homeホーム

グルマン・ピュスのレストラン紀行


ル・サンク (Le Cinq)

この店がこんなにおいしくなるなんて、5年と4ヶ月前、はじめてここで食事をしたときには、思ってもみなかった。3つ星になったときなんて、思わず笑っちゃったくらい、料理の質はいまひとつというか感動をあまり感じたことがなかった。もちろん、いくつかは好きな皿もあったけどね。

オープンからのしばらくはは、ローランのデセールが食べられるだけでこの店に来る価値があったけど、そんな幸せな日々は長く続かなかった。ローランが去ってからは、いくらパトリスやクリス、エリックらの素晴らしいサーヴィス陣があって、極上の花があるからと言っても、肝心の料理やお菓子がしっくり来ない以上、どうしてもためらってしまっていた。

それが2年前の秋に、初めて至福のディナーに遭遇してから、なんだか様子が変わってきた。その後、ためらいながらも数カ月おきに食事をするたびに、なんだかとってもおいしい料理に巡り会ってる。極め付きは、去年の晩秋に口にした、アルバトリュフのパスタだったろう。二度と黒いフランス産なんて食べたくない!と思うくらい、本当に気が遠くなりそうにおいしい一皿だった。3つ星になってから、どんどん料理の味がよくなってきている、と言うことか。だとするとあのスピード昇格は、将来性を買ってのことだったのか?まあなんでもいいや。素直においしくなったことを喜ぼう。

フォーシーズンスホテルのロビーお姫様になるなら、この店に限る。どれだけドレスアップしても、どれだけ気分を盛り上げても、この店はあくまでロマンティックにエレガントに、そして悦楽に満ちた雰囲気を持って、私たちを迎えてくれる。レストランが非日常空間である、ということを、一番感じさせてくれる場所かも知れないなあ。

ウェイティングコーナーのふっかふかのソファーに埋もれ(お菓子詰めの体の重みで、すっぽり埋もれてしまう、、、、)、やれシャンパーニュだやれつまみだと、ひとしきりの歓迎を受け、幸せそうなざわめきとピアノの音に聞きほれながら、同席者の到着を待つ。既に満ち足りた時間。意識を開放してぼんやりと過ごすこういうひと時が、大好きだ。魂が浮遊する。

席を移してお食事にしましょうか。シャンパーニュと生ハムトーストみたいなつまみが運ばれ、小皿にトスカーナ産オリーブオイルが注がれ、オイル用にと塩なしパンがサービスされる。大好きなセブロンさん作のパンを選んで、料理の選択。日曜日&祝日なのに働いているエンリコ(エンリコは、この間、イタリア代表として世界最優秀ソムリエになった)に、ワインはおまかせ。料理が実際に運ばれるまでの、こういうゆるゆるで楽しい時間、本当に好き。

ジャガイモのムース。軽やかで美味〜アミューズは、ジャガイモのムース仕立てにカヴィア少々。軽やかで香り豊かでアミューズに最適の気持ちのよい料理だ。ジャガイモもカヴィアも大好きだ。ゴキゲン。

アントレは、この店の傑作「クレソンのスープ、カヴィアと生クリームを添えて」。夏になると冷たいヴァージョンでもいただけるこのスープ、クレソンの苦味とフォンの複雑な味が渾然一体となって、フランス的な強い印象を生んでいる。なめらかな生クーリム、塩気の効いたカヴィアとの相性もすごぶるよく、いつ食べても美味。シャンパーニュ系ワインと一緒に楽しむと、これまたオツ。名物クレソンスープ。苦味のおいしさを教えてくれるカヴィアの量によってお値段が全然変わるこの料理、私はいつも少量カヴィアでいただくけれど、いつかたっぷりカヴィアで味わってみたい気もする。秋に食べたアルバトリュフパスタのトリュフの量も、大量ヴァージョンで食べてみたいなあ。ああ、思い出しただけでよだれが出る。今度の秋にもぜひ食べたいなあ。

