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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ラ・ターブル・ドゥ・ランカスター(La Table de Lancaster)

この春にパリに出来た、ミシェル・トロワグロのレストランを試す。ご存知、フランス屈指のレストランの1軒、「トロワグロ」。リヨンから車で1時間くらいのロアンヌにある。2〜3年前の初夏、初めて詣でた美食の殿堂は、期待していたよりもずっとずっと素敵で美味しく、ゴキゲンな一夜を過ごした。いまだに、あそこで食べたグラタン・ドフィノワの味が忘れなれない。牛肉と仔羊の味も。

フェルナン・ポワンの教え子たちの世代も、いまや皆年を重ね、少しずつ引退生活に入る料理人が出て、あとを息子に譲るケースも少なくない。先年にはジェラール・ボワイエが息子に厨房を完全に預けたし、ミシェル・ブラスもかなり息子中心、アントワーヌ・ウェスターマンのところも息子が父と並んで厨房に立つ。ジョルジュ・ブランのところも2人の息子が頑張ってるし、ピックも娘がしっかり引き継いで店の名声を守っている。ラ・ロシェルの名店リシャール・クタンソーのところも確か下の子がパパの厨房を継ぐはずだ。ここは、長男にいたっては、パパをしのぐ勢いで、ラ・ロシェルの食業界で精力的な活動を繰り広げている。親の仕事を愛し、そのあとを継いでくれる息子や娘がいる料理人は幸せだ。さらに、その偉大な名声を守ってくれる子供の場合はなおさらだろう。

ミシェルを息子に持ったピエール・トロワグロは幸せだな、と、ロアンヌに行った時にしみじみ思った。パパの、そして早くに亡くなってしまった叔父ジャンの味を私は知らないけれど、ミシェルの料理の味は、私はとても好きだ。

トロワグロのレストランがパリのシックな超高級プチホテル「ランカスター」に出来る、と聞いてから、1年くらいが経ち、すっかり忘れた頃にようやくオープン。その頃にはもう待ちくたびれちゃって、行く気も失せて、しばらくだらだらほっておいた。
「行った、もう?」
「いやー、まだ行ってないの」
「じゃあ、そこにしようかー?」
「そだねー」と、なんとなく倦怠感のあるやり取りをして、初夏の夕食のレストランを決める。
「テラス、あるしねー」
「そだねー。いいかもねー」。レストランにとりたて興味のないもの同士の会話に見えるが、一応これでも、2人そろって、フランスの食に関するジャーナリストなのです(笑)。

隅々にまで品のよさが漂うホテル。どっかの、張りぼてホテルと違って。こういう、控えめで下品でなくて上趣味のホテル、好き。小さなホールを抜けた奥、サロンの向こう側にちいさな、でもとても魅力的な中庭が広がっている。キッチリ刈り込まれた木々、きれいに慣らされた小石、シンプル&エレがントなテーブルや椅子。胸が躍る。いいねーいいねー、好きなタイプ!

テーブルセッティング飾り皿の上に、小さなお皿にちょこんと浮かぶガーベラ(って言うんだよね!?)、かわいい。「トロワグロ」でもこの花がテーブルを飾ってた。花瓶に入って、赤色だったけど。スミレのリキュールとシャンパーニュを合わせたオリジナルカクテルでチン(カンパイ)して、アミューズをつつく。ブロッコリー(グリーンピースだったかも、、、)とカリフラワー(ヒヨコマメだったかも、、、)のムースディップ。品よく味よく、素敵だわ。短く、きれいな構成にまとめたカルトを好もしく眺め、料理決定。ナスのジュレをアントレに、牛肉のコショウ風味をプラに。なんか、ロアンヌで同じような料理を食べた記憶が、、、。

9時を過ぎてなお、まだまだ日中のような空の色。夏の暖かい空気にしっとりと包まれた、緑溢れる静かな中庭。パリにいると思えない、まさに都会のオアシス。サーヴィス陣もゲストも、あくまで控えめで上品で、なんともいえない上質な雰囲気に包まれている。夏の間になんども来たいな、と思わせる。

パンのプレゼンがかわいい!真似したいシルヴァーのグラスに入ったパンがかわいい。こういうセンスがすきなんだ、ミシェル・トロワグロの。ミニバゲッド、オリーヴパン、それにオレンジが入ったパン。カイザーだね、きっと。美味。

ナスの冷製トロトロジュレ「ナスのジュレ」は、日本的なお料理。「トロワグロ」で、同じような料理を誰かが取ったのを味見した記憶がある。トロンとしたナスの冷製をなにかの肉のジュで取ったフォンをベースにしたものをジュレに仕立てて周りに流してある。冷たいナスに出汁の葛を流したような感じだね。ひんやり爽やかであっさりしたナスに、コクのあるジュレがきれいにまとわり付く。美味しいねえ。スダチの代わりのようなレモンライムが爽快感をあおる。ナスの上に乗っている小エビ(ザリガニだったかも)の存在意義はよく分からなかったけど、ま、お飾りということで。トロトロ、柔らか、甘い。私の大好きな形容詞3つをあわせた料理だ♪

牛肉の緑コショウとオレンジ風味プラの牛肉も、ロアンヌの再現。もちろん、あのときほどいい肉を使ってはいないけれど、赤身の味を堪能できるしっかりした肉だ。緑コショウとオレンジの皮をビッシリ貼り付けて焼いてある。味のつけ方も焼き方もお上手。料理人の律儀さが分かるね。牛肉の付けあわせ。極薄パンデピスになすとフダンソウ、ニンニク付け合せの、薄いパンデピスの上に、ナスやブレット(フダンソウ)の薄切りを並べて焼いたのが、これまた甘くて私の好きなタイプ。ブレットもナスも好きだし、いうことなし。これで、グラタン・ドフィノワがあれば完璧だった、、。

クレープスフレ、アプリコットロティ添えおやつは、お砂糖タルトのパンプルムース(グレープフルーツ)添えと、クレープスフレのアブリコ(杏)添えを半分こずつ。といっても、私が半分以上食べた気がするけど、、、。お砂糖タルトは、まあ普通に美味しいけれど、クレープスフレがイケル。フワン、ショワン、シュウゥ〜、という感じ、口の中の食感は。はかなげな甘味を持っていて、とってもいい感じ。いくらでも食べられる、こんなお菓子なら。アーモンドのアイスクリームも上出来だし、はしりのアブリコのロティも味がギュッと詰まっていて美味しい。ヴェルヴェンヌの砂糖漬けが、南への郷愁をかきたてる。このおやつ、好き。

超かわいいプチフールキュート極まりないカフェのプレゼンテーションにまたひとしきり喜んで、ふと空を見上げると、さすがに陽の光の名残もわずかになった空。23時。夏至が終わったばかりのパリの長い長い夜を、美味しい料理と素敵な雰囲気と気の合う友人と過ごす。レストランに行くのって大好き!と、こういうときにしみじみ感じる。


sam.26 juin 2004



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