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グルマン・ピュスのレストラン紀行


メゾン・ブランシュ(Maison Blanche)

アヴニュー・モンテーニュには、華やかなオート・クチュールのメゾンやシックな宝飾店がずらり軒を構えている。通りを横切ることすらためらわれてしまうような、このパリ随一の高級通りに、飲食店は5件しかない。コスト&ガルシア・プロデュースの「ラヴニュー」、プラザ・アテネに入っている「アラン・デュカス」と、このホテルのセカンド・レストラン「ルレ・プラザ」、、パリのあらゆる飲食店の中でもっともチップ収入が高いと密かに評判の「バー・テアトル」、それにテアトル・シャンゼリゼに軒を借りた「メゾン・ブランシュ」。麗しいアヴニューにふさわしく、どの店もそれぞれ評判高く、この通りに群れるパリのオハイソな方たちのハートをぐっと捕らえて離さない。「バー・テアトル」を除き、全てこの3年の間に今の形になった、というのも、流行への感度の高さの表われだ。

ブラン・ニュー、というにはちょっととうが立ってるが、この通りの一番新しいレストラン「メゾン・ブランシュ」に、ようやく足を運ぶ。もともと「カンズ・モンテーニュ」という名前だったシックなレストランは、1年ほど前に、モンペリエの3つ星レストランの経営者、双子シェフのプーセル兄弟によってリニューアル・オープンされた。テアトル・シャンゼリゼの上に位置するレストランは、ガラス張りの大きな窓越しにパリを一望出来るという、贅沢なロケーション。もともとスノッブなパリジャンで賑わっていたレストランだが、高名な双子シェフの手によって一気に名声を高く上げた。

行きたい行きたいと思いつつ、なかなか訪れる機会のなかったレストランを目指し、嬉々としてアヴニュー・モンテーニュを闊歩。テアトル横の入り口を入り、フランスならではの遅いエレベータで上へ上へと上昇する。

salle暗いエレベーターホールからレストランの受付へと足をふみいれると、あまりの明るさに目が眩む。吹き抜け2階分のガラスの向こうに光にあふれたパリが広がり、レストランの白を基調とした内装に屋外の太陽が反射している。うわあ、なんて開放感。親密でコージーなイメージのパリの普通のレストランとはえらい違いだ。高い高い天井、二層に分かれた広い広い客席、そしてどこまでも広がるパリの屋根。お昼だからこんなに明るいんだろうな。夜になれば、また雰囲気が違っておもしろいだろう。対照的に黒のスーツに身を包む、スマートな兄さん姉さんたちにコートを預けてテーブルに案内してもらう。椅子に対してテーブルが低めなあたり、モード系を意識しているのを感じる。

お金をかけてないのか、たんに垢抜けないのか(モンペリエだし(笑))、テーブル・デコにしてもカルトにしても、完璧なスマートさはないのだけれど、そんなハードの部分を補ってあまりあるのが料理、ではなくて、客層だ(笑)。どう考えてもこのアヴニューのブティックであつらえたとしか思えないスーツやジャケット、パンツに身を包んだ、人骨卑しからぬ紳士淑女の皆様が、次々とこの白の空間へ入ってくる。時折聞こえてくる英語に、いや、アヴニュー・モンテーニュあつらえでなく、フィフス・アヴニューかサヴィル・ロウ製もあるかもしれない、などとも思ってみる。昼下がりの「フォーシーズンス・ホテル」のサロン顔負けの、お金持ちの集合体だ。もう少しカジュアル、というか、いわゆるムーディーな感じの人が多いかと思ってたのになあ。そういう人たちは、夜来るの?こんなんだったら、もっときちんとした服を着てくるべきだった。ちょっと反省。せめても、と、とりあえず背筋を伸ばしてみる。

そんな、一気にこのレストランの雰囲気を完璧にしてくれているお客様達を楽しく眺めながら、料理の選択。多いね、数が。作るの大変だろうに。「モンペリエの3つ星と、基本的には同じものを作ってるんですよ」と、かの地で働いていた知人の説明を聞きながら、カルトを眺める。うわあ、夏向き、というか南の料理、って感じだ。いいなあ、南に行きたくなっちゃうよ。

amuseシャンパーニュ飲みながらちっちゃなフガスを食べ終えたところへ、アミューズが運ばれてくる。牡蠣が2種類。殻つきのままトリュフのスライスを添えたものと、グラスに入れて上に青リンゴのソルベを乗せたもの。牡蠣とトリュフねえ、、、。疑い深く口に入れたこの二つの食材の相性がいいのに、ちょっとびっくり。以外に合うんだなあ。考えてみれば季節もぴったりの二つだし、なかなかいい組み合わせかも。青リンゴソルベの方は、エリック・ブリファーがアミューズで出してくれた青リンゴのグラニテを敷いた牡蠣とほとんど同じ。おいしいけれど、じゃあどっちがよりいい?と聞かれれば、ためらいなく、ブリファーの、って答える程度。「ル・レジャンス」で食べた、あの牡蠣と青リンゴグラニテは、生涯最高の生牡蠣体験だった。期待していたよりもおいしい出だしに嬉しい驚き。しょせん、デュカスにおける「スプーン」か、と思っていたけれど、彼が言うように、ちゃんと料理を作っているらしい。次の料理が楽しみになってきた。

homard「オマールエビのプレス」は、モンペリエの3つ星「ジャルダン・デ・サンス」のスペシャリテでもある。オマールをテリーヌに仕立てて鴨のハムで巻き込んだ料理。アクセントに、オマールのぶつ切りに乗ったメロン。あはは、こんな時期にメロンに会えるとは思わなかった。メロンとの遭遇に感動している私に、「向こうじゃ、今の季節でもありますよ」と、知人が不思議そうに言う。いいなあ、南は。一年中メロンが食べられるなんて。

