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グルマン・ピュスのレストラン紀行


オステルリー・ジェローム(Hostellerie Jerome)

恋とは盲目。700キロの距離をものともせず、この10ヶ月で3回、私は、一目ぼれしたホテル・レストランのベルを鳴らす。

Beaulieu恋してるのは、このレストランがある土地のせいでもあるんだろうな。“コート・ダジュール”。私を骨抜きにする言葉。紺碧の海、鮮やかで太陽の味のする食材、リヴィエラをそよぐ甘い風。世界で一番好きな場所。

すぴちゃんより一日早くにニース入りして、翌朝、空港へお出迎え。車借りて(今回は、ルノーのメガーヌ)、東へ進路をとって、さあ、2002年5月のコート・ダジュールの旅がはじまります。

途中、ボーリュー・シュル・メールの街を見下ろすヴィスタ・ポイントで車を停める。気前がよすぎる太陽の光を受けて、海だけでなくて街までキラキラ輝いている。ボーリューの海は透明できれい。いつか、泳いでみたい場所。

ずっと前から行きたかったのに、なぜか一度も行く機会のなかった、キャプ・フェラのロスチャイルド邸。5度目か6度目かの正直で、ようやく訪ねたその館は、センスのいい女主人の美徳をたっぷり感じられる、豪奢でチャーミングな館。こんなところに、住んだ人がいるんだねえ、、、。海を臨むサロンが見事だ。裏手に広がる広大な庭が、またすばらしい。いろいろなタイプの庭園をしつらえ、つねに背景には海を感じられる、それはステキなお散歩コース。もっと早くに来たかったなあ、こんなにすばらしい場所だとは知らなかった。

そして車はラ・チュルビーに向かう。愛するレストランのある村に。お昼寝の恋しくなる頃あい、人の影の絶えたえた村に降り立ってベルをチリン。またここに来られた喜びに胸をドキドキさせながら、小さな扉のひらくのを待つ。

「ボンジュー!元気だった?また会えて嬉しいわ」
「ボンジュー、マリオン! お元気、みなさん? ああ、またここに来られたんだ〜、幸せだわ、私」マダムのマリオンの優しい笑顔がむかえてくれる。
「この間はファックス、ありがとうね。すごく嬉しかったわ」この店は、今年のギッド・ルージュ(旧ミシュラン)で2つ星に上がった。
「速報聞いて、あんまり嬉しくて、おゆわいファックスしちゃったわ。去年の春に来た時から絶対に2つ星になるって信じてたの、私。ほんとにおめでとう!」
「ありがとう。私たちにとっては、ステキなごほうびだったのよ。さ、荷物持つわ、かして。部屋にいきましょ」重たい荷物を持つマリオンのあとを続いて細い階段を上りはじめる。途中、厨房に向かって「ちょっと上まで行ってくる。すぐ戻るわ」と、話しかけたその先に、いつもかわらぬつぶらなひとみを発見。
「ククー、ムシュ・シリノー!」
「ア〜!ハウ・アー・ユー?」そう言えばいつも英語であいさつするなあ、この人。お元気そうでなによりだ。なに仕込んでるのかなしら?今夜はどんな料理を食べさせてくれるんだろう?ワクワクしながら、階段を上る。

いつもと同じお部屋に落ちつき、ソファーでふう。すぴちゃん、いたくお部屋をお気に入り。いいよね、この部屋。広くてサロンスペースもあって、海も見える。レース生地を張ったついたてやこぢんまりとした書斎もステキ。シリノさんが、アンティーク市で仕入れてきたものばかり。ホテルの改装を進めている最中。この部屋はまだ未完成だけれど、ソファの生地を張り替えたり、ワードローブも新しくするんだって。これで十分ステキなのに、、、。ワードローブ、私が引き取りたいくらいだわ。横のお部屋はすっかり改装ずみ。ほんとはそっちに泊まりたかったんだ、2人だし。2月に予約した段階で、もうこのスイートしか空いてなかった。ま、いいさ。この部屋、大好きだしね。

