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グルマン・ピュスのレストラン紀行


レ・プレ・ドゥジェニー ゛ミシェル・ゲラール"(Les Pres d'Eugenie ゛Michel Guerard")

Kのペースに巻き込まれ、暴飲暴食の日々を過ごしたパリにさよ〜なら〜。疲れ果てた胃腸を癒しに、この世のパラダイス、ウジェニー・レ・バンに向かう。

去年の秋、5年ぶりに訪ねたゲラールさんの村は、あの時味わった喜びと感動を、そっくりそのまま、なんら色あせることも変わることもなく、味あわせてくれた。この世のパラダイス、と形容するにふさわしい、人里離れたウジェニーに築かれたゲラール王国は、その澄んだ空気と、生を謳歌しているような小鳥の鳴き声、そしてゲラールさんの料理でもって、いつも私を歓迎してくれる。スピちゃんとKにとっては、実に6年ぶりの、懐かしいゲラール王国の再訪。あのとき一緒だったもう一人のKがいないのが残念だけれど、6年前を思い出しながら、懐かしく楽しく、ゲラール村でミニヴァカンスを過ごす。

到着日の夕食は、ゲラールさんのスペシャリテ、キュイジーヌ・マンスール(痩身料理)をいただく。前回2回とも、ガストロ料理しか食べたことがなかったのだけれど、ゲラールさんの本領は、このマンスールと、もう1つ別のレストランでやっている焼肉料理だ、と多くの人から聞いてきた。願い叶って、ようやくキュイジーヌ・マンスールとの対峙。どんな料理なのかな、ワクワクワク。

こちらも念願だった、すーばらしいエステサロンで、くつろぎ&いやしの午後をすごし、ゆったり贅沢バスタイムで、パリの匂いを全て振り落とし、すっかり生き返った心地で、ゲラール村の空気を吸い込む。部屋のテラスからは、うっそうとした緑のなかに、田舎家の佇まいのエステスペースとプールが見える。一生ここに暮らせたら、どんなに素敵だろう、、、。毎回、同じことを考えてる自分がおかしい。パリで疲れ果てたおなかも程よく回復し、体調は抜群。さ、夕食に行きましょうか。

いつ来てもほんっとに居心地のよい、シンプルでエレガントな回廊で、優雅なアペリティフタイム。
アミューズ。殻入りのサッと火を通したラングスティヌ。美味!「アペリティフには、特製案ヴュージョンをベースにしたカクテル・マンスール(痩身カクテル)はいかがですか?」との、ソムリエ氏のアドヴァイスに従い、爽やかな甘味のある、冷たいカクテルをコクコクやりながら、今夜のキュイジーヌ・マンスールのメニューを開く。日替りで供される昼食と夕食。今夜の夕食は、デセールを含め3皿で480カロリー。しかもこれは、ワイン1杯を含んだ数値。すごいね。どんな料理が出てくるんだろう。ゲラールさんのことだ、素敵に美味しい痩せゴハンを作ってくれているんだろうね。ミニカナッペやラングスティヌのごく浅いポワレのアミューズの美味しさに舌鼓を打ちながら、想像は限りなく広がっていく。

レストランサロン初夏の夕暮れの日差しがまださんさんと降り注ぐ、大好きなダイニングルームに場所を移して、食事のはじめを待つ。6年前の思い出話に花を咲かせながら。

アントレは、「赤ピーマンロティのクリーム仕立て」。小ぶりのグラスに、クリームがかったオレンジ色が美しいピーマンの冷製スープが注がれている。甘い香りが食欲をそそる。いただきます!

言葉を失う。あまりの美味しさに。クリームが入った口はしっかり閉じたまま、目を見開き眉を持ち上げ、その感動と驚愕を何とか互いに伝えようとするスピちゃんと私。2〜3口食べたところで、ようやく言語機能を回復させ、言葉で感動を表現してみる。す、すごい、、、。なにこれ?なんでこんなに美味しいの?生きててよかった、、。最高だね。ああぁぁぁ、おいしい、、、。だめだ、こんな言葉では表現できない。このスープのとんでもない美味しさを。

驚愕のアントレ、赤ピーマンロティのクリームごく普通に、ピーマンをロティしてクリームやブイヨンを加えて作ったと思われるスープなのだけれど、その味の奥ゆかしさ、全ての素材の質の高さ、バランスのよさに、感動を通り越して恐れをなしてしまうくらい。それくらい、“そうであるべき”、“そうあって欲しい”味になっている。

