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グルマン・ピュスのレストラン紀行


オステルリー・ジェローム(Hostellerie Jerome)

「レゼルヴ〜」でうっとりお昼ご飯の後、このホテルに泊まりたいのはやまやまだけれど、さすがにそれは予算オーヴァー。プールのあたりをお散歩だけして泣く泣く「レゼルヴ〜」に別れを告げ、この夜は、ラ・チュルビに程近い渓谷の村、ペイヨンで過ごす。山の山のそのまた山奥に隠れた、秘境のような鷲の巣村。なんだってこんな不便なところに村を作ったんだろうねえ。全く観光地化していない、風情たっぷりネコたっぷりの鷲の巣村で、久しぶりにきれいな空気をひたすら体内に溜め込んで、音のない夜を過ごすして至極満足。こういう、人工的な音が全く聞こえないくらいの田舎が私は好きなんだ。

で、翌日。昼前には、ラ・チュルビに行っちゃって、さっさと「ロステルリー・ジェローム」にチェックインし、溺愛している村のネコどもとの再会を楽しみ、友達に薦められたお菓子屋さんを覗くつもりだった。のに、絶品パスタを食べに行こう!とアルメルの言葉に引きづられ、200キロも車を飛ばし、はるばるイタリーはポルトフィノまでパスタを食べに行く。ジェノヴァの先にある、風光明媚なこぢんまりとした超高級リゾート地。ミラノの富豪たち御用達のヴァカンス地なんだそうだ。贅の粋を集めたような、ひっくり返りそうに素晴らしいホテルのテラスで、イカとクルジェットのフリットに、おいしいパスタをいただく。確かに美味、素敵に美味。しかしなあ、往復400キロを飛ばす価値はあるかなあ?高いしねー。いやしかし、すごいなこのホテル。私なんかが入り込むのは間違ってる、、、。ポルトフィノのスノッブな港を散策して、再び200キロの道のりを飛ばしてラ・チュルビにたどり着く。もう7時すぎだよ。お昼寝しそびれた、、、、。

ラ・チュルビの村と言うわけで、今年もまたやってきました「ロステルリー・ジェローム」。パリの「ル・ジャルダン」で、麗しいジョスランがこのレストランの名前を教えてくれたのは2000年9月。ジョスランの言葉だけで、まだ見もしないレストランに惚れた。そして初めてここを訪れたのは、2001年6月。ホテルを一目見て、心臓がドキン。部屋を一目見て、心臓がドキドキ。そして料理を一口食べて、心臓は跳ね上がった。「ロステルリー・ジェローム」は、めったに遭遇できない“私のレストラン”だった。コートダジュールに住んでいたら、絶対に毎週通うのに、、、。パリに住んでいるわが身が本当に恨めしい。それでも、ニース空港に降りるたびに必ずここまで足を運ぶ。一昔前は、アントワネットちゃんが待つ「バスティード・サンタントワーヌ」にひたすら通いまくったけれど、ここを見つけてからは、ニース西側には見切りをつけ、東側ばかり。そろそろ、アントワネットちゃんよりも、この村のネコ共に会う回数の方が多くなりつつある。元気かなあ、アントワネットちゃん。恋しいなあ。

オステルリー・ジェロームいつもの部屋に落ち着いて、窓辺に腰掛け、ピンクから青そして紺へと色を変えていく空と海を眺める。海を遠くに臨むこの窓からの風景、気に入ってる。変わらないこの景色をまた目にできて幸せだ。一休みしてから、レストランへ降りる。9時過ぎ。すでにあらかた埋まったテーブルからは楽しげな会話といい匂いが立ち上っている。いつ来ても、ほんとに気取りがないよね、このレストラン。田舎っぽいかわいらしさを持つ雰囲気に、シリノさんの選択眼が光るアンティークオブジェを散らして。シュザンヌが絵を描いたカルトの柔らかな色がアクセントになっている。お客様はといえば、こちらも変わらず、のんびり屈託がないゲストたちにまぎれて、モナコから上ってきた金持ちたちがチラホラ。こんな田舎風の内装のレストランで食事したことないでしょうあなたたち、って感じの装いで。私の知っている限り、唯一、パン皿を出さない☆☆レストランで、今宵もまた至福のひと時になるに違いないディナーが始まる。