ジサボケで疲れ果てたすぴちゃんは死んだように眠ってしまい、つついてもひっぱってもウンともスンとも言わない。しかたないので、1人でお散歩に行ってこよっと。トントントンと、階段を降り、玄関を開けようとしたところで、うしろからバタバタバタと足音が追いかけてくる。振り返るといい男が立っている。
「ジュリアンじゃない!サヴァ(元気)?」
「ボンジュー!久しぶりですね。また来てくれて嬉しいな」セルヴールのジュリアンの精悍な笑顔に、こちらは真ん丸の笑顔を返してみる。相変わらず顔ちっちゃいなあ。私の半分くらいしかないよ、、、。

この店には、メートルを抜かして2人のセルヴールがいる。ジュリアンとピエール。ピエールは、はじめて来た時に「この子と会うのは多分はじめてだけれど、このサーヴィスはどこかで受けたことがある!」と私に思わせた、かわいくて素直な「ル・ジャルダン」(パリ8区にあるお気に入りの1つ星レストラン)上がりの若者。同じボー・ギャルソン(ハンサム君)でも、ジュリアンの方は、もっと硬派でしっかりしてる、という感じ。タイプで言えば、前者は完全に犬、後者は猫か?前者は甘え上手、後者は甘え下手(笑)。ピエールならともかく、ジュリアンがわざわざあいさつに出てくれるとはねえ、、、と、ちょっとびっくりしながら、おしゃべりに花を咲かせる。

中世の面影を残すラ・チュルビの旧市街(街、なんて言うのもためらわれる小ささなのだけれど)は、ゆっくり歩いても5分で散歩が終わってしまう。所々に潜む猫達ともお久しぶりのご挨拶をして(私の経験によると、この村の小路を闊歩する猫は全部で4匹)、部屋に戻ってゆっくりバスタイム。まだまだ暮れる気配のない空を尻目に、8時半過ぎにレストランへ下りる。

マリオンとメートルが出迎えてくれるその横に、なんだかかわいらしいセルヴール君。「ボンソワ〜」とひたむきな視線であいさつしてくる。“んー、これがピエールだったかなぁ、、、?”心の中で慌てて記憶をたぐる。人の顔を覚えるのが大の苦手な私。ピエールとは、春に来た時にたくさんおしゃべりしたけれど、秋にはヴァカンスを取っていたので会えなかった。“多分、この愛敬のあるお顔とひとなつこい態度はピエールだと思うんだけれど、もしも違ってたらイヤだしなあ、、、。写真まで一緒に撮ったんだけどなあ。あの時とは髪型が違うし、、、。うーん、分からない。いいや、ここはうやむやにしておこう。”と、一瞬のうちに決意を固め、「ボンソワ〜」と、うやむや笑顔を浮かべながら、軽くあいさつだけして、テーブルへと案内してくれるメートルに従う。

ジュリアンがさっき、「んっと、今夜の席はあの窓際のところだよ、多分」って言っていた通りの、テラスに面したテーブル。一度すわりたかったんだ、ここ。いつも人数多かったから、暖炉側の丸テーブルばかりだった。シャンパーニュでチン(乾杯)して、アミューズをつまみながら、シュザンヌが絵を描いたカルトを開いて楽しいお料理選びの時間。エズに住むシュザンヌは、この店のカルトや食器を作っているアーティスト。かわいい犬と猫と旦那様と一緒に、エズの村と地中海を見下ろすすばらしい家に住んでいる。

先の2回は、ア・ラ・カルトで注文していたけれど、よく見ると、今夜のムニュはなかなか魅力的。全て2種類からチョイス可能な3皿。これで50ユーロ。安いよねえ、ア・ラ・カルトに比べるとめっちゃお得。なかなかそそられる料理もあるし、じゃ、今夜はムニュ体験してみましょう。

