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グルマン・ピュスのレストラン紀行


フェルム・オ・グリーヴ(Ferme aux Grives)

夢見心地のまま夜が明けて、ゲラール村以外で生まれて育って死んでいくだろう、なんともうらやましい小鳥たちの透き通った鳴き声で目を覚ます。空気はちょっと冷たいけれど、今日もいいお天気だ。ラッキーらしい。ずっと雨勝ちだったと、ホテルスタッフが皆声をそろえる。柔らかな木漏れ日が差し込む、なんとも居心地のよさそうな厨房を、怖ろしく親切なシェフ(ゲラールさんは総シェフ)の案内で見学させてもらい、ここで修行をしている日本人のキュイジニエ君の話を聞くともう、お昼ご飯の時間。プールでプカプカしているスピちゃんたちを呼んで、本館から、緑溢れる庭を抜けたところにある「フェルム・オ・グリーヴ」にお昼を食べに行く。

ゲラール村には、本館ホテルのほかに、それぞれとてもチャーミングホテルが3つある。ハーブとバラに囲まれたひたすらにロマンティックな「クヴァン・デ・ゼルブ」、カジュアルでラブリーな「ラ・メゾン・ローズ」、そして、農家風の造りの「フェルム〜」。直訳すると“ツグミ農場”という名を、私はずっと“ツグミんち”、と呼んで慕ってきた。といっても、いまだに一度も泊まったことがなく(本館よりさらに高いんだもん!)、ツグミんちに併設されているレストランも試したことがなかった。はじめてここに来たときにも気になっていたし、その後、ゲラールで働いた経験のあるキュイジニエさんにもここで食べなくちゃゲラールの本質は分からない、と諭され、昨秋に来たときにも、ゲラールさんに「食べてきなよ〜、美味しいよ〜、ピヨピヨピヨ〜!」(ゲラールさんが話すと、どうも語尾にいつも小鳥のピヨピヨいう鳴き声が聞こえてくる気がして仕方がない)と誘われたのに、時間がなくてあきらめた。そんなツグミんちを、ようやく体験できる日が来た。

スイートが3つ、普通の部屋が1つだけのちっちゃなホテルこんな家に住めるといいなあ、としみじみ感じる、なんともかわいらしい田舎家は、春の花に囲まれて、まさにおとぎの国のよう。石壁とお花を借景にした、こぢんまりとしたテラスのテーブルに腰を落ち着け、長年夢見たレストランでの食事が始まる。

ツグミんちは、ロティスリー、つまり焼肉系を中心にした、田舎の家庭料理が売り。コブタちゃんやカモ、アニョーなどをシンプルにロティした料理が、とても美味なのだそうだ。今回の滞在では、ツグミんちでの食事を2回予定している。2回分の料理構成をシミュレーションしながら、今日は、「野菜のテリーヌ」と「ブーダン」、それに「パリパリクレープ」を選択。

アペリティフも気取らないコップで甘口発泡酒にリンゴだかなにかの果物を混ぜたカクテルをゴクンと飲んで、ゲラールさんちのワインをピシェで頼んで、アントレが来るのをワクワク待つ。建物の中からはもう、肉の焼ける香ばしい匂いがもれてきていて、食欲を刺激する。

南仏野菜のテリーヌ仕立て。とろけるような柔らかさと甘味の野菜にうっとりナスやクルジェット、トマトなどの南仏野菜を、テリーヌ型に閉じ込めたアントレ。言って見れば、ラタトゥイユのデフォルメ版。肩肘を張らない優しい作りで、野菜が体内に隠しているふっくりした甘味と香りを十分に引き出してあってお見事。ああ、こういう優しい料理に飢えてたんだ、パリで。昨日から、癒し系の料理にたくさん巡り会えて嬉しい。つつかせてもらった、牛頬とフォアグラのテリーヌも、なんてことのない惣菜なのだけれど、その丁寧なつくりといい力の抜けた味付けといい、心にしみるなあ。パンもおいしいし、幸せだ〜。

ブーダンに三枚肉とキノコ添えプリン型みたいな形をして出てきた、見た目に新鮮なブーダンは、美味!の一言。そうあって欲しい程度にしっかりワイルドで野趣溢れた味わいは、甘味と香辛料の複雑な香りがきれいに融合。添えられた、とろけんばかりの脂が見事なラー(3枚肉の部分)のグリルが、見事にマッチ。ブーダンにラーを合わせると、こういう現象になるのかあ、と、はじめての体験にちょっと感動。これにやはりグリルしたキノコが添えてあり、別皿にお約束のジャガイモのピュレ♪ヤッパリこれがなくちゃはじまらない!

パリパリクレープ柑橘類とクレームアングレーズを閉じ込めて周りを軽く飴焼きしたクレープは、まーまーですかね。別になくてもよかったかも。スピちゃんの、砂糖のシンプルなお菓子のほうが好きだな、私は。明日はこれにしよう。Kが食べた、羊のチーズも悪くないかも。お約束の黒サクランボでなくブルーベリーのコンフィチュールが添えてあっていい感じ。

風が冷たくなってきたし、食後のカフェは、せっかくだから店内でいただきましょうか。バーの横の大きな暖炉には薪がくべられている。いい香りを放ちながらパチパチいう薪の音を耳に、ソファーでダラダラとカフェ時間。カフェを運んでくれるセルヴール氏をスピちゃんは気に入り、帰りがけには、お約束の写真撮影。ステファン、だったっけ?また明日来るね、とバイバイして、エステハウスへと足を向ける。エステハウスで出してくれるアンフュージョンがなかなかいけるんだよね。今日はなんのアンフュージョンを飲もうかな〜。エステに行ってまで、飲み食いすることを考えている、どうしようもない私である。

sam. 1er mai 2004



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