“つぐみんち”でのカジュアルランチを楽しんだあとは、泥風呂に浸かってみたり(これが気持ちよくて楽しい!)、ジェットシャワーで痛がったり、マッサージで寝とぼけてみたり、極楽エステ時間。俗世の憂きを忘れ呆ける午後を過ごしたあとは、きっちりおめかしして、ガストロノミー料理を楽しもう。
例によって、空間の広さが気持ちよい回廊のソファーで、アペリティフタイム。昨日と違って、今日は、カルトやワインリストをしっかり読んで選び出す楽しみがある。あー、今夜はアミューズも、油を使ったものが出てきたー。モモのリキュールを落としたキンと冷えたシャンパーニュにうっとりしながら、料理翻訳。「これぞ料理!美食たるものこうでなくては!」と嬉々とするK。よかったよかった。
ワインリスト、帳簿みたいな体裁のノートでかわいい。この体裁、昔デュカスがパリに進出したとき、16区のレストランでやってたね。美しいカリグラフで記されたワインにうっとりしたっけ。数字のところだけ鉛筆書きなのに、そりゃそうだよね、とうなずいたものだった。懐かしいねえ。
あ、ゲラールさんが奥のテーブルで挨拶してる。こっちにも来るかな〜、あ〜行っちゃった〜。挨拶したいな。メートル氏を呼んで、会いたい旨伝える。
「分かりました、少々お待ち下さい」と下がったメートル氏が1〜2分して戻ってくる。
「よかったら、厨房でお目にかかりたい、とのことです」よかったねー、スピちゃんとK。厨房見学が出来るよー。午前中に訪ねたときと同じように、柔らかく和やかで落ち着いた空気に包まれた厨房の、仕上げの場所で、相変わらず妖精じみた雰囲気のゲラールさんが、ニコニコ笑いながら仕事をしている。
「やあやあやあ、ピヨピヨピヨ〜。ボンソワー!よく来たね!また来てくれて嬉しいよ。ピヨピヨピヨ〜」。キラキラ目に真っ赤なほっぺがかわいい。秋同様、いろいろと便宜を図ってもらったお礼を伝えて、6年前に一緒に来たKとスピちゃんを紹介。ちょっとだけお話して、6年前と同じように写真を撮って、忙しいシェフの笑顔に見送られて、テーブルへと場所を移す。
すごぶる美味しいパンが運ばれ、Kはゴキゲン。確かに、食事にはやっぱりパンがあったほうが嬉しいよね。厨房で焼いているパンが見事に美味しくて、パクパクパクパク、ついつい食べ過ぎてしまう。お、アントレがやってきた。ジャガイモにトリュフを加えてミルフォイユにした上に、たっぷりカヴィアが添えられた一品が、私のアントレ。ほんっとにジャガイモ好きだね。バカかと思うよ。6年前はジャガイモとトリュフのヴルーテ、去年はジャガイモとトリュフのサラダ、そして今年もまた、この2つが入った料理。トリュフが大好きなわけではないのだけれど、なぜがジャガイモに一緒にくっつくことが多いんだ。間違いようのない、美味しいに決まっている組み合わせは、ハッとする感動はないけれど、心落ち着く味。昨日の感動がまだ残っているだけに、ちょっとインパクトには欠けるかな。
口直しの、グラニテは爽やかな甘味のミュスカ。おなかをしゃっきり整えて、存在感のあるプラに向かう。で、そのプラなんだけど、なんのパイ包みだったけ〜?鳩とフォアグラだった?違うなあ、リ・ドゥ・ヴォーも入っていたはず。鳩とリ・ドゥ・ヴォーかな?とにかく、そんなガッチリ系のファルスをパイ皮で包んで焼き、濃厚なマディラソースを絡めた、ウルトラクラシックな1品。ああ、いいですねえ。こういう料理をいただくと、フランス料理の真髄がソースである、というのを体中で感じる。力強く奥深く、きっちりと味を前面に押し出してくる料理には、嘘も偽りもなく、堂々と食べてに立ち向かってくる。こういう料理の味の記憶を、いつまでも脳裏に刻み付けておきたい。添えられた葉っぱやノワゼットで時々口の中の味を変えながら、オーセンティックなフランス料理に舌鼓を打つ。コクのある、ゲラールさんの赤ワインがまたよくあうんだよね。
おやつはいらない。プチフールで十分。今日はなにも言わなくてもちゃんと出てくるカヌレをパクパク。マカロンもいけるんだ、ここ。他のプチフール何もいらないから、カヌレとマカロンだけたくさん出してくれるといいのにねえ。庭で摘みたてのヴェルヴェンヌやミントの香り高いお茶を楽しんで、おなかいっぱいな夕食を締めくくる。あー、おなかがはちきれるー。美味しかったねー。
今日は5月1日。ほんとは、モナコのピコちゃんちで、ミュゲ(スズラン)の花束をもらいたかった。散々悩んだ挙句にピコちゃんをはじめとするコートダジュールの美食をあきらめてゲラール村に来た今年の春。ミュゲはもらえなかったけれど、ピコちゃんの代わりに生きている小鳥がたくさんいるし、テーブルには銀の代わりに銅のウサギちゃんまでいる。ピコちゃんとミュゲがなくても、十分幸せな5月1日になったね。
sam.1er mai 2004