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グルマン・ピュスのレストラン紀行


パトリック・ジョフロワ(Patrick Joffroy)

生まれて初めてのブルターニュ旅行。モン・サン・ミシェルだけは、人並みに行ったことがあった。9年前の夏だった。ここはギリギリブルターニュ。最東部でノルマンディーのすぐ西側。以来、全く足を踏み入れていなかったブルターニュ地方にドライブ旅行。

最西部から入ってゆっくり北上し、今夜は、ブルターニュ北西部の小さな入り江、カランテックに滞在する。

ブルターニュで食べるご飯といえば、もう10年も前から、絶対にオリヴィエ・ロランジェ!と決めていただけに、じゃあ他はどうする?と言われると、勉強不足もあって、いまひとつ当てがない。ロリアンの、今年のゴーミヨで“今年のシェフ”になった料理人のところに行きたかったのだけれど、曜日が合わず断念。どーしよーかなー、とかなり悩んで、まあこのあたりが無難?外れませんように、、、と、祈るような気持ちで赴いた、パトリック・ジョフロワの「ロテル・ドゥ・カランテック」で、予想外に素晴らしい料理に出会う。

対岸のロスコフこそ、それなりに名のある景勝地だけれど、お向かいにあるカランテックは、ごく小さな入り江の村。だけど、とっても上品な村。お金持ちの引退場になっているのかしら?小さな村に佇む家々は、どれも皆、豪邸とは言わないけれど、趣味がよく品のいい瀟洒な館ばかり。たまに、ほんとの豪邸もあったりして、高い石壁によじ登っては、敷地内を覗き見し、縁のない世界の一片を感じてホホウとため息。ウオン!と番犬にほえられ、慌てて壁のこちら側の私たちの世界に戻る。お散歩が楽しい。

家々を抜けたところに、広すぎもせず狭すぎもしない、人気のないプラージュ(浜辺)。ホテルの裏庭からうっそうとした茂みの小道の坂をトットットと下ってっても、このプラージュに出られる。「裏の小道から行くのも素敵ですよ。近道だし」と、笑顔が花丸の、とっても優しくて素敵なホテルのレセプショニストのお姉さんに教えられ、大きな窓越しに北の海を独り占めできる快適な部屋に荷物を置くのもままならず、日焼け止めを塗りなおして早速プラージュまでお散歩して、ブルターニュとは思えない快晴の夏の夕方(といっても、太陽はまだはるか高い位置)を満喫する。

海に向かってパノラマになっている、広々としたレストラン。入り口で、写真で見たことのあるシェフを見かける。
「ボンソワー、シェフ・パトリック」ニコッ。
「ボンソワー、メダム」ニコニコッ。あ、笑顔の大きさ、負けてしまった。いい感じのシェフね。メガネの奥の目が優しい小柄なシェフ。年のころは40半ば?

室内真っ白なテーブルクロスがまぶしい、大きなテーブルにつく。地方のいいレストランに共通する、サイズの大きめのテーブルが好き。大きいテーブルって頼もしい。ソムリエが楚々と寄ってくる。
「シェフが、アペリティフをご馳走したいと申しております。シャンパーニュでいかがでしょうか?」なんでも、日本と日本人がお好きなんだそうだ。よかったね、日本人で♪シェフの健康と素晴らしい海に乾杯して、カルトを紐解く。

いいな〜、うっとりする料理ばかりが並んでる。カルトを読むだけで、確信する。今夜は大当たりだ。どんなレストランかな、、、とドキドキしていたのは杞憂だった。一行一行、声に出して料理を解説しては、味を想像して嬉しさに喉を鳴らしてしまう。全部食べたいなあ、ここの料理。

たっぷり時間をかけてようやくオーダー。メモとペンを手に横に立つのは、あれ〜、シェフ〜?シェフ自ら、詳しい解説を加えながらオーダーを取ってくれる。珍しい店だね(笑)。ブルターニュの、お気に入りのミネラルウォーター(硝酸塩ゼロでワットウィラーと同じ、柔らかでニュートラルな味がする。名前はいつも忘れる)を頼んで、ワインはグラスで。水と料理を楽しみたい。

アミューズ。カキ、メロン、スープにブルターニュのパンメロンのスープ、ニシンの燻製、カキ、名前を忘れたブルターニュの伝統的なパンというかお菓子、を盛り合わせたアミューズ。色合いも構成も、感じいい。ふと、コートダジュールはジュアン・レ・パンの「ラ・テラス」を思い出す。似てるね、雰囲気。テーブルの大きさ、食器使い、料理の構成とかが。あちらは庭に面したサンルームだけれど、こちらは海を見下ろすサンルーム。ロケーションはこっちの方がいいなあ。

パクパクパクパク。4口でアミューズを終え、自家製のパンと、ブルターニュらしい有塩バター(ブルターニュでは、バターといえば有塩。他の土地はみな無塩)の美味しさに感動しながら、アントレの到着を待ち焦がれる。お腹の準備は万端!さあ、いらっしゃい、オマールちゃん!