オレンジの液体の中には、串刺しになったオマールエビと長くスライスした生のアスペルジュが隠れていて、これがまた、かわいいわ美味しいわで、感動はさらに高みに達する。ああ、どうしてこんなにも美味しくてチャーミングな料理を作れるんだろう?ミシェル・ゲラールは天才だ。感動に打ち震えながら、空になったグラスに畏敬の視線を注いでいるところに、セルヴール氏がやってくる。
「いかがでしたか?」こぼれるような笑顔。
「マニフィック!他に言葉がないわ。美味の粋でした」うっとり恍惚状態の声。
「もう一皿召し上がりますか」誘惑するような視線。
「へ?」思わず背筋が伸びて、恍惚状態から脱皮し、スピちゃんとKに通訳。
「ぜひぜひいたいただきます!」3人そろって、やる気満々の元気いい返事。
「少々お待ちくださいね」そよ風のように場を外すセルヴール氏。

「なんだかねえ、6年前と同じじゃん、これじゃ」Kが肩をすくめて苦笑する。6年前、私は、いただいたアントレの「ジャガイモとトリュフのスープ」のあまりの美味しさに、今夜同様恍惚状態に陥っていた。そのときにも、こうやって、「いかがですか、もう少々召し上がりますか?」と、ジャガイモの皮を器に見立てた絶品料理をか2皿もいただいてしまった。6年前の再現だ。
「覚えられてるんじゃない?6年前のことを」ホクホクスピちゃん。
「そんなバカな。私たちの感動が伝わっただけだよ」今しがた終えてしまった、いとおしい料理がまたいただけるなんて、感動の極み。すっかり嬉しくなって、バカみたいにニコニコしている私たちの前に、再びオレンジのクリームがやってきて、ゲラールさんやスタッフのみなさまに感謝を込めながら、今一度、味覚を感動の嵐に包ませる。お代わりにはオマールが入ってなかったけど、ま、よいとしよう。

スズキの蒸し煮あまりに完璧なアントレの後では、どうしてもプラの立場は弱い。「スズキのブイヨン蒸し。各種野菜添え」は、とても美味しいのだけれど、強烈な感動を持つにはいたらず。そりゃ仕方ない、さっきのアントレと比べるほうが悪い。あれはだって、年に1度出会うかどうかと言うレベルの、極上品だったもの。全然悪くないんだよ。それどころか、とても美味。ヴォーかな多分、コクのあるフォンをベースに、キャベツやニンジン、セロリなどの野菜を加えたブイヨンで、ふっくリまろやかに火を通したスズキ。ホロリととろけるような身に、ブイヨンの甘さがじわりと染み渡っていて、ゆかしい味わい。レモンの酸味とのバランスも絶妙。野菜たちの美味しさについては、言うまでもない。味の主張がはっきりした、野菜らしい野菜たちの美味しさに、頭が下がる。いつもながら、どこまでもやさしくおちゃめでかわいらしい、ゲラールさんらしい一品だ。

グロゼイユのジュレ、生クリーム添えおやつは、グロゼイユのジュレに生クリームを添えたもの。すっぱくて嫌いなグロゼイユなのに、なぜかゲラールさんの手にかかると、これまた、だーい好きな味に変身しているから驚く。きれいな酸味と甘味が同居したトロリプルリとしたジュレもさることながら、こちらもあんまり好きでないはずの生クリームがまた軽やかで美味しいんだ。ヴァニラを散らした、香り高いクリームとつややかな赤が美しいジュレとの相性がこれまた抜群で、うっとりを通り越して、思考が働かなくなりそうだ。すごいよー、ゲラールさん。

カヌレとショコラ入りレモンクリームおなかいっぱい!美味しかったねー。かぐわしい香りのミントティーをしめくくりにいただく。キュイジーヌ・マンスールなので、プチフールが出てこない。ヤダ。ここの、お気に入りのカヌレを食べなくちゃ、ゴハンを終えられない!お願いして、カヌレを運んでもらってゴキゲン。想像以上に素晴らしかったキュイジーヌ・マンスールへの感動に今一度浸って、夕食を終える。

パンも出ないしフロマージュももちろんNG。料理自体にコクもなく、ガッチリ系料理が大好きなKにとっては、何か物足りない料理らしい。スピちゃんと私にとっては、完璧な料理だったけれど。こんな料理なら、毎日食べられる。昼夜、500〜600カロリーのゴハンをいただきながら、温泉で療養したりエステしたり、テニスやプールに興じたりして過ごす2〜3週間。世界中のお金持ちが毎年過ごしているこんなヴァカンスを私たちも実行できれば、世にも素敵なダイエットが出来るだろうにねえ、、、。そんな、見果てぬ夢に思いを馳せてため息をつく。いいんだ、2〜3週間が無理でも、こうやって2〜3日をこの世の天国で過ごせるだけで、十分に幸せだもんね。今この瞬間にゲラール村にいる幸せに浸りながら、気持ちのよいベットにもぐりこむ。お休みなさい、また明日ね!


ven.30 avril 2004



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