一目ぼれ、というか、一食ぼれしたレストランて、今までに何件あるかな。かなりたくさんあることは確かだけれど、その中でも、最初の出会いで激しい恋に落ち、初めて過ごしたあの数時間を一生忘れない、と思ったレストランが4〜5件ある。地方だとゲラールさんち、「ルイ・カンズ」とシリノさんち。パリだと「イヴァン」(エルヴェが料理を作ってた)、そしてプラザ・アテネにあった「ル・レジャンス」。いずれも、飛び切り素敵な思い出を、最初の夜にくれたっけね。
「ル・レジャンス」を仕切っていたブリファーさんの料理は、「レ・ゼリゼ」もある程度健在だ。”ある程度”という言葉がついてしまうのは、「ル・レジャンス」時代を知ってる人は、身に滲みて分かってくれるはず。知らない人には、どんな風に説明しても分からないだろう。それくらい、奇跡のようなレストランだった。
過去に思いを馳せるのはやめよう。少なくとも、ブリファーさんが現場に復帰してくれて、素晴らしい料理を出してくれるだけで、十分幸せだ。と、「ル・レジャンス」をともに愛したミツキちゃんと一緒に、いそいそおしゃれして「レ・ゼリゼ」でお夕食。
今夜のゴハンには、ささやかながらテーマを持ってきた私。ちょっと前に、ブリファーさんのアミューズブッシュの取材をさせてもらった。そのときに次々と現れたアミューズたちの、なんてまあおいしそうだったこと!味見したものはその味に感動し、味見しそびれたものとは再会を誓った。今夜は、あの時見たアミューズたちをたくさん食べたいな、と言うのが、私の希望。
定番のシャンパーニュアミューズ、カレー風味を効かせたイカフライとシャンパーニュでゴキゲンになったところに、一群のアミューズが登場。出してね、とリクエストした「ピサラディエール」は、タプナードとアンチョビ、モッツアレラが極薄パン生地に乗っていて、パリパリパリンと、お酒のつまみにピッタリだ。
こちらも定番の「グリーンピースのスープ、新タマネギのムース」は、いついただいても、甘く軽やかで風味豊か、うっとりする。パンプルムース(グレープフルーツ)の香りが見事にマッチするところがポイント高い。
「フォアグラのフラン仕立て」は、ロビュションの子供たちのスペシャリテなのか、ギシャールさんも作るよね。プルンとなめらかな感触に濃く甘いフォアグラの香りが絶妙。そして、取材の時に味見して、カメラマンさんと2人、恍惚状態に陥った、「マグロのトロのテンプラ」。トロトロのトロ部分をサッとテンプラにしたそれは、サックリ衣とほとんど生状態のネットリトロのマッチが素晴らしい。取材の時はこの状態で塩コショウしたものを食べたけれど、アミューズとしては、ヴィネガーでマリネした野菜たちが一緒についてくる。この野菜たちがまたよいお味。傑作!
以上、アミューズ。ふう、もうおなかいっぱい。これだけで十分、一食分を超えてるよね。素晴らしいおいしさのグリッシーニも、さっきからバリバリ食べてるし。
胃を奮い立たせてアントレに向かう。付け合せに惹かれて選んだ「フォアグラのポシェ、ウナギの燻製のミルフォイユ仕立て」。この付け合せは、独立してアミューズになることもある。取材時にものすごく心惹かれたものの味見しそこなっていた逸品。これがまたおいしいんだ。微妙な燻製具合のウナギに、甘い洋ナシのコンポートを絡めて、極薄に焼いたパン・デピスで挟んでミルフォイユにしてる。燻製&甘味2種の味とテクスチャーの妙にうっとりする。甘味好きの私には涙が出るほどおいしい。肝心のフォアグラは、テリーヌとポワレ以外のフォアグラがあまり好きではない私には、まあ普通のできばえだったけれど、付け合せのおいしさだけで十分。
ミツキちゃんが頼んだ、南仏アスパラガスの蒸し煮は、ヴェルヴェンヌのはっぱの香りを移してあって、ブリファーさんの傑作のひとつ。どこまでも香り高くかぐわしく、おいしいよね〜。今が旬のアスパラを堪能。
プラの前におまけ登場。こちらもアミューズにもなる、「カニとグリーンピースのフラン、カップチーノ仕立て」。濃厚な味は、このミニミニサイズでちょうどいい。旨みの粋を凝縮させたような、見事なガストロノミー料理。
ヘトヘトになったおなかをなだめすかしながら、プラの「ホロホロ鳥のロティ」に挑む。鶏は、とても繊細でサクンとした歯ごたえも良く、ソースが濃い。
もう食べられないってば〜、って言ってるのに、ちょっとだけだからさ、とクリストフに丸め込まれ、「赤いフルーツのサラダ、パンデピスのアイスクリーム添え」をちょっとだけいただく。さっぱり美味。横には、イチゴのスープみたいなのが添えられてる。キャラメルや果物、各種プチフールも次々とやってくるけれど、もうだめだ〜、本当に食べられないよ〜!
食べたアミューズ系料理、合計7種。悪くない、テーマは完璧にクリアしたね(笑)。フォアグラとホロホロ鶏がちょっと余計だったくらいだ。いつか、オールアミューズ、でブリファーさんの料理を堪能してみたいな。そんなお願いしたら、怒られるかな、悲しがられるかな。でも私は、ブリファーさんに限らず、どこの店でも、アミューズが大好きなんだもん。いつかぜひ、お願いしてみたいね。すっごくおいしかったです。ご馳走様でした、ブリファーさん。また近いうちに来ます!
jeu.15 avril 2004