シャンパーニュで喉を喜ばせながら、ブリュスゲッタとオリーヴをつまむ。シャンパーニュ・アミューズが乗ったアンティークのお皿がまたかわいい。いかにもシリノさんが好きそうな感じ。サクランボやミニトマトなど、シュザンヌの新作が表紙に描かれたカルトを眺め、嬉し楽しい料理選び。お昼、食べちゃったからね〜、あんまりお腹すいてない。残念だけど、一皿だなあ、今夜は。今夜のオススメで名前を見せる、この辺で取れた緑アスペルジュにかな〜り心惹かれるけれど、やっぱり無理だ、二皿はちょっときつい。そのアスペルジュが付け合せになっている仔牛の料理を選んでみる。スピちゃんはこの店の傑作のエビ料理をチョイス。アルメルはといえば、ポルトフィノでお茶の時間にお気に入りのカフェでイタリア菓子まで食べちゃったためにお腹が全然空いておらず、料理はパス。かわいそうに、、、。

鴨のパイ包み新顔のソムリエくんとお酒も決めて、さてさて料理。まずは、変わることなくこの店のアミューズの座を守っている、鴨のフリアン(ミートパイ仕立て)。ぎゅーっと鴨の旨みが凝縮した極上ミンチをパイ皮が包んでいる。これが最高合うんだ、シャンパーニュに。今日のソースはモリーユ茸。コクがある一品の変わらない味を確認して、なんだかとっても嬉しくなっちゃう。

極上仔牛に涙もののアスペルジュメインの仔牛が運ばれてくる。うひゃ〜、いい匂いだ〜。もう、匂いだけでいい。これだけで満足できる。仔牛から香ばしい焼き上げの香りが、ジャガイモからは甘く柔らかな香りが、フェヴェット(小さなソラマメ)とアスペルジュから春野菜の香りがふわりと立ち上がり、それにモリーユがコクのある香りを添えている。タイムのさわやかで強い香りは、ここが南仏だということをしっかり教えてくれる。しばらくうっとりと匂いをかいでから、カトラリーを取り上げる。いっただっきまーす。

しっとりときめ細かな仔牛の肉が舌をくすぐる。うっま〜!うっま〜!!うっま〜!!!これは素敵だ。歴代仔牛のベスト2だ。トップはもちろん、去年の夏、コルス(コルシカ島)のなんてことないレストランでめぐり合った、気が狂いそうにおいしいかった仔牛。あそこよりもおいしい仔牛は、どこででも食べられないだろうなあ。感動的な味だった。そこにはさすがに負けるけど、この仔牛も極上。サクリとした表面にジューシーで柔らかな肉、そして初々しい香り。肉の質ももちろんいいけど、焼き方、上手だよねえ。

今夜はシリノさんが不在。マリオンと一緒にパリに上がってるらしい。初めて体験するシリノさん抜きの料理に、ほんというとかなり不安を感じてた。なんてったってここはシェフの存在感が強いレストランだから。そんな不安は一気に返上。だっておーいしいもん、すごく。シリノさんがいないなんて思えない。スゴン(スーシェフ)、いいんだねえ。確か、「ル・ジャルダン」からつれてきた子のはずだ。ちっちゃくて髪の黒い。ジョゼだったけ、名前。いや、すごいスゴンだよ、彼は。

風味豊かなジャガイモ、繊細なモリーユとそのソース、アーティショー、それに春味フェヴェット、どれもこれも見事な出来だけれど、私を恍惚状態にしてくれたのはアスペルジュのグリル。一かけそっと口に入れた瞬間に、息が止まるおいしさ。あまりにおいしいものを口にすると、もう笑っちゃうしかないときがあるけれど、まさに今回もそのコース。フツフツと体中から喜びがこみ上げ、笑いと言う形で表現される。あまりにおいしいアスペルジュを口にしケラケラケラ〜と笑う私は、かなり怪しい。いや、ほんと、すごい!このアスペルジュのおいしさは、3年前のこの時期に「ルイ・カンズ」で味わったそれと同じもの。他のアスペルジュとは全く味の違う、なんだか不思議な食べ物なんだ。あああああああ、やっぱりアントレでアスペルジュを頼むんだった〜。1本半じゃたりないよぉ、、、、。パスタを食べてる場合じゃなかった〜。激しく後悔しながら、アスペルジュに別れを告げる。

