「つぐみんち」でランチをしてパリに戻る予定だったのに、スピちゃんとKの反対にあう。曰く、“つぐみんちのたぐいの料理は、パリのよいビストロでも食べられる”。曰く、“ガストロを満喫しきってない!”。民主主義の国にいる以上、多数決に従う。ガストロレストランのテラスで、Kはガストロメニューを、スピちゃんと私はマンスールメニューをいただき、ゲラールさんちでの最後のご飯を楽しむ。
清らかな空気が漂っているガストロレストランのサロンの横に続く、こぢんまりとしたテラス。ポンポコリンに膨らんだクッションがおかれた椅子が私たちを迎えてくれる。爽やかな風、明るい空、甘い香りが漂う空気。あと数時間で、こんな素敵なものたちと縁がないパリに戻るのかと思うと、深いため息が出る。ダメダメ。パリのことなんて今は思い出さず、ゲラール村にいる幸せに浸らなくては。
オリジナルアペリティフと一緒に、アミューズの「鶏のブーダン、トリュフソース、アスパラガス添え」を楽しむ。サラリと品のよいブーダンに、濃厚なトリュフの香りが絡まり、なんとも美味。口の中で甘く広がるアスパラガスの香りもよろしい。
本日の痩せご飯のアントレは、「カニのカネロニ」。サラダ感覚にアレンジしたカニをカネロニにしたてて、甘酸っぱいソースを添えた一品。ソース、何の味だったっけ?確か、マンゴーだったと思うな。ちょっと南国風の甘くトロンとした味だった。
プラは、「仔兎のロティ」。ニンジンとクルジェットをさっぱりと火通ししたのが添えられた、こんがりローストされたウサギちゃんの腿と胸。かぐわしいハーブで香りがつけられた、さっぱりあっさり、仔兎の美味しさが満喫できる。ロニョンとフォアがコロンと飾られているのもかわいい。こういう料理、大好きよ。
おやつは「ポワールのテリーヌ」。まあまあかな。この間の、赤い果物ジュレがかなーり美味だっただけに、立場が悪い。素直に美味しいのだけれど。
気持ち風が冷たいテラスには2〜3組のお客様しかいない。端で1人で食事をしている叔父様が素敵だ。1人ご飯はつまらない、と思ったのか、ゲラール村でのんきに暮らしている鳩が一羽、叔父様のテーブルに同席している。見るからにお育ちのよさそうな叔父様は、スピちゃんと私が熱愛しているJ−L・シャーヴの作った白のエルミタージュで、上品な唇を湿らしながら、ホッホホホ〜という感じの笑顔を、私たちや鳩に笑顔を向ける。いいなあ、あの鳩の代わりに、私が叔父様のテーブルに同席したい。シャーヴのお相伴に預かりながら。
優しい叔父様につけこんで、生意気ゲラール村の住人(住鳥)は、テーブルをウロウロしては、ワインのエチケットを思案気に眺めたり、パンくずをもらったり、料理に首をかしげたり。
のんきで平和なお昼ご飯が終わる。最後にもう一度、ゲラール村を散歩して、気持ちのよい笑顔の従業員たちに見送られながら、来たときと同じタクシーに乗り込む。
「で、どうだった?いい滞在だった?」と運転手さん。いい滞在?そりゃあ、もう。言葉で言い尽くせないくらい。一瞬一瞬が心の底から気持ちのよい、非現実的な幸せに包まれた滞在だった。また近いうちにここに戻ってこられるよう、心から祈りたい。ありがとう、ゲラールさん。
dim. 2 mai 2004