homeホーム

グルマン・ピュスのレストラン紀行


レ・ゼリゼ (Les Elysees)

幸せな昼下がりを過ごす、春の一日。

「レ・ゼリゼ」でのランチ前に、ちょこっとフォーシーズンズに寄り道しよう。うららかな陽光の昼下がり。夏のワンピースにサンダルを履いて、ララララランとホテル入り。例のごとく威風堂々とロビーを飾るジェフの花にしばし見とれてから中庭をみると、わーかわいい!石造りのシックな中庭が、野趣豊かな緑いっぱいの庭園に変わってる。しかも、名前も知らないようなエキゾチックな鳥たちやウサギたちまで大きなケージに入れられて庭作りに参加。あきらかにジェフの趣味じゃないわね、と笑いながら庭に出る。後で聞くところによると、造園の名手による、パック(復活祭)のイヴェント用に作られた、2週間限りの趣向なんだと。このパックの日曜日にはこの庭園に卵を隠し、ホテルゲストのお子ちゃまたちは卵探しにせいをだすんだってさ。いーねー、お子ちゃまになりたいねー。

なんちゃって☆☆☆レストラン「ル・サンク」で、アペリティフしばらく庭で遊んでから、「ル・サンク」へご機嫌伺い。ウェイティングスペースで、シャンパーニュと美味アミューズをご馳走になってみる。優雅なこの空間でいただくシャンパーニュはいつでもおいしい。夏を予感させるガスパッチョも、プチポワ(グリーンピース)入りのお菓子もいい感じ。すっかりくつろぎ、ほろ酔い加減で「レ・ゼリゼ」へと場所を移す。

3ヶ月ぶりのブリファーさんのお料理、嬉しいな。もっと早くに来たかったのだけれど、なかなかね。今日はどんなおいしいものを食べさせてもらえるのかなあ。ワクワクしながらレストランの入り口に立つ。ん、今何時?1時半、まわってるよねえ?なんでこれしかお客様いないの?たった3組しかお客様のいないサロンはちょっと寂しい。昨今の戦争&病気の影響で、どこのホテルレストランも厳しい状況とは聞いていた。それにしても3組っていうのは苦しいよねえ。

お気に入りテーブルについてカルトを眺めていると、厨房に呼ばれる。厨房にあまり入りたがらない私は、このレストランの厨房に入るのも初めてだ。ソリヴァレスの時代は、彼の怒鳴り声がいつも漏れてきた厨房に初侵入。熱い熱気といい匂いが立ち込める中、ブリファーさんとおしゃべり。
「昨日今日は、昼はひどい有様なんだよ。まあ、おかげで君たちの料理に専念できるよ。今日は僕に任せてね」と優しい仏様のごとく微笑むブリファーさん。きゃ〜ん、なにが出てくるのかな。味を想像するだけでクラクラしちゃう。でも待って、お任せ料理は量と皿数がいつも怖すぎる。なんど、死ぬほど苦しい目にあってきたことか。ちゃんと言っておかなくては。
「あのね、お願いだから量は多くしないでくださいね。絶対に食べきれなくなっちゃうから」
「わかってるよ、日本人向けの量で、ね」と再び仏様のような微笑。

席に戻って、期待と不安に胸を膨らませてテーブルの上に料理が運ばれてくるのを待つ。パンを選び、素晴らしく美味なグリッシーニをガジガジしているところに、まずは恒例のイカとエビのフリットが登場。わー、昼にもこれ、シャンパーニュアミューズに出してるんだね。偉いなあ。嬉々としてつつき始めるが、いけないいけない、あとが食べられなくなる、と自重。「ル・サンク」でも結構な量のアミューズをご馳走になっちゃってるし、もうお腹すいてないんだよね。恨めしげにイカ&エビを眺めているところに、アミューズたちがうじゃうじゃにぎやかに運ばれてくる。アミューズにしてはおっきめのポーションの料理が3品。うひゃ、たくさんだ〜。

まずは、目の前に置かれた「サンジャック(ホタテ)のポワレ、オゼイユ(スカンポ)のムスリーヌ、ノリ添え」からいただきます。ナイフを入れるそばから解けていくような淡雪仕立てのオゼイユを絡ませてホタテを一口。とたんに口の中から体中に向けて幸せ感覚が広がっていく。
「これだわ、これ!これが、ホタテにとっての最高の火の通し方なのよね!?ああ、ブリファーさんが作ってくれれば、ホタテだって大好きな食材になるのねえ!」実は、ホタテは生以外あまり好きではない私です。
「ホタテ好きの私だけど、こんなにおいしいホタテ料理、めったにお目にかかれないわよ!」とMちゃん。感動のあまり、涙が出そうだ。完璧、っていうのはこういうときに使う言葉なんだろうなあ。どうしたらこうできるのか分からないくらいに、完全にジャストの火の通し方。ホタテのテクスチャー、甘味、旨み、香り、全てが最高の状態になっている。そこに薫り高くからまるスカンポの香り。刻み海苔がかすかに海の匂いをイメージさせる。上に散らされたピマン・デスプレットの朱色が鮮やかだ。何も言うことはない。これが、エリック・ブリファーの料理です。食べてみてください。ブリファーさんが現場復帰した幸せを改めて噛み締める。

