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グルマン・ピュスのレストラン紀行


クロ・ドゥ・ラ・ヴィオレット(Clos de la Violette)

風に吹かれる木の葉の音以外、なんにも、本当になんにも音のしない夜をシャンブル・ドットで過ごした翌日、名残を惜しみながら、南東へと車を走らせる。目的地はエクス・アン・プロヴァンス。

木漏れ日も美しい木々が生い茂る美しいメインストリートを闊歩して、MOF(フランス最優秀職人賞)を獲得しているパティシエの店でお菓子を買って、街の郊外、広大な敷地に建つリゾートホテルで犬猫に囲まれてお味見。ふん、まーまーだね。パリにいくらだってある、この程度の味なら。ちょっぴりがっかり。

しっとりとした夏の夜の空気が漂い始める頃、夕食に出かける。この地方きっての名店と誉れ高い「クロ・ドゥ・ラ・ヴィオレット」。ずっと前から行きたいな、と思っていたレストランにようやく足を踏み入れる。

踏み入れたとたん、大いに後悔。この手の後悔をしたのは2回目だ。一度目は、2年前の春、ベルギーやブリュージュで「デ・カルメリア」に入った瞬間だった。着てくるものを間違えた、、、。

すってきなテラス、寒かったのでこの日はパスだってさあ、フランスの田舎の2つ星って、どこも結構カジュアルな格好で着ているお客様が多いんだもん。コート・ダジュールみたいなリゾートになれば更にその傾向が増す。でもここ、違うんだ。品よく美しく整えられた緑美しい中庭に点在するテーブルに、揺らめくロウソクと黒服のスマートなサーヴィス陣に囲まれて座っているお客様たちは、誰も彼もがやんごとなき方々、という雰囲気を目一杯まとってる。もちろんそれは、着ているものにも示されている。なんてこった、こんなにクールでセンスのいいレストランだったとは、、、。パリのパラスホテルのレストランたちに来て行くようなドレスを持ってくるべきだった。

ちょっと身を小さくしながら、庭を一望するテーブルに着く。折から吹き始めた風がちょっと冷たい。シャンパーニュ飲んでアミューズつまんで、料理をオーダーし終える頃には、かなり風が身にしみる。こんなステキなテラスを離れるのは心苦しい限りだけど、風邪引いちゃったりしたらヤダもんね。ロウソクだってさっきからもう4回も消えちゃってるし。センスのいい内装のサロンの席に移って、大きなガラス窓越しに庭を楽しむことにする。

手前のキノコ&レンズマメスープと中央のウズラが絶品「レンズマメとキノコのクリームスープ、ウズラとイチヂクコンフィ、根セロリのタルト」のアミューズが美味。特に、スープとウズラが最高だ。

レンズマメのコクのある香りとキノコの力強い香りが見事にマッチ。生ぬるい温度も絶妙だ。ウズラはかぐわしく柔らかく、甘いイチヂクに溶け込んでいる。おいしいねえ。シャンパーニュアミューズがイマイチだっただけに、目からウロコ。

ラングスティヌのジャガイモ包み、文句なし!続くアントレも抜群だ。「ジャガイモの殻に詰めたラングスティヌ」は、ごく薄のジャガイモでラングスティヌを包み、火を通したようなもの。ラングスティヌの柔らかく品よい甘味に、ジャガイモのカリリとした大地の甘味が見事なハーモニー。カニの爪にあしらった、クネルみたいなヤワヤワなものをさっくりと揚げたものも添えられていて、これまた悪くない。ごく少量添えられたニンニクのピュレがアクセント。ひどくシンプルな、それでいて、これ以外にやりようがないよね、と思わせる、とても完成度の高い作品。すごいかも、ここのシェフ。

もっとすごかった。南仏野菜のファルシスピちゃんが食べた「南仏野菜のファルシ」も素晴らしい。なんてことない、ただのファルシ。でも、それぞれの野菜の風味が強烈に前面に押し出され、力強く食材を印象付ける。余計なものを見事にそぎ落とし、エッセンスだけを搾り出したような料理。脱帽!

アントレが素晴らしかったのに比べるとプラはほんのちょっと落ちるかな。でもこれ、どのレストランでもほぼ必ず感じることだから気にしない。

子羊ちゃん「カレ・ダニョーのスパイス風味」を頼んだのに、出てきた肉がカレ(背肉)でなくてセル(鞍下肉)だったのは、今夜の最大の欠点だったけれど、あまり好きでないはずのセルもおいしく食べられるから不思議。カレーっぽいスパイシーな香辛料をまぶしてあっても、エキゾチック料理に感じさせず、あくまで正統なフランス料理。ミニニンジンもおいしいね。

マグロのタルトスピちゃんの、「フレッシュ&燻製マグロのタルト仕立て」は、スピちゃんが言うとおり、マグロはちょっと塩がきついけれど、甘味のあるサクサクタルトといっしょに口に入れると、いい感じにまとまる。好きよ、こういうの。“タルト仕立て”に弱い私には、相性のよい料理。

パンもこれまたかなり美味で、すっかりゴキゲン。

比べると、デセールがイマイチ。「レモン(レモンライムだったかも)のティラミス仕立て」は、全くたいしたことない。ただの冷たいパルフェみたい。ソルベはまあまあだけれどもね。プレゼンだって可愛くないし、これで17ユーロは高いよ。あと1〜3ユーロ足せば、ジルちゃんのデセールが食べられる料金だもんねー。料理のできのよさに比べるとかなり落ちる。

ソムリエを抜かして、サーヴィスもマル。特に、ヤンヤン(オペラ座の好きな ダンサー)に似たセルヴール君が抜群だ。なんでもよーく気がつくこと!こういうセルヴールがいるからレストラン通いは止められないんだよね。客層もいいし、全くもって居心地のいい空間。

99年に2つ星に昇格。過不足なしの2つ星だね。デセールだけ、もちょっとよくなるといいのだけれど、、。なんせ、パリの素晴らしいデセールたちに味覚も視覚も慣れちゃってるから、デセールには厳しいんだ、最近特に(笑)。

サーヴィスが全て終わった深夜、シェフにインタヴュー。大の日本好きなジャン−マルク・バンゾ氏は、この土地を心から愛している。パリが大して好きじゃなく、田舎、特にここプロヴァンスやコート・ダジュールを愛してやまない私としては、この土地に身を落ち着けて幸せに暮らしているシェフがうらやましい限り。また一段と、南っ子になってしまった夜なのでした。


lun.1er sep.2003



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