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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ブリュノー(Bruneau)

悪いわけじゃない。昨日がよすぎたの。あとから考えてみると、全然悪くはなかった。ただ昨日が出来すぎだっただけ。でもやっぱり、もうちょっと素敵だとよかったかなあ。まあでも、あんなものか?

「ブリュノー」に行ってから2週間近く、このレストランについての評価を、自分の中で決めあぐね、あーだこーだとあの夜のことを思い返していた。悪くはなかった。気がする。多分、ね。前日と比較してしまうから、悪さが目についただけだと思うんだ。違うかな?う〜ん、どうも分からない。3つ星としての魅力を備えていたのか、いなかったのか?すぴちゃんとあっちゃんはどお思ったんだろう?

美食大国ベルギーに輝く星の数は多いけれど、内「ギッド・ルージュ」で3つマカロンをもらっているのは、ブルージュの「デ・カルメリエ」と、首都ブルッセルの「コム・シェ・ソワ」と「ブリュノー」。どーんと構えてクラッシックな「コム・シェ・ソワ」に比べ、「ブリュノー」はアヴァンガルドで独創的。そんなふうに評価されている。

月曜日に開いている「ブリュノー」にテーブルの予約して、悪名高きブルッセルの外環道路をすっ飛ばすタクシーの運転手さんに「ブリュノー」の評判を聞きながら、市街地を抜けたこじんまりとした通りに建つ、白くシックな館の前に降り立つ。

玄関横の、透明のエレヴェーターに渋面。なんだこりゃ?オフィスビルのエレヴェーターみたい。なんだか趣味悪い?エレヴェーターを斜に眺めながら、いくつかあるサルの一つに通され、奥窓際のテーブル。おや、横のカップルは日本人だね。新婚旅行、って感じだ。ブルージュのレストランにも行った?

んんん〜。外から見た限りは、なかなか期待の持てそうな感じだったのに、中、イマイチだよねえ。エレヴェーターから始まり、サルの壁のブツブツもキライ。ナップにアイロンがかかっていないのもイヤ。そもそもこの柄はナニ?テーブルの花の趣味がワルイ。カトラリー、カワイクナイ。とそこに、シャンパーニュと、こちらもまたセンスがあまりよろしくないカルトが運ばれてくる。ま、別に、カルトのセンスが悪いからといって、レストランを悪く評価しても仕方ない。要はお料理、サーヴィス、雰囲気さ!でもほんとは、カルトのよしあしも、雰囲気の一環だと思うんだけど、、、。

メートル・ドテルがしきりにムニュを進める。昨日もムニュを強く勧めていたけれど、ベルギーではムニュを取るのが主流?所々に見え隠れする、フランスのレストランとの違いが楽しい。じっくりカルトを研究して、お料理選びを終える。お酒も決定して、さ、では、アミューズをいただきましょうか。

amuse4種のアミューズ。フォア・グラ、オマールのテリーヌ、エスカルゴのタルト、魚(何だった?)の燻製。どれも悪くない。まあまあ。でも、どれもはっとしない。ふうん、という感想。アミューズってさ、もう少しワクワクさせてくれるものを出して欲しいな。この先に目の前に出てくるお料理への期待が膨らむように。こんなに数作らなくていいから、もっと味にこだわったものを食べさせて欲しい。

langustineアミューズがぱっとしなかった割には、アントレはかなりの出来栄え。「ラングスティーヌのカルパッチョ、カヴィアのクリーム」は、私の好みにぴたっと合ってくる。まったりととろけるようなラングスティーヌの身は、薄くスライスしたからこそ表現される甘みとねっとり感がたまらない。それを包む、カヴィアとクリームの、こちらもまたトロンと絡みつくような食感が素晴らしいですねー。量が少なすぎるよ。こんな薄いカルパッチョ、あっという間になくなってしまう。二皿食べたいなあ。あ、でも、お皿は違うのに代えて欲しい(笑)。このサーモンピンクの縁取りはちょっと、、、。ガラスのお皿に入っていたら、どんなにかまあ、美しかったことでしょう。

プラはあっちゃんと一緒に「仔鴨のハチミツ焼」。
canette「こちらが仔鴨です」と、焼き上げられてデクパージュ(切り分け)前の肉を見せに来た時には、「おいおい、これのどこが「仔」鴨なの?」と思わずあっちゃんと目を見合わせてしまったくらい、それは大きな鴨だった。これを仔鴨と呼ぶのはちょっと語弊があるような気もするけれど、ま、いいでしょう。味は素晴らしいのだから。胸肉がスライスされ、シャンピニオン入りの甘い香りのソースがかけられる。んー、いい香り〜。あれ、そのソースパン、持って行っちゃうの?置いておいてくれればいいのに。程よく焼き上げられた鴨の肉は歯にサックリと優しく、ハチミツ主体の甘いソースととても相性がいい。ガルニの、トマトに詰められたイチジクのコンフィ、ジャガイモのソテー、ニンジンのフランは、あってもなくても別にいいや。このソースを堪能できるように、ピュレでも添えてくれてあったらもっとよかったかな。それにしても、ソースパン持って行かれたのは痛い。すぴちゃんのハトのソースは、そのままテーブルに残っているのに、なぜ鴨のは持って行っちゃったの?

