アラン・デュカスが管轄するフランスのレストランたちは、基本的にどこも好き。いまだ残念ながら試したことがない、バスク地方の2軒と(今年の夏と秋に行くぞ〜!)プロヴァンスの1軒、サントロペの1軒、モナコの1軒を別にして、行ったことがある店はほぼ全て好き。私にとっての3大ベストレストランの1軒である、ピコちゃんちことモナコの「ルイ・カンズ」。プロヴァンスにある、チャーミングなホテルを併設した「ラ・バスティッド・ドゥ・ムスティエ」。パリ組では、野菜が美味な「59ポワンカレ」、極上のリヨン料理を食べられる「オ・リヨネ」、キッチュで楽しい「スプーン」。番外編でイタリアンの「イル・コルティーユ」。そういえば一昨日(この日記を書いているのは5月12日)、パリの老舗ビストロ「ブノワ」を、ムッシュー・デュカスは手に入れた。秋になったら試さねば。素晴らしい料理学校と出版局も運営し、ルレ・エ・シャトーのようなフランスの素敵なホテル&レストランを網羅したガイドブックの指揮も取り、ついこの間は、「スプーン」のイメージコンピラシオンCDまでリリースした。海外の数々のレストランについては言及するまでもないでしょう。
そんな大デュカス帝国の核とも言える、パリきっての高級ホテル「プラザ・アテネ」にある「レストラン・アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」。今までたった2度しか行ったことがないのだけれど、実は、いまひとつ性に合わないんだ。すごいとは思うのだけれど、精密すぎと言うか1cuあたりの密度が濃すぎるというか、疲れちゃう。ロビュションから譲り受けた16区の店は、大好きだったんだけどなあ。とまあ、つまりは好みでないのだね(笑)。自分ではなかなか行く機会のなかった店に、仕事ごはんで久しぶりに足を向ける。昨年、クリストフ・モレがシェフに就任してからはじめてだ。
久しぶりにこの店を選んだのは、内装が新しくなったから、という理由が大きい。昨年12月31日にお披露目した新内装は、従来からのゴージャスなシャンデリアの周りを、1万個のスワロフスキーのクリスタルがピアノ線につながれて天井から降り落ちる、というイメージ。空気の流れに軽く揺らめくクリスタルは、シャンデリアの光を受けて、本当にうっとりするほどきれい。ずっと上を向いて食事をしたいくらいだ。パトリック・ジュアン作の新しいイスは、ハンドバック置きがイスの内部に組み込まれていて、ヒョイと引き出されてかわいい。モレの料理というよりジュアンの新内装を堪能するという、ちょっぴり後ろめたい目的を持って、久しぶりの「レストラン・アラン・デュカス」体験。
支配人ドゥニのサーヴィスは、客観的に見て完璧だと思う。愛想のよさ、お客様との距離感、べたつきのなさ、エレガントな立ち振る舞い、サーヴィス精神、、、。プロのサーヴィスマンの鏡だろう。非のうちどころがないんだ。個人的には、もちょっととぼけてギャグの入ったサーヴィスが好きだけれど、ドゥニには本当に感服する。サーヴィスがすごいのはドゥニだけでなく、全員そうなところがまたすごい。店の前に立ってからテーブルに着席するまでの、一連のスマートな、流れるような案内に身を任せる心地よさは、そんじょそこらの店ではまず味わえない。ほんっとに気持ちがいい。これはプラザの共通項なのかも。この間、朝ご飯を食べに来たときも、最初のボンジュール・マダム!から着席、ジュースの注ぎ方からオーダーのとり方、新聞の渡し方まで、どうしよう!?と思うくらい、完璧でテンポがよく、ものすごく気持ちがよかった。
ドゥニの安心感のある笑顔と入れ替わりにやってきたシャンパーニュで喉を潤し、手に持たなくても見られるようにテーブルに置かれたカルトを眺める。全部で15種ほどしかないシンプルなカルトから、やっぱり季節のアスパラガスを。それに、大好きなスズキちゃんかな。旬のソラマメもついてるしね。
同席者がアントレで悩んでいたフォア・グラを、「アミューズに出しますから、どうぞ他のものを選んでください」と、親切なドゥニの言葉に従い、フォア・グラから今夜の晩餐が始まる。あははは、これがアミューズ〜?アントレ1品分の量でしょう、間違いなく。と思うような量のフォアグラ。大丈夫かね、この先食べられるかなあ。ちょっと不安。とろけるようなテクスチャーと甘く口の中でほどける味は、一級品。コンソメジュレみたいなのが上にかかっていて、ユルユルな舌触りと冷たい感触が気持ちいい。フォアグラって、官能的な料理だよね。付け合せの野菜たちも美味。アンディーヴのみずみずしいシャクシャク感が絶妙だ。あ、はじめて心からおいしいと思ったね、この店で(笑)。
アントレのアスパラガスは、ちょっとダメだった。味はよいのだけれど、ちょっと茹ですぎ。このクタクタ加減がフランス人は好き?そんなことないよねえ。他の店では、モナコのピコちゃんちも含めて、歯ごたえのよいそして大地の香りが強く香るたくましい緑アスパラガスを出してくれるもんね。ああ、チェルッティーちゃんのアスペルジュが恋しいよお。なんていうか、間の抜けた味?に思えてしまう。
プラのスズキは、威風堂々と、どうだ参ったか!とでも言うような、力強く美味な皿。皮を外して焼いたスズキの身はしっとりと甘く柔らい。低温でじっくり火を入れるとこうなるのかなあ?強火で皮側だけパリッと焼き上げたスズキに塩と胡椒、も大好きだけど、こういう店でそんなことを言っては蹴飛ばされますね。高度な技術を駆使して調理したスズキの、いつもと違うおいしさに酔いしれる。
ソラマメちゃんたちは春の香りを体中に閉じ込めていて、あ〜こりゃこりゃのおいしさ。濃厚なソースは、フランス料理のテクニックをガツンと見せてくれる。私にはちょっと強すぎるけど、ね、、、。ああ、こういうところが前も好きじゃなかったけなあ、料理に迫力がありすぎるんだよね、、、と、ジャン−フランソワ・ピエージェ(現オテル・クリヨン総料理長)がここのシェフだった頃の料理を思い出す。
この店に来たらぜひ食べて欲しいも、それはフロマージュ!すごーいったらすごいっ!多分、生まれてこのかたはじめて、こんなにおいしいポン・レヴェックを食べた。あ〜、目が覚める。コンテもフェルム・ダンベールも完璧な熟成具合で、本当に素晴らしいフロマージュたちだ。カトラリーもかわいくて好き♪欲を言えば、パンがもう少しおいしいとよいのだけれど。ここ確か、焼いてるよねえ?