これまた涙もののエビスピちゃんの頼んだガンベローニ(イタリアのエビ)も、もちろん笑っちゃうおいしさ。なんなんだろうね、これ。ごくシンプルにグリルしただけのはずなんだけど、どーしてこんなにまでおいしくなっちゃうの?付け合せのイカもフェヴェットもおいしいけれど、いらないな。ひたすらにこのエビだけを食べさせて欲しい。強烈に美味なエビだよね。風味付けのレモンの飾り方がすごくかわいい。このあたり、シリノさんのお茶目さがよーく出てる。ありがたくおすそ分けをいただいて、感動の極みに達する。

かわいいおいしいミルフォイユ♪デセールは、お気に入りの「フレーズデボワ(モリイチゴ)のミルフォイユ」と「ショコラとヌガーのショソン(あったかいパイ包み)」。お腹いっぱいだー、ミルフォイユだけ頼んでを分けっこすればよかったな。ショソン、おいしいんだけど濃いもんね。ここのミルフォイユはお気に入り。イチゴ、クレーム、生地、ヴァニラアイスクリームの組み合わせは、ごくオーソドックスだけれど、どれも質がよくて全体的にこなれていい感じ。カルトで名前を見て気になっていたコリアンダーのアイスクリームも味見させてもらって、お腹はもうあっぷあっぷ。死んじゃうよ〜。

ジュリアンもピエールもいなくなってしまってちょっと寂しいけれど、新しく来たイタリア人のソムリエくんはサンパでいい感じだし、前からいる女の子も頑張ってる。なにより思いやりがあって優しいのがいいよね。今夜は、マリオンもいないから、サーヴィスも大変。たった3人で満席のレストランをまわしてるんだもん、偉いよねえ。会えなかったシリノ夫妻と、素晴らしい食事を楽しませてくれたジョゼにくれぐれもよろしくね、と伝え、部屋に戻ってベッドに倒れこむ。おいしい夢を見られそうだ。

翌日は、ようやく村のネコ共と再会。3匹しか知らなかったネコたち、今日は5匹もいるよ。新入り?たっぷりネコ共と遊び、スピちゃんにいたっては、ネコを追いかけて木登りまで。てっぺん近くまで登って、いよいよネコに触れるぞ!というタイミングで私もカメラを構えて撮影体制。とそこに「ボンジュー!」と声がかかる。あん?と振り向くとイタリア男のソムリエくん。この村、めちゃめちゃミニサイズだから、こうやってよく店の子達と会うんだよね。木登りとその撮影をあきらめ、ソムリエくんあらためフレデリコとおしゃべりに花を咲かせる。ピエールとは仲がよくって今でもしょっちゅう会ってるんだと。ちなみにジュリアンの消息は?と聞くと、「全然知りません」と。ほんとにどこに行っちゃったんだろう、ジュリアンは。ピエールに聞いてももちろん「僕知らないよ〜」だったし。またどっかのレストランで、偶然会えるといいな。

友達絶賛のお菓子屋さんでお菓子とミニピザ類に舌鼓を打ち、愛すべき小さなチュルビの村とネコ、そして「オステルリー・ジェローム」に別れを告げる。感動的なまでに私との相性がいいレストラン。素晴らしいレストランが目白押しのコートダジュールの中でも、私はやっぱりここが一番いとおしい。また来るからね、と心の中でつぶやいてホテルを後にする。目指すはラ・チュルビのふもとに広がるモンテカルロ。2年ぶりの再会を果たしに「ルイ・カンズ」へと車を走らせる。


mer.30 avril 2003



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