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グルマン・ピュスのレストラン紀行


「レ・ゼリゼ」

不本意極まりないのだけれど、たっぷり半年以上も、ブリファーさんのゴハンにご無沙汰していた。3月のミシュラン発表後、「レ・ゼリゼ」に行く機会がないまま、夏を迎えてしまった。こんなことではいけない。ブリファーさんの熱烈なファンとして、ヴァカンス前にせめて一度、あのすばらしいゴハンを食べに行かなくては。と、ブリファーさんのゴハンを「ル・レジャンス」でともに愛したMちゃんと一緒に、「レ・ゼリゼ」ランチに赴く。

イカとエビの香辛料を効かせたフライとピンクシャンパーニュレストラン横の、こぢんまりとしたサロン、好き。クラシックで品のよいデコで、いつも静かなのがいい。クリスにちやほやされながら、Mちゃんを待ちつつ、ピンクシャンパーニュと大好きなアクラをつつく。エビとイカを、ちょっと香辛料の効いた衣で包んで揚げたアクラは、「ル・レジャンス」時代からの、ブリファーさんの素敵なシャンパーニュアミューズ。本当にプチプチものによく合って、大好き。いくらでも食べられてしまうのだけれど、このあとに控えているゴハンたちのことを思って、自制心を働かせてみる。全部は食べないよう、と心がけながらも、久しぶりにブリファーさんの味に触れて喜んでいる味覚のことを思うと、ついつい、もう1つ、もう1つとつまんでしまう。

Mちゃんとククー!して、テーブルに移動。木曜日の昼下がり。テーブルはほぼ満席。星を落としてからも、昼も夜も特にお客様は減らず、常連客もそのまま残っているのだそうだ。私だけだね、降格後4ヶ月も来なかった薄情な常連は、、、。ごめんなさい。反省しています。ブリファーさんは「レ・ゼリゼ」に就任後、じゅうたんや絵を変えたり植物を取り除いたりして、少しずつ内装をよくしてきた。以前は、時代遅れな内装だったのが、今ではクラシックながらもなかなかよい雰囲気。あと2〜3、ディテールを変えれば、かなり居心地よくなると思う。緑のリボンをつけたセルヴィエット店のカラー、くすんだ緑色のリボンがセルヴィエットにかかっている。初めて見る。かわいいね。「ポルト・ボヌール。切れるまではずしちゃダメだよ」と、クリスが腕に結んでくれる。リボンをつけた腕を掲げて、改めてチン!久しぶりのブリファーさんのゴハンに乾杯。

アミューズの、赤ピーマンムースとキュウリのスープ赤ピーマンのムースとキュウリのクリーム。甘く冷たい赤ピーマンは、口に入れた瞬間に溶けて、素敵な残り香が口内に広がる。キリリと冷えたキュウリのさわやかな味と一緒にいただくと、夏らしい香りがさらに広がり、なんともいえない爽快感とコクとを兼ね備えた味になる。シンプルながら奥が深い、いわゆるオバカじゃない料理。すばらしい!

香ばしい焼き加減が絶妙な長いグリッシーニをほおばり、ボーディエさんの海草入りバターをつけてパンをかじる。今でこそすっかり高級店御用達になったボーディエさんのバターを、ブリファーさんは「ル・レジャンス」時代からずっと使っている。普通の有塩もすばらしいけれど、海草入り、大好き。さすがにこちらを出してくれるレストランは少ないよね。

カニとダイコンのミルフォイユ。おいしい〜、きれ〜近々カルトに載せる新作なんだ、食べてみて、と出してくれた1品は、その盛り付けの美しさにまず心奪われる。ダイコンとカニのミルフォイユ。うすーくスライスしてハチミツで甘みをつけたダイコンにカニの爪をはさんでいる。周りに散らしたラディやニンジンの薄切りや、オリーヴソースやピストーの色合いが、白い皿によく映えて、とてもきれい。カニとダイコンの、それぞれごく軽めの甘みがといい感じで溶け合っていて、なんだかとっても美味だわ、これ。夏にぴったりの軽くてかわいい味の料理。エミュルジュンに漬かったオマケの爪も悪くない。カルトに載ったら、きっと人気料理の1つになることでしょう。

アントレはラングスティヌ。味、忘れちゃった。写真を見る限りでは、ピストーやチョリソーソース、という感じかな。相変わらずの火通しの完璧さは覚えている。ブリファーさんが作るラングスティヌって、本当にいつも味付けもさることながら、火通しの見事さに感服する。

ガルニとして添えられた、トマトのソルベ、ピストー添えが素敵に美味で、2人して歓声をあげる。トマトの濃い甘みと酸味がつめたーい氷になって、バジルの香りと一緒に口の中ではじける感覚はなかなかのもの。あー、南に行きたくなっちゃうよお。

イカのポワレ。鮮やかな色もよし、軽やかな味もよしお魚料理は、チビイカのポワレ、赤ピーマンのコンフィ。繊細な甘みのあるやわらかいイカはさっとポワレされていて、その魅力が存分に引き出されている。オリーブや赤ピーマン、ピストーの味で食べさせるイカは、南仏気分をより高めてくれる。クルジェットの花も添えてあるしね。いつ行く、南仏に?思わず真剣に、そんな相談をしてしまう。

コロコロジャガイモを添えた、バイエルンの牛肉お肉は、ドイツの牛肉(バイエルン地方の牛肉って、脂が乗っていて柔らかくて、なかなかいけるのです)にジャガイモコンフィ。ベトラーヴ(ビーツ)だったか赤い果物だったか赤たまねぎだったかで作った濃厚かつ香りのよいソースが、肉のうまみと絡んで美味。でも私のお気に入りは、ノワールムチエ島からやってきたミニジャガイモのコンフィ。ネットリとした食感がたまらない。お肉、半分でいいからジャガイモは4つほしかった。

さすがにこれだけ食べるとヘロヘロになる。が、気合を入れなおして、おやつに立ち向かおう!