料理用の演出が片付けられ、デセール用の新しいセルヴィエットがひざにかかる。ショコラとカフェのマカロン、プチサン・トロペ(ブリオッシュ生地にオレンジの花の水を加えた軽いクレームパティシエールかな)、リヨン名物ブーニュが、プチフールというかアヴァンデセールとして登場。うん、どれもいいねえ!特にサン・トロペとブーニュはすごく好み。料理や風土同様、お菓子も私は南のものが好きなのだろうか?
おやつは、ちょっぴり悩んで決めた「フレーズ・デ・ボワ(森イチゴ)のクープとシブーストタルト」。モナコのピコちゃんちの、このイチゴとマスカルポーネソルベのデセールを思い出して、南仏行きたい症候群がむくむくと心に膨らむ。ああ、南のごはんが食べたい、、、。シリノさーん、松嶋さーん、チェルッティーちゃーん、クリストフさーん〜。見た目は悪くないおやつなのだけれど、味はいたって普通。同じプラザにいて、ホテル側のおかしを統括している、今年1月、パティスリーのワールドカップ優勝者クリストフ・ミシャラクのお菓子の方がいい。味にキレがないというかハッとしないというか、、、。まあつまり、つくっているのがカミーユくんやジルちゃんじゃない、というだけのこと。
なのに、デセールを2つも食べることになったのは、私のせいじゃない。ドゥニが悪いんだ〜!チョコレート系のお菓子と野いちごの間で心揺れた私を見た、どこまでも優しいドゥニは、野いちごを私の前に置いた後、「こちらにも興味を持っていらっしゃったので。よかったら味見してください」と、こぼれんばかりの笑顔でに、こげ茶の塊が載ったデセール皿をテーブルの中央に置いて立ち去った。
ひゃぁぁぁぁ〜。ありがとぉぉぉぉ〜。震え気味の私のメルシーが彼に聞こえたかどうかは定かでない。ソルベ、タルト、ムース系の各種ショコラのお菓子に、フランスでミカドと呼ばれているいわゆるポッキーつき。野いちご同様、普通においしいけど、ハッとしない味。ミカドはちょっとイマイチ。なにより、見た目がかわいくないのが、残念だなあ。デセールには、味のファンタジーも形のファンタジーも必要だと思う。そうだよね、クリストフと彼の弟子たち?
いつ見てもこれは素晴らしい!とほれぼれする、鉢植えのフレッシュハーブや各種乾燥ハーブ、お茶を載せたシャリオを眺めて、ローズマリーのアンフュージョンでディナーの締めくくり。お茶を飲んでいるところに、自分が今夜食べた料理と飲んだワインをプリントしたオリジナルカルトが渡され、食べた品数を確認してびっくりする。
食べちゃったねえ。なんやかんや言って、アントレ2品とプラ、それにフロマージュを平らげた上に、おやつも2つも食べた(両方ともちょっと残し気味だったけど)。アヴァンデセールたちはみんなおりこうさんだったのでパクパク食べたし、最後に出てきたショコラも極上だった。さすがにお腹が張り裂けそうで、1個しか食べられなかったのが残念無念。ギモーヴやヌガーなどのコンフィズリーは遠慮してみた。
アラン・デュカスはすごいな、とやっぱり思う。尊敬する。理性的に。感情的には、やっぱりちょっと私の好みではないかなあ、と思うけど。サーヴィスと雰囲気はこれ以上はありえない完璧さ。ドゥニたちの制服を見ているだけで目が喜んじゃうよね。時間とともに少しずつ落とされるライティングの光量もいい。料理やデセールは、まあ、味覚は個人的なものだから。技術はすごく高いし、絶賛する人もたくさんいるのは当然だ。
私は、同じデュカスグループでも、こぼれんばかりの花を生けた花瓶が置かれたテーブルで愛らしいピコちゃんが首をかしげて、天使のようなほっぺたのチェルッティーちゃんがニッコリ笑いながら料理を作って、南仏のフレッシュな野菜ととぼけた魚の味と、そしてあのテラスに流れる風がたまらない「ルイ・カンズ」に、やっぱり心奪われる。
パン、カルト、デュカスが手がけるホテル&レストランガイドブックをお土産にもらって(ショコラが欲しかったなあ)、さようなら。最後までパーフェクトなサーヴィスに見送られ、「レストラン・アラン・デュカス」でのひと時が終わる。この夜の締めくくりは、同じプラザ・アテネ内にある、パリで最もINなバーの1軒、バー・ドゥ・プラザ。ティエリが創るヘンなカクテルを、葉巻やタバコのモウモウとした煙とハードな音楽に囲まれながら、夜がとっぷり暮れるまで楽しむのでした。
mer.27 avril 2005