プラの仔羊ちゃん。いやあ、春ならではの素敵な味ですねプラはこの季節の王様、アニョー(仔羊)。春になるとやっぱりアニョーとヴォー(仔牛)を食べずにはいられなくなる。明後日から遊びにいくノルマンディーで最高の仔羊を食べるのが分かっていても、ついつい選んでしまう。日曜日のごちそうっぽいジゴ(腿肉)をオーダー。焼きあがって、こちらがあなたのジゴです、と見せられた骨付き肉の塊は、生まれたばかりのベベアニョーのいたいけでほっそりした腿と言っても、二人分用の大きさがあって、どうするんだろう、この大きさ?と思わず不安になる。案の定、骨を覆っている、それはそれはおいしそうなピンクの肉のスライスは、一枚の皿にどんどん乗せられ、皿を埋め尽くしたところで、私の前に運ばれてくる。コンガリとした風味が素敵な皮と、ジュージーでとんでもなくきめが細かく繊細な繊維を持った肉の味、シンプルで味わい深い肉汁にうっとりする。ああ、これだからアニョーはやめられない。この世で一番好きな肉だ〜。

仔羊ちゃんの付け合せ、白インゲンの煮込みアクセントに添えられたピマン・デスプレット(バスク地方のきれいな辛味を持つ唐辛子)のピュレが、このアニョーがピレネーから来たことを思い出させる。そういえば、このあいだ、西部ポワトー・シャラント産のとんでもなく美味なアニョーを食べたっけ。これからいくノルマンディーの名産プレサレとともに、フランス各地のアニョーが食べ比べが出来る。ララランラン。ガルニの白インゲンにハーブをたっぷり使った煮込みも、甘く柔らかく、とっても好み。これまた白インゲンの産地である南西部に思いが飛ぶ。行きたいね、ピレネーの辺りに。

器最高!でも中身普通の、アヴァンデセールそれはそれは美しい高杯に載せられてやってきた、ごく普通の味の砂糖ケーキをつつき、おやつのミルフォイユを食べてみる。確かにまずくはないけどさあ、、、。この日のお昼に食べた、ピエール・エルメの新作ミルフォイユや、青木さんのミルフォイユの方がずっとおいしい。おんなじような形で、アイスクリームがついてはいるにしても、20ユーロを超える値段で出すようなものではないと思う。レストランデセールならではのファンタジーに全く欠けてる。ミルフォイユ。どこぞのサロンドテ?と思うよねえ、こんな形じゃいくらアイスクリームがおいしくても、これじゃあねえ、、、。見た目も味もすばらしいカミーユ君のミルフォイユや、これだけ食べに行きたい!と常に願う、「アルページュ」の、それはそれは見事な様々なミルフォイユを見習って欲しい。やれやれ、デセール、相変わらずダメだねえ。料理みたいに、進歩してくれるといいのになあ。クスンクスン、ローランが恋しいよ、、、。

ジュリア・ロバーツに似た超美人をはじめ、相変わらずゲストの美しさは抜群だ、ここ。クチュリエのデフィレを見ているかのような、素晴らしいドレスをまとった美女たちがたくさんいて、ゲストを見るのがとっても楽しい。前に一度、美男が美女にプロポーズをしている、それはそれは美しい映画ワンシーンみたいな場も見たっけね。内装も花も食器もカトラリーもコンフィズリーのシャリオも、サーヴィススタッフもお客様も、全てがきちっと美しい、そんな美しいレストランに来るたびに、ごめんなさい美しくなくて、と、軽い罪悪感を覚えるんだ、実を言うと。

フット(サッカー)していて足をくじいて、この世の不幸を全て背負い込んだみたいなつらそうな顔しているエンリコにお見舞いを告げて、相変わらず能天気でかわいらしい愛すべきパトリスと最後のチュッチュして、夢のように美しいレストラン「ル・サンク」を後にする。家に着いたところで、12時過ぎのシンデレラの気分を味わうのは、毎回のことだ。


1er mai 2005



back to listレストランリストに戻る
back to list8区の地図に戻る
back to list予算別リストに戻る


homeA la フランス ホーム
Copyright (C) 1999-2004 Yukino Kano All Rights Reserved.