17区の高級レストラン「アピシウス」が、去年の12月、8区にお引越しをした。リュック・ベッソンの助力を得て、8区は閑静なアルトワ通りに建つ、旧アルトワ伯(ルイ16世の弟君ですね、確か)の邸宅が新店の場所。年末に取材に行った時、その瀟洒な佇まいの館と広い庭に、ここはパリじゃない〜夢を見てるんだ〜、と、ひどい風邪のせいでフラフラになった頭でボーッと考えたのを覚えてる。贅のあるクラシックな空間に、オーナーのヴィガートさんと奥様のナタリーの美的センスを品よくあしらい、それはそれは素敵な内装のレストランに仕上がった。あんな雰囲気を持つレストラン、ほかに見たことない。建物の美しさを120%生かして、個性的でほれぼれするような美しさを持つ客席と天井の装飾画が見事なバー、それに庭を望む広くて贅沢な厨房を実現させた。いよいよ本格的な3つ星狙いの体制か、と巷では言われている。
リニューアルオープン直前にヴィガートさんに食事に招かれた友達は、
「すーばらしい。最高だよ!」と絶賛したけれど、移転直後のバタバタ時にはやっぱり行きたくない。しばらくまって落ち着いてから行きたいな。と思っていたところに、料理人の友達から嬉しいご招待電話をもらう。やったー!うれしい!絶対行きまーす!!大西洋に浮かぶ、ジャガイモ島(ノワールムティエ島というのだけれど、ジャガイモが名産なのでジャガイモ島と呼んでる)で、地平線や水平線それに一面に広がるジャガイモ畑に囲まれてのんびり癒されていた心は、いっきに数百キロの彼方にあるパリ8区に飛んでしまった。
フランス建築の美しさの典型、みたいな、何度見てもほれぼれする外観にため息。芝生中央にのさばっていた陶器製の仔豚たちは、かわいそうに、端に追いやられている。かわいいのになあ。天気がよくなる夏、バラの花も咲きそろった庭を眺めながらの食事やアペリティフはどんなに素敵だろう。バーだけの利用も出来るので、お酒だけ飲みに来たいな、と思ってる。シンプルかつ個性的にセッティングされたテーブルを愛で、カルトを開く。クラシックというか、高級レストランの雰囲気とはちょっと離れた、ビストロ的でベタな料理が得意というヴィガートさん。豚の足や頭を使った、ガツンとくる料理も多い。めちゃめちゃセンスのよい内装とちょっとミスマッチなところが楽しい。やっぱりこういう料理を試さなくちゃね!
うわあ、アミューズからして、ベタだ〜。思わず笑ってしまう。サーモンの切り身とニンジン、ジャガイモ、タマネギ、ケイパー。サーモンをニシンに変えたら、ビストロの定番ニシン&ジャガイモのサラダになるよね。サーモンの切り方も思い切りオーソドックスなら、ニンジンなんてお花の形になってるよ!いいねえ、周りの高級店のクールビューティな流れをものともせず、ベタベタ路線で行くのって。あたりまえだけれどおいしい。
パン、どこの店のだろう?つくってるのかな?すごーく美味。よろしかったら半分ずついかがですか?というメートル氏のお言葉に従い、アントレは2種。
最初のアントレは、「フォアグラのポワレ、黒ダイコンのコンフィ」。カリリとした表面とトロトロの中身のコントラストが素敵なフォアグラだ。コンフィの強すぎない甘味もいい感じ。王道のフランス料理ですねえ。こういうの食べると、あー、フランスにいてよかったー、と思う。
次のアントレは、「ラングスティーヌのティエッド」。タルタルにしたラングスティヌを熱いお皿に盛りつけてその熱で軽く温めてある。スッとあしらったひげが、生前の姿を思い起こさせる。周りにかかっているソース、さっきのフォアグラのに似てるね。甘くって。熱でエビの甘味が出ていて面白いけど、私は冷たいままのラングスティヌの甘味の方が好きかなあ。でなければ、やっぱり丸ごとポワレするか。どっちつかずで、ちょっとピンボケな感じ。
プラは、やっぱり「豚足のガレット」でしょう。ゼラチン質たっぷりの豚足を細かくほぐして香辛料やハーブと一緒にガレットに仕立て直して肉汁を添えた一品。どうだ、これぞフランス料理!といわんばかりの迫力を持ってテーブルに運ばれてきたそれは、どう考えても1人分の域をはるかに超えている。でもこれを、フランス人はうっとりして食べきるんだよねえ。潔く焼けた表面は香ばしくておいしいし、中身の味の迫力やテクスチャーも見事。とっても美味。さすがはこういう料理を得意としてるだけのことはある。(実際、ヴィガートさんは、料理をほとんどしないのだけれどね。この昼も、客席を嬉しそうにずっと回ってた。腹心のセカンドが2人もいて、彼の料理をしっかり作っているんだそうだ。)でもやっぱり食べ切れな〜い。すごくおいしいけれど、無理がある。
オープン直前にここの料理を食べた友達はフランス人。彼が絶賛した理由がなんだかとってもよく分かった気がする。これ、フランス人には堪えられないんだろうねえ。付け合せのハーブサラダがとてもおいしくないのに、ちょっと驚く。全く葉っぱの味がしないんだもの。これはよくないと思うな。
おやつは「キャラメル尽くし」。料理はいいけどデセールは全然ダメ!と、くだんの友達が言っていた通りの味かな(笑)。もっとも、彼も私も、デセールについては、とてつもなくうるさい。基準がジルちゃんだったりカミーユだったりクリストフだったりする訳だから。
プリン、タルト、メレンゲ、アイスクリーム、飴、焼きリンゴなど、様々なお菓子でキャラメルを表現。もちろんまずいわけでは全然なく、それなりにおいしいけれど、お菓子としてだけだったら青木さんやエルメの作品の方がおいしいし、何よりこんな盛り付けでは、レストランデセールとしての醍醐味が全然感じられない。ベルナルドーが開発したサーディン缶用のお皿(四角い缶をそのままサーヴィス出来る形の皿)に盛り付けたイチゴのサラダはかわいかった。緑茶のソルベも爽やかでいい感じ。こっちがよかったな。プチフールたちも、おいおい、と思うような甘さで、確かに、デセールはここ、いまひとつかも。
厨房にいる知り合いに、厨房とカーヴを見学させてもらう。あ、リュック・ベッソンだ。カーヴでなにしてるんだろう?そういえば、リュック・ベッソンて、シリノさんに似てない?ちっちゃくて目が奥の方から光ってて、ちょっと気難しい顔してて。似てるよねえ?
ダイナミックで迫力のある無骨な肉料理はさすがだと思う。近くのテーブルで1人、豊満なランチを楽しんでいた、これまた豊満なお客様が食べていた牛肉やピュレ、他のテーブルのアニョーもおいしそうな匂いをしていた。今度来るときは、そういうものを食べようね。デセールはパスして、横のバーでフルーツのリキュールでも楽しめば完璧だろう。楽しいランチをごちそうさまでした、Mさん。今度は、Mさんの料理をごちそうしてくださいね。私はあなたの料理がだーい好きです!
lun.25 avril 2005