ところで、先ほどのかわいらしいセルヴール君は、やっぱり間違いなくピエールだ。うん、そうだそうだ、絶対そうだ。さっきからその辺をうろうろ、フロマージュを運んだり、料理を運んだり、何度か私たちの横を通るのだけれど、もうこっちに話しかけてこようとしない。ふむ、私がさっき、きちんとあいさつしてあげなかったからだなあ。ゴメンネ、ピエール。もうちゃんと分かったからこっちおいでよ。

canard「アミューズは、、、。アハハ、説明する必要ないわね」料理もお酒もオーダーし終わり、本格的な食事モードに入った私たちに、マリオンが「鴨のフリアン(小さなパイ)」を持って来てくれる。
「わーい、このアミューズ大好き。変えないでね、ずっと」
「ええ。好評なのよ、これ。気に入っているお客様、とても多いの。今夜は、ジロール茸のソースよ。ボナペティ!」
「メルシー、マリオン。いっただきまーす♪」

味のしっかりと濃いロケットに似た感じの葉が添えられた鴨のパイは、私の大好物。内蔵も一緒に挽いたと思われる肉をサックリパイで包んで焼いただけなのだけれど、なんともいいんだよねー。肉の重々しさ、逞しさをしっかり感じられ、シャンパーニュにピッタリの一品。主張しすぎない、香りだけきちんとするソースがいい。秋にはトリュフのソースだったっけ。

foiegrasアントレを運んでくるのは、おお、ピエールじゃないですか!
「こちらは、仔鳩とフォアグラ、ジロールのサラダ、プティ・ポワ(グリーンピース)のピュレです」ひたむきな目が期待を込めてこちらを見る。
「メルシー、“ピエール”。元気だった?久しぶり」とたんに輝くピエールの目。
「元気ですっ!あなたもお元気でした?また会えて嬉しいですー。僕のこと覚えてないと思ってました。さっき入り口で会った時、あいさつしてくれなかったから、、、」
「あなたかどうか、ちょっと自信がなかったの。秋に来た時会えなかったから、久しぶりだったし、、、。ゴメンネ」
「いいんですー。そっか、秋、僕ヴァカンスだったから」
「そうそう、コルスとパリに行ってたでしょう?」
「そーなんです。秋もよかったですか、ここ?」
「うん。でもピエール、あなたがいなくて、ちょっとがっかりだったわ」ようやく思い出してもらえて、すっかり嬉しいモードになってしまったピエール。セルヴールと話をするのが大好きな私ですら、そろそろ料理の状態が心配になって来てしまうくらい、嬉しそうにあれやこれやと話しを続ける。かーわいいんだよね、ほんと。じっと瞳をみて話しかけてくる。目がまた、いいんだ♪いかんいかん。このままだと、完全に料理を忘れてしまう。またあとでゆっくり話そ、ピエール。ピエールが油を売っていた間に1人一生懸命働くジュリアンの手伝いをさせるべく、ピエールの目から料理へと視線を移す。ふふ〜ん、おいしそうだ。いただきまーすっ!

うっま〜。鳩も、ジャガイモも、ジロールも、プティポワのピュレも、どれもこれも、しっかりと誠実に料理されている。シェフの真摯な姿勢がジワジワ伝わってくるんだ。なんてことない様相していながら、じんわりと染みてくる味。シリノさんの料理っていつもこうだ。ただ、フォアグラがイマイチなのが残念。自家製らしいのだけれど、ちょっとお酒入れすぎた?アルコールの香りがきつすぎる。これはダメ。ほかが全部すばらしい出来なだけに残念だなあ。

「パン、もっと持ってきますねー」と、パン籠を手にするピエール。(2つ星レストンで、パン籠がテーブルに乗ってるのってここくらい(笑)?)いや、まだ4切れも残ってから足す必要ないと思うけど、、、。お張り切りである。

agneauプラは「仔羊のロティ ローズマリー風味、野菜のプティ・ファルシ添え」。うっひゃ、いい香り!いつも思うけれど、南仏野菜と仔羊が一体になった時の香りって、なにか神々しさすら感じさせる、たまらない匂いだよね。仔羊、これ、どの部位なんだろう。肉自体は、背肉に感じられるような繊細な柔らかさと香りが足りない。悪くないけれど、私はやっぱり羊は背肉がいい。