アヴァンデセールの、赤い果物のジュレとスープアヴァンデセールは、赤い果物のジュレとスープ、それにヴァニラで香りをつけた軽いクリーム。甘みと酸味のバランス、プルプルジュレとふんわりクリームのバランスがそれぞれとても上手。いいねえ、こういうおやつ、好き。

アプリコのミルフォイユデセールは、旬のアプリコのミルフォイユ。完熟アプリコを贅沢に使って、軽いクリームと生地で重ね、一番上にはショコラの層。嬉しい♪横には、ちょっと火を通して柔らかくしたアプリコとピスタッシュのアイスクリーム。ピスタッシュ嫌いの私にもおいしく食べられる上出来アイスクリームと、素朴なおいしさを持つアプリコたちにすっかりご機嫌。一週間ほど前に「アラン・デュカス」で食べた、アプリコのデセールをふと思い出す。料理同様、何の感動もなかったおやつだったよね、、、。本当に、どうしてここまで相性が合わないのかと思うくらい、私はこの店の味の魅力を見つけ出せない。

アプレデセールは、おなじみのフレッシュ羊チーズのソルベ&オリーヴオイル&黒コショウ、サバイヨンやショコラ、ギモーヴの盛り合わせ、それに加えて、ショコラのソルベが出てくる。もうおなかははちきれそう。無理、絶対。と思いながらも、ショコラのソルベには手が出てしまう。ショコラ好きとしては、出されたショコラは断れません。香ばしいカカオの香りとネットリ系のテクスチャーがマル。まわりに散らしたアーモンドの味とのハーモニーもよいね。

いや〜食べたね〜。信じられないくらいに膨れ上がったおなかをなでおろしながら、ブリファーさんと久しぶりにゆっくりおしゃべり。思ったよりも元気そうでよかった。3月に話をしたときには、さすがにまだ落ち込んでいてかなりつらそうだったけれど、もう大丈夫みたいだね。彼自身も吹っ切れたような雰囲気を感じるし、何よりその料理に強い信念と迫力がみなぎっている。今日食べたすべての皿に、ブリファーさんの実力が如実に現れている。こういう料理を食べて、さらに1週間前に食べた3つ星レストランの味に思いをはせると、いわゆるガイドブックというものの評価に笑ってしまう。

ガイドブックの評価が間違っている、とは言うつもりはまったくない。評価は、それぞれのガイドブックの個人的好みなのだから、いいも悪いもない。単なる好み、だ。カデールが好きかジョゼが好きか、オレリーが好きかマリ−アニエスが好きかの違い。マーラーが好きかシューベルトが好きか、ワーグナーが好きかプッチーニが好きか、の違い。同じダンサー同士を、同じ作曲家同士を、点数や星の数で比較することはまずないし、比較の仕様がない。なのに不幸にも、料理は“ガイドブック”というものによって、優劣をつけられてしまう。どうしてこんなことになってしまったのだろう。点数をつけ比較するなんていうナンセンスな行為は、料理という喜びを与える創造物に似合わない。食べて、その味が気に入れば、巡り合えた幸せに感謝すればいいし、気に入らなければ、好みでなかったと、他の味を探しに行けばいい。間違っても、おいしくない、ダメだ、と言ってはいけないと思う。

1999年の秋、「プラザ・アテネ」の「ル・レジャンス」で、エリック・ブリファーの料理に巡り合った幸せに、私はあの日からずっと感謝しっぱなしだ。「ル・レジャンス」での4ヶ月、そして数年のブランクを経て「レ・ゼリゼ」での2年弱。この間、いわゆる星の数は、上がったり下がったりと動きっぱなしだけれど、ブリファーさんの料理が私に与えてくれる喜びに、何の変化もない。彼の料理には、常に彼の魂と信念が宿っているし、私はそれに感動する。

「という感じでね、本当に素敵なお昼ゴハンだったのよ。ブリファーさんは天才だわ!」と、その夜、友達に熱く語る。と、
「行きたいなあ。うん、行きたい。明日、行こうよ!」あ、そう?そりゃ、私のほうには何の不都合もないです。願ったり叶ったりだわ、またすぐにブリファーさんのゴハンが食べられるなんて。というわけで、翌日の夜、私は再び嬉々として「レ・ゼリゼ」のテーブルについて、クリスに緑のリボンを結んでもらうのでした。お?マドモワゼル・カノがまた来てる!という一部のセルヴールたちの驚きの視線を受けながら。ブリの照り焼き風、コブタのコンフィ、黒サクランボのパルフェを平らげ、おなじみのアミューズやアヴァン&アプレデセール、そして例のカニとダイコンのミルフォイユや、せがんで出してもらったトマトのソルベまでおなかに収めて、再び悦楽に浸り、おなかに入りそびれたお気に入りのキャラメルをハンドバックに忍ばせて、幸せ気分いっぱいで、ブリファーさんにサヨナラするのでした。いいヴァカンスをね、ブリファーさん。ヴァカンス明けに、また来ます!


jeu. 30 juin 2005



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