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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ル・ブリストル (Le Bristol)

今年もまた、「ル・ブリストル」でレストラン生活がはじまる。つくづく幸せだと思う。毎年、この大好きな場所でレストラン事始をすることができて。去年は5日に、一昨年は6日に訪れた。目的は毎年同じ。これを食べずに冬が越せなくなってしまった、「黒トリュフのサラダ」。

新年明けたばかりのレストランは、閑散としている。ノエル、そして年末のレヴェイヨンと、大宴会が続いた後の1月は、フランス人はレストランに行くことをあまり考えず、連日連夜の暴飲暴食を反省するべく、家に閉じこもっているのだろうか。月曜日、というのもあるだろうが、半分ちょっとほどの入りのレストランは、ちょっぴり寂しい。空テーブルの数が1〜2という状態だといいのにな。

去年1年間にここと夏のテラスで食べた料理とデセールを振り返りながら、ゆっくりとカルトを紐解く。いつもなら、散々悩みに悩みぬいて、食べるものを決めるのが一苦労なのだけれど、今日は、来る前から料理をほとんど決めていた。よっぽど魅力的なものがない限り、今夜の私のゴハンは、「黒トリュフのサラダ」に「カニのエミュルジヨン」(そんな名前だったっけ???なんか違うような、、、)。トリュフのサラダは、必須でしょう。そして、カニ料理の方は、10月にここで食事をしたときに、同席の方が絶賛したもの。そんなにおいしいんだ〜、今度食べてみよう、と、心に決めてた。季節の鹿にかなり心を動かされはしたけれど、やっぱりカニに決定。アントレ用の料理だけれど、これを二皿目に持ってきてもらうことにする。

soupeシャンパーニュ片手に、お気に入りのチーズとカニのフライをつつき終わると、アミューズの登場。「トピナンブール(菊芋)のヴルーテ(ポタージュ)」も、そろそろここの定番アミューズになってきたね。コクと迫力があって、いかにもフレションらしい一品。パンチが効いていて、量を食べられるものじゃないけれど、お気に入りのスープボウルでこのポーションならば、毎回嬉しく食べられる。春に、食器類を総取替えする予定。大好きなこの食器はどこに行っちゃうんだろう。ブラドリーするなら、ぜひぜひ声をかけてほしいものだ。

saladeさて、「黒トリュフのサラダ」。今年はトリュフが豊作だという。こんなありがたい事実を放っておくわけにはいかない。神様の気紛れをありがたく享受して、摂取にいそしもう。毎年思うけれど、このサラダ、野菜とトリュフのおいしさをつないでいる、クルミオイルの存在が素晴らしい。例年に比べ、サラダ菜類の歯ごたえというかおいしさがピンとこないのがちょっと残念だけれど、この作品の本質は十分に理解できる。サラダの、みずみずしさを残しながらもオイルでまろやかになった食感。鼻腔をあだっぽくくすぐるトリュフの香り。そんなトリュフに共鳴する香ばしいクルミオイル。シンプルといえばあまりにシンプル。家でだって作れてしまいそうなこのサラダは、私の冬をおいしく彩ってくれる。

araigne続いて、「カニのエミュルジョン」。パスカル・リシャルテ氏がアルザスに発ってしまって数ヶ月。新入りメートル氏とは、今夜が初顔合わせ。とは言っても、モントゥイエさんもお休みの今夜、紹介してくれる人もなく、ああ、彼がそうなんだな、と思いながら見ていた新メートル氏は、私がプラにカニを頼むと、「アントレ用の料理ですし、量が少ないですよ。大丈夫ですか」と、念を押してくる。ちょっと冷ややか?そう言えば、彼が元いた職場に勤めていた友達が言ってたっけ。「悪くないけど、ちょっとお客様との距離が遠いかな」。ふむ、確かにその通り。もちょっとフレンドリーでもいいよねえ。モントゥリエさんが恋しい。

で、カニ。あー、オリエンタルだねえ。ピリリと辛味が効いていて、クリームを使ったタイ料理、って感じかな。エリック・フレションは、時々こんな料理を作る。曰く、ちょっとアジア色が強すぎる料理。彼が作るこの手の類の作品は、とても美味なのだけれど、量をいただけない。食べあきるんだ。すごくおいしいよ。カニへの火の入れ方は完璧だし、饒舌なソースも絶品。でも強いんだよね〜。フェミニンな料理を愛するロビュションっ子の私には、フレションさんの料理は時々たくましすぎるけど、これはまさに典型。私向きの料理ではなかったかな。

そして、「ル・ブリストル」に私を通わせる原因の時間がやってくる。ジル・マーシャルのお菓子に出会えたのは、僥倖だ。3年来、私が溺愛している、パリのレストランのパティシエたちは3人。うち2人は、私を狂喜乱舞させたデセールを、今はもう作っていない。ジルちゃんだけが、代わらずに同じ幸せを私に与え続けてくれている。味、構成、イメージの全てが限りなく完璧に近い。「ル・ブリストル」は、彼のデセールを食べに来るだけでも価値があるレストランだ。

pamplemousse今夜のデセールは、パンプルムース(グレープフルーツ)とアナナ(パイナップル)のお菓子。10月にも食べたお気に入り。ごく薄のアナナ、カリリと焼き上げられたパンプルムース、果物の酸味を一層魅力的にしているハチミツ。バジルのソルベは清涼感にあふれ、やがてやってくる夏を想像させる。うぅぅぅ〜ん、美味。ジルちゃん、好き♪

季節物のカレット・デ・ロワを味見して(フェーヴ、あたらなかった。ザンネン)、プチ・フールたちが顔を見せたところに、ちょっと前に、試作品を食べて絶賛したアプリコット&酒のマカロンが運ばれてくる。「今夜また、作ってね!」とリクエストしておいた。縦に積んだミニマカロンにはショットグスがかぶせてあり、横には同じショットグラスに酒が注がれている。グラスを外すと、マカロンたちはコロコロコロリと四方八方に転がっていく。カワイイ!こういうプレゼン、大好きだ。マカロン自体は、前に味見したものより、酒の味が薄くてアプリコットの甘味が強い。

「前のときの方が、サケの香りがプワンと漂ってて好きだったな」と言うと、
「そーなんだよねー。サケの種類が違うからさ、味も違ってきちゃうんだよ。これでも、前のときよりずっと多くサケを入れてるんだけどさ」とジルちゃん。マカロンにあう酒。どんなタイプがいいんだろうねえ。研究してみると面白いかもしれない。

macaronオミヤ用のマカロンを持たされ、満ち足りた思いでレストランをあとにする。料理的には、完璧!とは言えなかったし、モントゥリエさんが欠けたサーヴィス陣もまた、完璧からはちょっと遠いところにいた。それでも、十分に高いレヴェルを維持している「ル・ブリストル」。リニューアル・オープンから3年。その間、何度も足を運び、楽しいひと時を過ごさせてもらいながら、このレストランの成長を見守ってきた。今後もどんどんいいレストランへと成長しますように。

そして翌週、再びここでディナーを楽しむ。

「帆立のポワレ、クレソンソース」、「血を残したカモの胸肉」と、フレションさんのスペシャリテに続き、極上のミモレットとモンドール、そしてジルちゃんの新作のアーモンドのお菓子。モントゥリエさんのサーヴィスのもと、「ル・ブリストル」の実力を満喫。いやあ、ほんとにいいレストランです。今年もまた、どうぞよろしくね。


lun.6 jan. mar.14 jan.2002



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