野菜のファルシ達は最高!ちょとグシュグシュとした離乳食のようなテクスチャーの野菜のみじん切りが入っていて、これがすごく美味。ナスに感動し、赤ピーマンに涙し、花つきクルジェットに打ち震えたあと、最後に残ったトマトにナイフをいれる。な、なんと!トマトにはグジュグシュ野菜が入っていない!ガーン、、、。トマトにしてやられた、、、。とは言っても、ただの焼トマトが、泣けるほどにおいしかったのは言うまでもないです。

う、ちょっとパン食べすぎたかなあ。おいしいんだよね、ここのパン。そしてまた、パンが食べたくなるような料理なんだ。でも今夜は、フロマージュにいくの。ここ、一皿の量が多くて、フロマージュを食べられたことがなかった。今回こそ!と、フロマージュを想定しながらアントレとプラを迎え、お腹にどうにか隙間を残した。ワインもきっちり一杯分残して、よし、今夜こそ念願のフロマージュだー!さっきからジュリアン達が切り分けているフロマージュがまた、いたくおいしそうなだよね〜♪

と、ソワソワしているところに、メートルがフォークとナイフを並べる。ん?なんで、「フロマージュはいかがですか?」と聞く前にカトラリーを並べるの?な、なんかちょっとヤな予感、、、。そんな不安を察したか、メートルが言う。
「シェフからサーヴィスがあります」うぅぅぅぅ、、、。私とあんまり仲のよくないメートルの口元がなんとなくイジワルっぽく見えたのは気のせい?

ほどなく運ばれてきた皿を見て、思わずうめき声を上げそうになった。た、食べられないよ、そんなに、、、。運ばれてきたのは「フォア・グラのポワレ」。これに、プティ・ポワのピュレ、ジャガイモとジロールのロティ、葉っぱがついている。希望はついえた。さようなら、フロマージュちゃん。今宵もあなたに巡り合えずに終わってしまうのね、、、。心の中で、フロマージュ・プレートに涙ながらの別れを告げながら、言葉に出してはにっこり笑って
「まあ、ありがとう!シェフによろしく伝えてね!」。レストランでの葛藤はつきものである、、、。

お察しの通り、フォア・グラはイマイチ。元が駄目なんだもの、どんなにうまく焼いたってどうにもならないよ。ま、ガルニ(付け合わせ)がそろって美味なので、いいでしょう。プティポワのピュレとジャガイモは、アントレについていたのをお代わりしたいな、と思っていたくらいだったし、また会えて嬉しい♪

どうにか失礼にならない程度までフォア・グラを食べて、お腹いっぱい、もうだめ、、、。「フロマージュ、食べます?」と涼しい顔して聞きに来るジュリアンに、弱々しく首を振る。
「じゃ、デセール持ってきますね」
「よろ〜」

ところで、しばらく前からピエールの姿が見えない。満席だった客席も、お客様はもう1〜2組が残るだけ。またしてもラスト客コースだなあ、これじゃあ。ピエール、帰っちゃったのかしら?あいさつもなしに?どきどきすること数十分、ようやくピエールの姿を見た時には、ちょっとホットする。

millefeuilleデセールは、「フレーズ・デ・ボワ(森イチゴ)のミルフォイユ、フロマージュ・ブランのソルベ添え」。フレーズ・デ・ボワ好き。この店のフロマージュ・ブランのソルベ好き。まさに私のために用意されたデセールだわ♪はじめて来た時にもこの果物のミルフォイユを食べたけれど、あの時のパイ生地の方が好みだったなー。もう少しざっくり感のある生地がいい。てっぺんに飾られたイチゴの横の花がチャーミング。シリノさんらしい飾りつけ。フロマージュ・ブランのソルベは変わらずいいねえ。秋に来た時、たっぷりお代わりしたっけね。ステキなアンティークのグラスに入っててステキだったな。さらに、マントンレモンで作ったソルベを平らげ、ようやくカフェまでたどりつく。うううぅぅぅ、、、食べ過ぎだぁ、、、、。