春野菜のコンソメジュレ、カニ肉添え。干しぶどうのアクセントがすてき!次、二つ目のアミューズ。アスペルジュや新玉ねぎ、フェヴェット(ソラマメ)などの春野菜をコンソメジュレで仕立ててカニをあしらった、「春野菜のグレッグ」。春の香りいっぱいの野菜たちはきっちりおいしく、カニの風味が柔らかさを添える。コンソメももちろんおいしいのだけれど、ここまでなら、ありきたりの料理。ポイントは、野菜と一緒に皿を構成している干し葡萄。ちょっとコンフィっぽくなった干し葡萄の濃い甘味が野菜とコンソメに調和して、なんとも玄妙な味わい。う〜む、奥が深いなあ。さすがだ。お約束のように散らしてあるピマン・ドゥスプレットはなくてもいいと思うのだけれどね。

プチポワを使ったアミューズ、新玉ねぎの泡仕立てもいいさて、三つ目のアミューズ。まだアミューズだよ、先が長いねえ。嬉しいような怖いような、、、。「プチポワ(グリーンピース)のクリームに新玉ねぎのフワフワムース」。大好きなプチポワがぎっしり詰まったムース状のクリームに、1月に来たときに絶賛した、エスプーマを使った新玉ねぎの極軽いムースが乗っている。春の香り濃いプチポワに、はかなく匂いだけを残して口の中で溶けていく新玉ねぎのコンビネーションが素晴らしい。プチポワ&新玉ねぎは、フランスの春を祝う最高の組み合わせだよね。心震えるようなアミューズの饗宴にうっとりした後に、料理が本格的に始まる。

アスパラガスをヴェルヴェヌ風味アントレは春らしい一品で、「アスペルジュのポワレ、ヴェルヴェヌで風味を添えて」。ゴロリと太い緑と白の色も鮮やかなアスペルジュが2本。ヴェルヴェヌのさわやかな香りに包まれてやってくる。ジューシーなアスペルジュにはバターをちょっと効かせたソースがかけられ、ソースをおいしく食べられるよう、ブリオッシュを型抜いてトーストしたものが添えられている。バターを使った料理は基本的に嫌いだけれど、ブリファーさんが作ってくれるものは全然大丈夫だなあ。使い方が優しいというか、とにもかくにも好みなんだ。

今まで何度も言ってきているけれど、本当にびっくりするくらいに、私はブリファーさんの料理が性に合っている。ここまで味覚が完璧に好む料理は、ブリファーさんの料理と、あとは、昔「イヴァン」のシェフだったエルヴェの料理かな。私の体は、この二人の料理を、諸手をあげて抱きついて喜び勇んで吸収したがる。春ゴハンのアスペルジュを食べ終わる頃には、かなりお腹はいっぱいいっぱい。少量とは言ってもソースにバターが使っていた分、お腹に負担がかかってるのかな。(っていうか、ただの食べすぎでしょう、すでに。)

極上アカザエビ、残念お腹がいっぱいで・・・次に運ばれてくる料理は、世にもおいしそうな匂いを放つラングスティヌ(アカザエビ)。ポワレして極上イベリコハムの味を添えて、縦スライスのアスペルジュを散らしてる。おお、またしても皿の周りにピマン・デスプレット!もういいよ、これはさすがに使いすぎじゃない?ため息をつくくらいに高品質のラングスティヌを、これまたため息もののテクニックて、完璧な火通し。中はあくまで生の状態。ねっとりとした甘味を残している。周りは香ばしく焼き上げ、かんだときのプリリとした食感が気持ちいい。インパクトの強いエビにこちらもまたインパクトのつよいイベリコハムを合わせて、力強く華やかな一品。それでも、フェミニンなブリファーさんの料理らしく、迫力がありすぎないのが好感が持てる。素晴らしい!こんなにおいしいラングスティヌにお目にかかるの、久しぶりだ。でもねー、3匹は多い、、、。もうお腹いっぱいだよ〜。ああ、なんだってまた、「ル・サンク」であんなに食べちゃったんだろうか?反省。

