今日、2003年度版「ミシュラン」の速報が流れた。ドラマティックな展開、悲喜こもごも、驚いたり納得したり、とまあ、例年通りの反応が業界のあちらこちらで交わされる。せっかくの速報日。どうせだったら「ミシュラン」のお祭り騒ぎに乗じよう、と、予約していたレストランをキャンセルし、新☆レストラン「シャマレ」のテーブルを取ってみる。さてさて、新星つきレストランの実力やいかに?
昨年の夏にオープンした「シャマレ」は、フランコ・モーリシャス料理を提供する異色のフレンチ。「アルページュ」上がりのシェフによる、エキゾチックながらもまっとうなフレンチガストロを手がけている、と評判だった。オープン後の人気は上々で予約も難しく、ついつい私もほったらかしにしていたレストランだった。こんな日に、よくぎりぎりでテーブルが取れたよね。楽しみだ。夕方遅くに取材で訪れた「アルページュ」のメートルは、このレストランを高く評価。「いいよ、あそこ。いわゆるフュージョンとは一線を画していて、きっちりガストロノミーなんだよ。楽しんできてね。シェフによろしく!」と、送り出してくれる。
アンヴァリッドをてくてく横切って「シャマレ」へ到着。シックな7区の佇まいにふさわしい、品のよい外観。ドアを開けるとにこやかな笑顔が出迎えてくれる。こんにちはして、1つ星ゲットのオメデトウして、テーブルに着いて辺りを見回す。お金はかかってないけれど、一生懸命シックにまとめてる。テーブルアートも雰囲気も、いかにも「ミシュラン」を狙っています、という感じ。ギリギリ、でも「ミシュラン」の基準にどうにか達している内装、とでも言おうか。「パシフロール」やかつての「ル・マクサンス」を彷彿させるね。こういう、中途半端ななんちゃってシックな内装は、あんまり好きじゃない、、、。
ま、いいや、料理料理。カルトを開きましょう。字面からしてきっちりエギゾチックな料理たちが並んでいる。ふん、なかなかおいしそう。楽しく悩んで、「リ・ドゥ・ヴォーのフライ、緑マンゴー風味」と「鶏のカレーの葉包み」を選んでみる。
まずはアミューズ。「パネのヴルーテ、カレー風味」。パネを辞書で引くと、アメリカ防風と載っている。アメリカ防風?なんだそれ?ニンジンみたいな感じで根が食用。最近流行の、いわゆる“忘れられていた野菜たち”の筆頭。「59ポワンカレ」のハンサム・シェフが作ってくれるパネ料理が私は大のお気に入り。トロンと甘くておいしいんだ、この野菜。ちょっと味が濃い目のポタージュ仕立てのパネは、それなりに美味。カレー風味がピリリと効いているのがこの店っぽいと言えばこの店っぽいけど、まあ、どこにでもありそうな味だよね。これと言った感動はない。次に期待。
リ・ドゥ・ヴォー、好き。久しぶりだな、食べるの。フライにするとおいしいよね、この食材。もちょっとカラリと揚がっているといいのにな。ニュルニュルベトリ系のリにカラッとした衣が着くとなんともいえない素敵な食感になるのだけれど、ここのは、衣もちょっとベトリ系。残念。リ自体と、甘酸っぱいソースはおいしいのに。しかしなあ、この料理も、ガストロというよりは、フュージョンをイメージさせる。「アルページュ」のロランは、「しっかりガストロだよ」って言ってたけど、う〜ん、そうかあ?選んだ料理が悪いのかしら?フレンチというよりは、かなりモーリシャスよりの料理だと思う。
「シェフからのサーヴィスです。味見してみてください」と、ニッコリ笑顔のセルヴール君が運んできたのは、「椰子のニンジンピュレ添え」。へえ、椰子を食べるのって、初めてよね、私。シャキサキサクサク、なかなかよい食感。さわやかな椰子に甘いニンジンがよく合ってる。これおいしいじゃん。カルトに載っていない料理の方がいいんだね(笑)。
プラの鶏は美味。ジューシーで柔らかく風味豊かな鶏に、カレーの葉っぱでカレー味を移したもの。奥ゆかしいスパイスの香り、ふわりと泡になったクリームソース、噛み締めるほどに味が出るワイルドライスとの相性もグー。あ、これはいいですね。おいし〜。友達が食べた鹿もなかなか。プラ、いいじゃん。アントレに比べて全然よく出来てるよ。
「パッションフルーツのジュレ」のアヴァン・デセールに続き、「オレンジのポワレ、コンバワのアイスクリーム添え」。オレンジの酸味がさっぱりした、感じいいデセール。コンバワってなんだっけ?忘れちゃった。香辛料の一種だったかなあ。味も覚えてないや。それなりにまとまっていておいしいけれど、別にさ、感動もなければ素敵においしいわけでもないよね。
アンフュージョン飲みながら、今夜を振り返る。はっきり言って、どうして星を取ったのか、私には分からない。まずくはないよ、もちろん。プラなんて、かなりおいしかった。でも星を取るレベル?ううん、絶対そんなことない。ちょっと風変わりなことをするレストランがお気に入りの最近の「ミシュラン」が高く評価したのは分かる気がするけれど、このレストランが☆、同じ☆に「ル・ジャルダン」や「ラ・グランド・カスカード」、「レ・ザンバサドゥール」、「ラストランス」が並ぶのかと思うと、なんだかちょっと違う気もするのだけれどね。
料理も内装も、いわゆる「ミシュラン」好みなんだろう。サーヴィスはかなりひどいと思うけれど。愛想はいい。とってもサンパ。ただ、マダムを含めて全部で4人というサーヴィス陣は要領が悪すぎる。前半こそ、お客様の数も少なくどうにかこなしていたけれど、後半はもう、なにもかもがスムーズに行かない。ここまで要領が悪いサーヴィスもなかなかお目にかかれないよね。笑っちゃうくらいだ。
結論。がっかり。ま、「ミシュラン」好みの街場の☆レストランなんてこんなものか。でもこれで80ユーロだもんね、お酒込みで。満足度はかなり低い。80ユーロ出すなら、「59ポワンカレ」に行く方がずっといい。全体的に悪くはないし、料理もまあまあだけれど、チャーミングな点がなにもない、要はつまらないレストランなんだな。チャーミングじゃない、というのは、私にとって致命傷だ。
クラシックフレンチとはまた違う、ちょっと面白い雰囲気のフランス系モーリシャス料理。試してみてもいいかもしれないけれど、私は別にもういいや。残念ながら、あんまり仲良くなれなかったレストランでした。
ven.7 fev. 2003