オマールちゃん。君も美味しかったよ!やっぱり、ブルターニュではオマールを満喫したいでしょう!と、昨日に引き続き、今夜もオマールちゃんを呼びつける。野生のアスペルジュや各種ハーブをたっぷり添えたオマールちゃんの、身の引き締まり具合と味にシビレル。質もよければ、火通しも完璧。やっぱりこうでなくちゃね、オマールちゃんは。

アワビくん、君の美味しさは一生忘れない!そんなおいしいオマールちゃんの存在を忘れてしまいそうなアントレを、他2人が食べている。私も、頼みたかったのだけれど、「味見させてあげるから」の一言で、オマールちゃんに変わらぬ忠誠を誓った。そんな誓いをちょっぴり後悔。2人が食べたアワビくんが、空恐ろしいまでに美味しいんだもの。パリでも時々、ブルターニュ出身のシェフの店なんかにいくと、アワビくんの姿を見かけることがあるけれど、さすがは本場、地元で食べるアワビくんは、ひと味もふた味も違う。

カレーソースと、海草をたっぷり使ったソースが添えられた、見事なまでに大ぶりのアワビくん。独特の歯ごたえに、口の中は狂喜乱舞。アワビくん自体の美味しさで既に完璧なのに、ソースがまた、、、、。これだから、フランス料理はやめられないんだ、と思う、すごぶる上出来なソース。アワビくんが胃の中に消えてからも、飽きることなくパンにソースをつけては口に運ぶ。いや〜、傑作!目が覚める美味しさです。ブラヴォー、シェフ・パトリック!

リモンソル。すごく美味、でも多すぎるリモンソル、という、魚をトライ。「今日のお勧めは、予定外に揚がった、リモンソル。ソル(舌ビラメ)をもちょっと大きくして、ふんわりさせた味だよ。おいしいよ」というシェフのお勧めに従った魚は、彼が言ったとおり、ホロリと優しい食感。香ばしく焼き付けた皮のカリカリ感と、ジューシーで甘い身のコントラストが見事。ブルターニュの魚の美味しさを、まざまざと見せ付ける一品。付け合せの野菜たちも完璧。ブルターニュの野菜のおいしさを、ここ半年、パリでじっくりと体験してきたけれど、より一層、ブルターニュ野菜の虜になる。

いやしかし、とても美味しいけれど、量が多いねえ。これは、いくらなんでも2人分だよ〜。味見させてもらった、スズキも、頭がクラッとするできばえで、ブルターニュの魚の力を満喫する。(ちなみに、スズキは量が普通だった、、、。)

フロマージュ、行きたいのは山々だけれど、もうお腹いっぱいでしにそうだし、おやつもおいしそうだし、やっぱりここは、甘いもので。と、取ったデセールは、料理に比べるといまひとつ。イチゴづくし、キャラメルづくし、どちらもよいお味だけれど、感動はなし。料理が90点ならデセールは50点。厳しい?デセールには、私、いつもかなり厳しくなってしまう。

ポンポコタヌキになったお腹をさすっているところに、メートル氏が近づいてくる。
サクランボのリキュール。自家製梅酒みたいなもん「シェフが作った、サクランボのキルシュを、ぜひ味見してください」。小さなグラスに入った、サクランボのリキュール漬け。テーブルにフワリと広がる、果物とアルコールの甘い匂いにうっとり。他2人がアルコールダメなので、「シェフの好意を無駄にするのはよくない!」と、ニコニコしながら私が全部いただく。タネをテーブルに並べながら、サクランボをパクンパクン。最後は残ったリキュールをクイッと。幸せだ〜。

ヌガー、キャラメル、ショコラなどのプチフールもお腹におさめて、いまやお腹の中には、仔兎が7匹か!?という状態。ホテルレストランであることに感謝しながら、膨れ上がったお腹と、最高に満ち足りた気分で、部屋に戻る。窓を開け放つと、青がまだほんの少しだけ残った墨色の空に、チラチラと光る家の明かりと、すっかり引ききって、まるで寝床に帰ってしまったかのような海が遠くに見える。

いい場所だなあ、ここ。ホテルのスタッフも、みんなそろってとても優しいし、よく出来ている。次に来るときには、ぜひ3泊で。海も料理も、たっぷり満喫しに来たいね。また会える日を楽しみにしています、シェフ・パトリック!


mar.29 juin 2004



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