夜もすっかりふけて、お客様も残ってない。仲よくなれないメートルはさっきから、なんとなく私たちのテーブルを片づけたそう。ハイハイ、分かったよ。もう行くから大丈夫。厨房と客席の間に飾られているシェフ人形のコレクションを見せてもらって、メートルにメルシーとオーヴォワーして、ジュリアンに案内されながらレストランを出る。今日は、珍しくジュリアンが饒舌だ。6月に来た時は、ピエールの一人舞台だった。10月に来た時には、ジュリアン1人だったので、なにかと私たちの面倒を見てはくれたけれど、あくまで猫の雰囲気のまま。今日は、昼間のあいさつからはじまり、なんだかちょっと犬っぽいジュリアンである。ヴァカンスの話から仕事の話、こんどはここで誕生日パーティーを開こう計画から、どの海がいちばん静かで水がきれいかまで、とめどめのないお喋りが続く。今度夏に来たらそのすてきな海の場所を教えてくれる、と約束して、ボンソワー。客席の片づけに戻っていくジュリアン。

厨房覗いてシリノさんを呼び出して、今度はシリノさんご夫妻とおしゃべりの時間。ホントなら、今朝からパリにいく予定だったシリノさん。寝坊して、朝早くの飛行機に乗り損ねたんだと。「おかげで会えて、私は嬉しいわ」と笑うと苦笑。2つ星になってから、日本からの来日オファーの電話もひっきりなしなんだそうだ。近い将来、初来日を果たすだろう。
「明日こそ乗り遅れたくないから、僕もう行くね。チャーオ!」と、いつも引き際が早めのシリノさんはマリオンを連れて去っていく。
「さーよーならー。またねー」

さて、私たちも部屋に帰る?ピエールにあいさつだけして。厨房を覗くと、キュイジニエさんたちと一緒に片づけ中のピエール。
「ボンソワーを言いに来たの」
「あー、今行きますー」ボンソワーだけのはずが、気づいたら30分も話し込んでしまった、、、。終わらないんだよね、ピエールの話って。どうでもいいような話が延々と続く。ま、私たちとしては、あのひたむきな目を見ているだけで楽しいんだけどさ。
「さっき、しばらく姿が見えなかったから、帰っちゃったのかと思っちゃった」
「僕が、あいさつもなしに帰るわけないじゃないですかー」ちょっと嬉しそうである。
「仕事はどお?」
「頑張ってます。時々頭が痛くなるんだけどねー。今夜も少し痛かったのー」なんだそれ(笑)?口に出しては、
「大丈夫なの?働き過ぎじゃない?」
「大丈夫ですー。頭くらい痛くても、顔に出さずに仕事するのがプロってものです!」思わず吹き出してしまう。ピエールって、なんでこんなにとぼけてて素直でかわんだろう。さすがは、愛しのジョスラン(ピエールが以前働いていたレストラン「ル・ジャルダン」(パリ)のメートル・ドテル)が仕込んだだけある。
「エライね!プロだね、ピエールは」幼稚園の先生になった気がする、、、。

それにしてもピエールとジュリアンは好一対。休み時間にはなにしてるの?と聞くと、ジュリアンは
「海だな」、ピエールは
「海はあんまり行かないー。フット(サッカー)してる」従業員でゲームもするらしい。
「厨房vsサル(フロア)なんです」とピエール。サル?サルって、メートルとジュリアンとピエールじゃん。チームワークわるそー、、、。思うに、あんまり仲よくないと思うね、ジュリアンとピエールは。猫と犬。硬派と甘えっ子。仕事の出来は、どちらもとてもいい。お客様との接し方も。ピエールが23歳。ジュリアンは多分1〜2歳年上。どちらも質のいいセルヴールだと思うし、性格も、全く違うけれど2人ともとてもいい。この店の宝だね。しかし、もちょっと仲よくすればいいのに。