「おいしい!」 この料理をひとくち食べた感想はこれ。よくできてる。「モンペリエと同じもの、、、」と彼が言ったのは本当だ。オマールとそのテリーヌが、きちんと作ってあって好感が持てる。鴨のハムもおいしいけれど、塩がちょっと強すぎて、優しいオマールの甘さを殺しぎみなのがちょっと残念かな。二重じゃなくて一重巻きでいいのに。「3つ星の方ででは一枚しか巻いてないんですけどね」と、知人。うん、一枚の方がバランスいいだろう。メロンがもう少し甘みが強いともっといいなあ、と思うけれど、この季節だもの、しかたない。夏にもう一度、この料理にチャレンジだね。

中央に置かれたインゲンのソテーは、オマールやハム、メロンと相性がいいわけでもなく、はっきり言っておいしくもなく、なかったらもっと完成された一皿になる思うけれど(色を添えたいなら、せめてほかの素材でもっとおいしく作ってください)、全体としては、とてもよくできた料理で、もう2年半も前にあの暑い午後のひとときを過ごした、夏色のレストランで味わった料理たちの思い出が、脳裏につぎつぎとよみがえってくる。

foiefrasiプラは「フォア・グラのポワレ」。目の前に置かれた皿の盛つけが懐かしい。あの楽しかったモンペリエの午後、アントレに食べた料理の皿のデコレーションが、確かこういう風にうずまきだった。バニュルスとゴマで味をつけられたフォア・グラは、ソースの味や焼き加減は絶妙なのだけれど、肝心のフォア・グラの質が、もう少しよかったらいいのになあ。悪くない、でも、もっともっとおいしくなるうる。一切れにして、その分、質を1.5倍にしてくれたら、うっとりするできばえになるのになあ。技術がしっかりしているだけにもったいない。

シャトー・ペッシュ・オのテット・ドゥ・キュヴェはすばらしいの一言。99年なんて誰が信じる?ドライフルーツや香辛料のかおりたっぷりで香ばしさも適度。ソムリエは迷わずデキャンティングしたけれど、これはあたり。「すごいいいお酒なんですよ」と選んでくれた知人に感謝。やっぱりその土地のワインは、その土地の人に聞かなくちゃね。もう少し古いミレジムを飲んでみたいなあ、このシャトー。コトー・デュ・ラングドックの逸品だ。

pfアヴァン・デセールには、モンペリエ同様、ガラスに入ったお菓子が出てくる。ショコラとクレームの2層になったこのお菓子が、なんだかとってもおいしいぞお。クレームの空気のような軽さとごく控えめな酸味がみごとにショコラに調和してる。うっまー!

goffle「暖かいゴーフル、アプリコ、フレーズ・デ・ボワとハチミツグラス」が今日のデセール。ゴーフル好きなんです、私。それに、双子シェフの本拠地の特産アプリコに(どうしてこの時期にあるのかは、もう問わないことにする)、これまた大好きなフレーズ・デ・ボワ(森イチゴ)とハチミツアイスがかさなっちゃあ、食べないわけにはいかない。カボチャの種を散らしたこのお菓子も、アヴァン・デセール同様、なかなかいいできばえ。うーん、ちゃんとガストロしてるレストランだなあ。

「カフェにしますか?」とセルヴールがやってきたのをきっかけに、シェフに会いに行こう、と席を立つ。階段を上ったところに広がる上階のスペースの広さにびっくり。
「うっそ?何人入るの、全部で?」
「すっごいなあ、100は余裕で超えるでしょう?150くらいない?」思いがけず広い(でも下が劇場なことを考えると当然な)サルから、緑おいしげる、室内に比べると小さく見えるテラスの手前のテーブルに、おや、双子の片割れがいるぞ。ロランとジャック、どっちなのかは、私には区別がつかない。

「おやあ、XXじゃないか!何してるんだ、こんな所で?」知人の姿を目に留めた、片割れともう1人のなかなか素敵なオジサマと立ち話。「ジャルダン・デ・サンス」をはじめとする、双子のすべての店のオープニング・ディレクターのような存在のダンディなオジサマ(ティエリ、だったかな、お名前は)は、春には丸の内に出来る新店の準備にこれから忙しくなるらしい。片割れは(どっちだったっけ〜?)、サラリと黒のシャツに身を包んでいるものの、その純朴そうなお顔が、やっぱりモンペリエっぽいんだよねー(笑)。しばらくおしゃべりしたあとで、奥の厨房にも遊びに行く。昨日から新たにシェフとして働いている、これまた気のよさそうな青年(こっちの名前は、完全に覚えてない、、、)に紹介され、厚い手を握る。うん、おいしそうなもの作りそうな、いい表情してるよ。過酷なパリで頑張ってね。

温室のようなレストランでいただくおいしいラングドックの味は、パリではとても新鮮に感じる。図らずとも、天井から足元まですべてガラスに覆われたサルという共通点を持ったモンペリエとパリ、それぞれのレストラン。窓ごしの景色は、かたや緑まぶしい芝生、かたやグレーなパリの建物、と違いはあるけれど、そこに差し込む光は、同じように暖かい。ラングドックが恋しくなったらまた来よう。思っていたよりずっとよかったレストランにすっかり満足して、ガラス窓の向こう側はまだまだ真冬のパリの街に、コートの襟をしっかりあわせて立ち向かうのでした。


mar.8 jan.2002



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