の笑顔とオヤジの後ろ姿が目に飛び込んでくる。オヤジ、早く気づいてね。5秒くらいの後、ようやくオヤジが私の視線に反応する。

「やあやあ、ボンソワー!元気だったかい?」
「元気です。オヤジは?」
「悪くないよ。予約、してある?」
「うん。ピュスで3人」
「OK、ちょっと待っててね」

だいぶ待った頃、ニコニコマダムがやってくる。きっとオヤジは、他の客に気を取られて、私たちのことなんか忘れちゃったんだ、、、。
「こんばんは。元気でした?」
「ええ、マダムも?」
「元気よ。えっと、あのね、申し訳ないけどまた今度来てくれないかしら?」
「また今度、ってどういう意味?」
「今夜はいっぱいなのよ、テーブル」
「え?だって、私、予約しましたよ。昨日の夕方」
「あらほんと?ちょっと待って、、、」と、予約表を確かめるマダム。
「ピュ、、ピュ、、。あ、これだわ!ちゃんと載ってるじゃない、なにやってるのよ!」と、息子だろうか、バーの中にいるおにーさんにブーブーブー。
「あ、ほんとだ、、、」と、これまた、オヤジに似たのか、とぼけたおにーさんが返事してる。
「ごめんなさいね、こちらにどーぞ!」この家族、おかしいよね。

席に落ち着き、とりあえずの駆け付け一杯。ゲウルツをアペリティフにもらって、乾杯!久しぶりに、会社の話をた〜っぷり聞く。懐かしいなあ。それにしても、変わってないわねえ、会社って。

carteお待たせ!とばかりにウインクしながら、オヤジが黒板に書かれたカルトを持ってやってくる。
「ところで、君のカメラは元気かい?」ちょっと遅れて、カルト・ドゥ・ヴァンを持って来てくれるのはマダム。
「ところで、あなたのカメラはどこ?」そうだった。この二人、デイジーのファンだったっけ。この間も、デイジーに夢中になっちゃって、私たちにご飯食べさせてくれなかったっけね。

期待に目を輝かすオヤジにデイジーを渡して一枚撮ってもらって、ご飯の開始。マダムは、横のテーブルの人たちに、このカメラ、すごいんだから!と、デイジーについて大いに語ってる。

アントレに選んだのは「メルラン(鱈の一種)のフリ」。いわゆる普通のフライを期待していたのに、出てきたのは、丸ごと一匹のメルランをオイルで焼いたもの。うわぁ、おっきいよ。大体、これをフリって呼んでいいの?それともフリには、他にも意味があるの?ホロホロの身は甘く柔らかくて美味しい。

合わせたお酒はカンシー。ソーヴィニオン・ブランだけで作る、さっぱりあっさり、そしてフュメ。同じ地域に一応は入るピュイイ・フュメの影が見え隠れする。

gigotプラは「ジゴ・ロティ」。仔羊ちゃんの骨付き腿肉。仔羊らしい匂いと脂の美味しさを堪能。ガルニのピュレも、相変わらず美味しいよね、クラシックで。仔羊ちゃんには本来ボルドーを合わせてあげたいのだけれど、まだ秋も浅いし、ちょっとそういう気分じゃない。軽く楽しくボジョレーのジュリエナにしましょうかね。キュポン!とオヤジがコルクを引き抜いてトクトクトクと注いでくれたジュリエナは、それなりに落ち着きをもって、かつ、ヤンヤヤンヤと、明るく仔羊ちゃんを盛り上げてくれた。

それにしても、オヤジ、今夜は機嫌がいいなあ。いや、前回も良かったけど、今夜は、顔のたかがはずれちゃった、って感じ。可愛いおんなのこを二人も連れていったから、嬉しかったんだろうな。

40席あまりの小さなレストランは、満員。とっくの昔に2回転目に入っているテーブルもあるし、バーではウェイティングの人たちで大賑わい。客層は、相変わらず地元常連、って感じ。

taeteデセールは、クエッチュのタルト。秋に出回るプルーンの一種のこの果物、フィグと同じように、生よりも焼いて食べるのが私は好き。グラス・ヴァニーユと粉砂糖までかかって、なかなか可愛く、そして美味しいじゃない!残ってるの、おみやに包んで欲しいなあ。味見させてもらった、フィグ・ロティも、アツアツトロトロ、そしてフィグの美味しい香り凝縮で、これもなかなか。お気に入りのジュランソン・ドゥーをなめながら、満足のデセール時間。

カフェやお茶を飲んで、たくさんお喋りして、さあ帰ろうか。ロウソクも短くなってるしね。最後までエヘエヘ笑顔の消えないオヤジと握手して、ニコニコマダムと笑顔かわして、「ア・ビヤント(またね)!」

それにしても、いいところを見つけたよなあ。お料理は安くて美味しいし、お酒は楽しく選べるし、雰囲気はいいし居心地もいい。おうちから近いのも、嬉しいよね。おしゃれを楽しむレストランではないけれど、誰とでも相性の合いそうな、サンパレストラン。だれか、うんちく嫌いな酒飲みの子、遊びに来ないかなあ。高級お酒は置いてないけれど、可愛く気軽で安心して楽しめる、そんな美味しいお酒がたくさん用意してある、素敵な街の食堂だ。


sam.18 sep. 1999



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