そう言えばさっき、カチンカチンという奇妙な音に視線を向けると、ちょっと離れたテーブルのオヤジ(もちろん、偉大なる食通風)が嬉しそうに、ソースパンを手に持ってスプーンでソースを丁寧にすくって口に運んでいた。あまりお目にかかれない光景にちょっとひるみながら、ベルギー人の食道楽ぶりを垣間見た気がしたっけ。でも、こんなに美味しいソースなら、なめきりたい気持ちは分かる分かる。私たちのソース、置いていってくれなかったのが、しみじみ残念。

胸肉が下げられると次は、足の料理。「腿肉のクリスピー、アンディーヴ添え」がやってくる。うう、もうお腹いっぱい。こんな濃そうなお料理、とても食べきれないよ。だいたいさあ、お皿がイヤだってば。ソースの色と全然合っていない。これじゃあ食欲、失せるよねえ。ちょっとだけ腿をいただき、ごちそうさま。味はまあまあかな。ケンタッキーの鴨版といった感じだわ(笑)。

95年の「シャトー・クリネ」が、もう少し花開いてくれるといいのだけれど。久しぶりのポムロル、楽しみにしていたんだけどな。早すぎた?ちょっと外しちゃったみたい。ソムリエがワインを継ぎ足してくれる。
「メルシ」
「ドゾ」え、ドゾ?ドウゾって言った?次に注いでくれる時に、耳を傾ける。
「メルシ、ムシュ」
「ドウゾ」やっぱり「ドウゾ」って言ったよ!あっちゃんとささやき合う。すぴちゃんにご報告。すぴちゃん、しかつめらしく耳を傾ける。と、今度は「ドモ」。ドモ?ドウモ?ううむ、微妙に言葉を変えてきた。奴め、手管を使ってこちらを翻弄する気だ。3度目に「ドウゾ」を耳にした時に、声かけてみる。
「日本語、話せるんですか?」

ちょっとずんぐり、赤ら顔のソムリエが嬉しそうに言うには、厨房に日本人が3人いる、とのこと。2人男の子、1人女の子。彼らに日本語をちょこちょと教えてもらっているんだそうだ。
「きっと、その女の子とできてるんだよ」
「にしては、あんまり上手くないよ」つまらないことに探りを入れている私たちである。

soufflet「お腹いっぱいで死にそう。ちょっとだけ味見できればいい」というすぴちゃんとあっちゃんの言葉を受けて、「フレーズ・デ・ボワのスフレ」を一つだけ頼む。やってきたスフレはいかにも美味しそうで、眠りかけていたあっちゃんの目が、ぱっと開く。フレーズ・デ・ボワのタルトの上をスフレ仕立てにしたもの。膨れあがったスフレを突き破り、森イチゴのソースがたらりと流される。んー、いいにおーい!いっただっきまーす。さっくりタルト、今が旬のフレーズ・デ・ボワ、ふわふわスフレにソース。おーいしーですねー。お皿とプレゼンテーションは相変わらずセンスわるいけど、味は素晴らしい。「味見だけでいい、、、」なんて言ってたくせに、あっちゃんにパクパク食べられちゃう。

お茶とプティフールの時間。うじゃうじゃやってきた小菓子たちの中に、ミュゲ(すずらん)の形をしたショコラを発見。明日は5月1日、ミュゲを贈る日。小さなショコラムースを土に見たててショコラで作ったミュゲが立てられている。このミュゲが美味しいの。これ1個じゃ喧嘩になる。折よくやってきたソムリエ君に、
「ミュゲ美味しい♪ミュゲ欲しい♪」とお願い。
「これも、日本人のパティシエが作ってるんだよー」と嬉しそうに、新たに3つ、可愛く美味しいミュゲを持ってきてくれる。メルシー・ボクー。

客席を周るシェフ・ブリュノーと少しおしゃべりし、記念撮影など行って、夜もふけてきたので、そろそろ帰りましょ。料理、まあまあ。3つ星のレヴェルかといわれるとちょっと首をかしげるかもしれないけれど、まあ美味しい。盛りつけや食器類のセンスは全然ダメ。サーヴィスは、一応OKでしょう。はじめはかたくなだった担当セルヴール君も、次第に打ち解け、メートルもぎりぎりだけど合格。ソムは優しいし。でもここも昨日同様、アイコンタクトだけでは近くに来てくれない。客層はだめだったな。同じサルにいた2組のベルギー人たち。女が揃いも揃って、煙草スパスパ。お皿が下げられるたびに煙草に火をつけるものだから、サル中に煙が漂ってしまい、レストランの雰囲気を台なしにしている。食事中に煙草を吸うなんて、非常識もいいところ。一度だけ「ジャマン」で煙草を吸いつづけていた男性がいたけれど、周り中から真っ白な目を向けられていたっけ。そんなに煙草を吸う人が多いのならば、禁煙と喫煙でサルを分けて欲しい。

料理とサーヴィスはまあまあ。客層と内装関係のセンスが悪く、せっかくの料理の印象を悪くしちゃったかな、という感じか。なんといっても、昨日の今日。ついつい昨日のレストランと比べてしまって悪いことをしたかもしれないけれど、ま、こんなものでしょう。

次回はぜひ、「コム・シェ・ソワ」を試してみたい。首都にある高級レストランの片割れ。「ブリュノー」となにがどれくらい違うのか、「デ・カルメリエ」はやはり特級品だったのか、ぜひ知ってみたいものだ。


lun.30 avril 2001



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