「ねえ、この後、お肉の前にお魚も来るのかなあ?」
「さあ、でも、あんまりたくさんは食べられない、って言ってあるし、お肉に行ってくれるんじゃない?この間の子豚もメチャメチャおいしかったし、私、お肉が食べたいなあ。お魚来ちゃったら、絶対にお肉食べられないよ」
「心配だわよね、、、」で、心配は的中。アントレ、甲殻類、とくれば、肉料理の前に魚料理が来るのが当然、とばかりに、魚ちゃんがやってくる。
タラのソテー・バスク地方風「フレッシュモリュ(タラ)、シピオン(小イカ)とピマンドゥース(小ぶりの赤ピーマン)添えです。ボナペティ!」にっこり微笑みながら立ち去ろうとするセルヴールを引きとめて懇願。
「このあとって、肉料理が来るのかしら?」
「ウイ、マドモワゼル。おいしいのが」
「あのねあのね、すごーく申し訳ないのだけれど、お肉、とても食べられないわ。もうすでにお腹いっぱいで」
「そんな!?量少ないですから、ぜひ召し上がってくださいよ」
「ダメ、ほんとに、、、。すごく食べたかったんだけれど、絶対無理だわ。ついでにデセールもいらない。プチフールだけで十分。よろしく〜」信じられない!とばかりに嘆き顔で立ち去るセルヴールを見送り、モリュにアタック。フレッシュなモリュってあんまり食べたことない。普通は、乾燥モリュを戻したものを料理に使うもんね。そっかー、こういう食感だったんだ、モリュって、と確認しながら、めずらしい魚をおいしくいただく。それ自体は比較的淡白な魚。バスク地方を感じさせる甘味の濃い赤ピーマンと小イカ、アクセントのタプナード、下に敷かれたほうれん草、どれもこれもいい感じ。ピマン・ドゥスプレットはもういいってば(笑)。っていうか、この料理とこの前のラングスティヌには会ってもいいけど、その他の料理には必要なかったかな。

アミューズたちやラングスティヌに比べて感動が少ない、と感じるのは、料理のせいではなくて、すでにいっぱいいっぱいになってしまったお腹のせい。すごくおいしいのだけれど、もう食べられないよ〜。心ならずもちょっと残してしまう。あーあ、ゴメンナサイ。お肉も食べられなくてゴメンナサイ。どんなにおいしい肉料理を考えていてくれたんだろう?くうぅ、食べたかった、、、。苦しいくらいにお腹いっぱいなのに、往生際悪く肉料理に思いを馳せてみる。次回来るときには、絶対にお肉を食べるもんね!

デセールいらない、って言ったのに、持ってきてくれちゃうんだよね。「カカオのソルベのミルフォイユ仕立て、赤い果物を添えて」。相変わらず、「ル・レジャンス」時代のシェフ・パティシエ、ステファン・ミランのルセットによるもの。カカオのソルベ、これはおいしい。初めて「ル・レジャンス」で食べたとき、かなり感動したっけ。ステファン・ミランが手がけていない以上、同じルセットといえども出来上がりは多少変わってしまうのが残念。いいパティシエ、早く入れなくちゃね。それでもまあ、きっちり美味。お腹いっぱい〜といいつつも、半分ほどつついてみる。レモンのソルベやティラミスなどのプチフールを食べて、もうだめ、本当にお腹がはちきれる〜、と幸せな苦しみに包まれる。

いやあ、ドラマティックな午餐でした。ブリファーさんの腕は、1月同様冴えに冴えわたり、感動としか言いようのないおいしさを紡いでいる。サーヴィスが相変わらず、というかより一層、男っぽく非エレガントになっていると思うのは気のせい?料理がフェミニンになればなるほど、サーヴィスのがさつさが目立つんだ。これ、ほんとに早く改善した方がいいよ。まあ、皆優しくて前向きな姿勢なのは、少なくとも評価できるけど。でもでもやっぱり、料理と全然雰囲気があっていないもん。

なにはともあれ、エリック・ブリファーという才気溢れる料理人の世界を思い切り満喫できた午後。ブリファーさんの料理にめぐり合えて幸せだ。ブリファーさんの料理に共感できて幸せだ。私たちをシンデレラにしてくれた「ル・レジャンス」という天国は幻になってしまったけれど、こうしてまたブリファーさんが現場に立ってくれて幸せだ。心震える素晴らしい料理を、どうもありがとうございました、ブリファーさん。


mer.16 avril 2003



back to listレストランリストに戻る
back to list8区の地図に戻る
back to list予算別リストに戻る


homeA la フランス ホーム
Copyright (C) 1999-2003 Yukino Kano All Rights Reserved.