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グルマン・ピュスのレストラン紀行


レ・メゾン・ドゥ・ブリクール(Les Maisons de Bricourt)

最高のプチヴァカンスをくれたマンシュにサヨナラして、パリに戻る。でもその前に、せっかくここまで来たんだから、モンサンミシェルを超えてブルターニュに入り、オリヴィエ・ロランジェさんのところでランチでもしていきましょうよ!去年の夏、驚きの料理を食べさせてくれたロランジェさんを再訪する。

「ラ・メゾン・ドゥ・ブリクール」を発見するまで散々道に迷った去年が懐かしい。あれだけ迷ったおかげで、今回は完璧!教会周辺の渋滞を尻目に、ヒョイヒョイヒョイ。ほら、到着。エヘン。もっとも、オリヴィエさんちに行く前に、パリで知り合っていたカキ屋さんを訪ねたのだけれど(カンカルはカキの一大産地)、こっちはさすがに迷った。初めてのところに、すんなり行けたためしがない、私。7〜8年も海で遊んでいた馬蹄型をした巨大な天然カキ、ピエ・ドゥ・シュヴァルをごちそうになってみる。

車停めて、去年の秋にオープンした、レストランの真横にあるエピスリーを覗き、素晴らしいパンやお菓子を売っているパティスリーに駆け込んで、キャラメルとパリでは売っていないチョコチップ入りのサブレを買って、人心地。よし、やることはすんだ。じゃあ、ゴハンを食べよう。

サロンは二つ。今日は、奥のサロンオリヴィエさんの生家をレストランにしている「ラ・メゾン・ドゥ・ブリクール」。こぢんまりとしたお庭が、いかにも個人邸宅風でいい。去年、インタヴューをしたときは上階のサロンでお話を聞いたのだけれど、ここがまたいい雰囲気なんだ。クラシックなブルジョワ家庭の面影がたっぷり残っていて。

シャンパーニュアミューズたち。かわいい&おしいい陽光降り注ぐサロンで、庭のカモたちを眺めながらのランチは、モエッテのミレジメで始まる。イカ、サバ、そしてサン・ピエールが、シャンパーニュのお供。カトラリーを使わずに食べられるつまみは、料理選びの時間に嬉しい。果物の甘味と酸味がきれいに絡んだサン・ピエールがとても美味。華やかでいいね、こういう味。イカは甘味がちょっと足りなくて硬い?去年は強烈においしかったけど。

極上パン&極上バター。ほんっとに美味なパンお料理決めて、このためにだけにでもこの店に来る価値があるパンに、いそいそと手を出す。アルグ(海草)、セーグル(ライ麦)それにルヴァン(天然酵母)。一番シンプルなルヴァンもそれなりにおいしいのだけれど、いかんせん、アルグとセーグルがうっとりするほどおいしい。ブルターニュの偉大なバター職人ボーディエさんの有塩バターをつけていただくこのアルグとセーグルのパンは、「ル・ブリストル」のシェフ、エリック・フレションの著書の題名ではないけれど、人生で一度は食べておくべきもの”に相当する。いや、1度では悲しい。人生に、何度でも食べておきたい、極上のパンとバターだ。 

ちっちゃな貝殻に入ったアミューズツブガイ&バジル、キュウリクリーム、それともう1つなにかのお魚のアミューズ。ツブガイバジルが相変わらず美味だ。爽やかで気持ちいい。

アントレ3種盛りあわせ。左の二つがマトウダイ。その横がホタテ、一番右がカキ去年味見させてもらって、次に来たときには絶対これ!と決めていた、「アントレ3種の盛り合わせ」は、ちょっとした選択ミスだった。去年と全く同じものだろうと思い込んでカルトをしっかり見ずにオーダーしてしまったそれは、サン・ピエールこそ去年と同じだけれど、マグロもペトンクル(小さなホタテ)もなく、代わりに、カキとホタテが並んでる。

バルサミコ系のヴィネガーとショウガで2通りの味をつけたサン・ピエールは、その食感も味わいも素敵。青リンゴで涼しげな味わいを加えたホタテも悪くない。でも、あのペトンクルが食べたかった、、、。カキはイマイチ。いかんせん、もともと好きでない上、マンシュでこの世のものと思えない極上なカキを味わってしまったあとだけに分が悪い。構築の美しさはさすが。でも、去年みたいな感動がなくてちょっと残念。

普通マトウダイこの店のシグニチャー料理、「サン・ピエールのインドからの帰還」みたいな名前がついた皿をオーダー。エキゾチックな香辛料とフルーツを組み合わせたソースとガルニは確かにおいしい。けど、肝心のサン・ピエールの質がいまひとつ。ほんのちょっぴり生臭さを感じてしまう。日本人は敏感だからねえ。焼き加減もちょっとだけ生きすぎな気がするな。

極上スズキスピちゃんが食べたスズキは傑作。去年も、同じような調理法で火を通したスズキを味見だけさせてもらって感動したっけ。皮をはがされたスズキは、ふんわりジューシーでふくよかな味。きゅ〜っと甘くてホロリとした身の味わいがたまらない。軽くクリーミーなソースとアクセントの柑橘類がよくマッチしている。これ頼めばよかった。

マンゴー&バナナの春巻ランチムニュを取ったスピちゃんには、カマンベールのスープ仕立てとマンゴ&バナナの春巻、見たいなオヤツもつく。春巻、おいしいけど、量が多すぎる。香辛料入りバナナのアイスクリーム(だったっけ?スペキュロスだったっけ?)は、添えてあるサクサクフイユテとともにとても美味。前も思ったけど、エキゾチックな雰囲気がちょっぴり強すぎ。洗練さもかけてるかな。これはこれで楽しいんだけどね。

スパイスを敷き詰めた器に各種キャラメル。香りが素敵最後は、エキゾチックフルーツのお茶と各種キャラメルでごちそうさま。

全体的に、去年初めてこの店を訪ねたときに味わった強烈な感動がない。どうしてだろう?選んだものが悪かったか(去年食べたリ・ドゥ・ヴォーは最高だった)、マンシュであまりにおいしいものを食べすぎたか、お腹があまりすいていなかったのか、、、。フィリップの料理のほうが明らかにおいしかった。

いろいろ要因を考えながら、ごちそうさま&ありがとうして店を出る。駐車場まで付き添ってくれたメートルとおしゃべりをしているうちに、今日のランチの不完全さの要因が1つ分った。
「で、オリヴィエさんは元気でいます?」
「ええとても。今日は朝から、サン・マロに行っているんですよ。イベントがあって」
あはははは。なるほどね。常日頃からシェフが外出しがちな店なら、シェフがいなくても安定感がある。いいスゴンがいる店なんて、シェフはいなくてもいいからスゴンがいてくれ!と思うケースもある。でも、ここみたいに、基本的にシェフが店にいつもいて、シェフの感性と力が全面に出てくる料理を出す店だと、シェフの不在は致命傷。運悪かったね、よりによってオリヴィエさんがいない日に来ちゃうなんて。今後は、オリヴィエさんの存在を確認してからこの店にこよう。そしてまた、魚料理が自慢の店にもかかわらず、あのリ・ドゥ・ヴォーを食べよう。

ven.6 mai 2005



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