厨房メンバーの証言によると、このレストランに来る日本人は、みんなピエールと一緒に写真を撮りたがるんだと。
「そんなことないですよー」とピエールは否定するけれど、
「ふぅぅぅぅ〜ん?」と念を押してみると、
「時々はー」と簡単に白状。かわいいやつだ(笑)。まあ、気持ちは分かる。ほんとにかわいいもんね。ジュリアンだって同じくらいカッコイイけれど、頼みやすいんだろうなピエールの方が。

そんな、だれからもかわいがられるピエールに、ジュリアンはやきもちを焼いているのかもしれない。この30分だって、ピエールがこうやって私たちとおしゃべりしている間、ジュリアンはサルの片づけを黙々とやっている(気配がする)。いつだって、お客様のシュシュ(お気に入り)はピエール、ということになっているのかも。そういう意味で、レストランに入る時に、私がピエールのことを覚えていなかったそぶりをしたのは、彼にとってはびっくり仰天、そんなことはありえないことだったんだろう。そりゃそうだ。6月には、夜も朝もあれだけおしゃべりして、一緒に写真も撮って、「その写真欲しい〜」とせがむから送ってあげまでもした。なのに、忘れられているらしい、なんてシチュエーションは、ピエールにとっては珍しい体験だっただろう(笑)。本当に嬉しそうだったもんね、「もう僕のこと覚えてないのかと思っちゃいました〜」って言った時。

すぴちゃんと相談する。ピエールを甘やかしちゃいけない。冷たすぎるくらいにしないと、ジュリアンがかわいそうだ。今回、写真は、すぴちゃんは2人とそれぞれに、私はピエールと一緒に撮っている。すぴちゃんとジュリアンの写真だけ、あとで送ってあげよう。ピエールのうろたえる姿が今から目に浮かぶ。
「あれ〜、僕の写真は入ってないのー?どーしてー?」(ピ)
「知るかよ」(ジュ)
「おかしいよー。入ってるはずだよー。ジュリアーン、きちんと探して!」(ピ)
「入ってないって!この一枚だけだったよ。宛名も俺になってるじゃん」(ジュ)
「おかしーなー。あ、頭痛くなってきたー」(ピ)そんな会話が交わされるんだろうか(笑)。

「明日、明後日はお休みでうれしー」
「よかったねー。なにするの?」
「髪の毛切りに行くんだ」
「短いじゃない、十分」
「ううん、ほらー、ここのところがちょっと長いのー。ほらほら、ここー」と首の生え際の辺りを指差す。仕方ないので、
「どれどれー?」と見てあげる。猿の毛繕いみたい、、、。

さ、そろそろ部屋に戻ろう。10分くらい前に一度、「そろそろ戻るわ。仕事の邪魔になっちゃうし」と言ったら、「仕事は大丈夫ー。ほとんど終わってから」と答えが返ってきたが、それじゃ、横のサルでいまだに仕事をしている(気配のする)ジュリアンの立場は、、、?みんな揃って仕事を終える、と言っていたけれど、こんな風にお客様と遊んじゃうピエールは、絶対一番仕事してないんだろうなあ。そして、それをはやしたてる陽気な厨房メンバーたちも、あんまり片付けに励んでいるようには見えない。1人ジュリアンが、もくもくと仕事をしている真夜中である。(あ、メートルはとっくに帰ってるよ。)
「僕、ここが大好き。シリノさんに連れて来てもらって(ピエールは、シリノさんが「ル・ジャルダン」から移った時に一緒に連れてこられた)、ほんとによかったー」人生は幸せなピエールである。次に来る時には、ジュリアンの幸せな人生について、もっと耳を傾けよう。

シリノさんのチャーミングで誠実な料理、マリオンの心のこもったおもてなし、ピエールとジュリアンの質のいい優しいサーヴィス。「オステルリー・ジェローム」は、その外見を見て一目ぼれをして以来ますます惚れ込みつつある、この地区きってのお気に入りホテル・レストランである。


dim.28 avril 2002



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