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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ルイ・キャーンズ(Louis XV)

「月曜日はお休みにしちゃって、チェルッティーのところに食べに行こうと思ってるんです」と、電話の向こうから松嶋さん(パリ便り10月30日参照)の嬉しそうな声。

なんですと!?チェルッティーのところと言うのはすなわち、ピコちゃんがウジャウジャいるところではありませんか!ピコちゃんちに行くですと!?そんなの、私ももちろん一緒に行きます!!ニース行きの直前にそんな話を聞かされ、慌ててパリに戻るフライトの時間を、ピコちゃんちでお昼ごはんを食べた後で間に合う時間に変更する。うわぁい、やったぁ、ピコちゃんちだー!

この小鳥ちゃんがマスコット、ピコピコちゃんちに、春夏以外に行くのって、初めてだ。大体、秋冬にコート・ダジュールに来ること自体、早春のカルナヴァル時期を抜かしたら、本当に珍しい。この季節だけは、さすがのコートダジュールもお天気が安定しない秋の終わりに、季節外れのピコちゃんち訪問。

「ル・ルイ・カンズ」の厨房を初めて覗く。シェフ、チェルッティーさんに会うのも初めて。写真で見る、優しそうでアンジェリック(天使的)なお顔には、彼が仕上げる料理同様、前々から惚れていたけれど、目の前に立つ本物のチェルッティーさんは、写真では分からなかった見事なまでのイタリア的鼻と、こちらは写真でおなじみだったモジャクシャッとした感じの髪の毛としわがたくさん寄った優しい目を持った、素敵な笑顔のシェフ。お目にかかれて光栄です。チェルッティーさんの右腕として働く日本人キュイジニエ小島さんの案内で、広大で見事なまでに整備された厨房を見て周ってから、テーブルにつく。シャンパーニュで乾杯。秋の「ル・ルイ・カンズ」とはじめまして!

ラング・ドゥ・ベルメール(極薄オセンベみたいなもの)と、何度名前を聞いてもすぐに忘れてしまう、ほうれん草とチーズ入りミニラビオリをカリリと焼き上げた大好きなアミューズをポリポリした後、おなじみの、生野菜のディップが運ばれてくる。デザインの違うグラスに、いろいろな野菜のスライスが賑やかにつまっていて、アンチョビソースをディップにいただく。添えてある楊枝代わりのカニ用フォークがかわいい。

ラディやニンジン、カリフラワーなど冬の根野菜のお味はさすがだけれど、葉っぱものを中心にした夏に元気な野菜たちのインパクトは、うーん、イマイチかイマニ、だなあ。季節的にどうしても無理があるんだろうな。去年の春に初めてこれを食べたときのみずみずしい感動からは程遠い。タンピ。

最初のお料理は、「サンジャック(ホタテ)のポワレ、シトロネル(レモングラス)風味」。好みからするとちょっと大ぶりすぎるサンジャックは、その姿同様、味もちょっと大味かなー。もちょっと繊細で甘味がエレガントなサンジャックのほうが好き。最も、サンジャク自体、生以外で食べるのがそれほど好きではないので、そのせいかも知れないけれど。下に敷いた、“ロマノ”と言う名前のブロッコリーのヴルーテというかピュレは、完璧です!今までにこの店で食べた、アスペルジュやフェーヴ、プチポワ、ほうれん草などの緑野菜を使った料理のおいしさを、まざまざと思い出す。

2皿目は、チェルッティーさんの得意作品リゾットを、秋のクルジュ(カボチャとクルジェットの合いの子みたいなものかな)の味で。いかにもチェルッティールセット!という感じの、バターとすばらしいパルメザンをたっぷり使って仕立てた、濃厚かつ奥行きのある味。しびれるね。冬に、アラン・デュカスのお料理学校で、チェルッティーさんの弟子を先生に、甲殻類のリゾットを作って食べたけれど、そのときのおいしさにピッタリつながる。リゾット皿の一隅にクルジュを焼いたものを扇形にデザインして、その周りにリゾットをあしらったデザインも素敵だ。ゴメンネ、写真がなくて。この店、アミューズ後、デセール前は写真NGなので、今回はカメラを持ってこなかった。前はOKだったのにねー。

3皿目は、「乳のみ仔牛の蒸し煮 秋の果物と野菜を添えて」。きめ細かく食感のよい仔牛を、すーばらしい焼き汁ベースのソースと、秋味をたっぷり添えていただく、王道といえばあまりに王道の一品。ピコちゃんちでこういう料理を食べるとは思わなかったねえ。濃厚なソース、洋ナシや葡萄、キノコを使った付け合せは、文句のつけようもない。すばらしい食材と技術、それに誠実さが混ざると、こういう結果になるよね。仔牛自体が、もうちょっとだけ風味があると、というか、歯にあたるサックリ感とニュアンスが強かったら、完璧かなあ。とはいっても、もちろん十分に満足できるおいしさだけどね。単なるワガママです。

いつもながらに抜群においしいフロマージュたちをたっぷりいただき、おやつの時間。どうしても、この子を見つけちゃうと、他のおやつを頼めなくなってしまう、それほど私に強い影響を持つ、「フレーズ・デ・ボワ(森イチゴ)のマスカルポーネソルベ添え」を。こんな季節にもあるんだ、フレーズ・デ・ボワ?と感動する私に、ニースの山側では温室栽培で一年中この愛らしく痛みやすいイチゴを作っているんですよ、と、メートル氏が説明してくれる。

マスカルポーネに、温かなソースが絡んだイチゴちゃんたちをたっぷり乗せてもらって、嬉々としてスプーンを口に運ぶが、んー、んー、んー、、、?う〜ん、温室栽培しているとは言っても、やっぱりこのイチゴちゃんの季節は春夏なのかなあ。甘味ばかりが前面に出て、あの繊細でなんともいえない酸味が薄く、味にインパクトがない。冷たい雨が降る景色を眺めながら、という、季節的シチュエーションもいけないのかなあ。太陽が照りつける暑い夏、あのテラスで木陰に流れる風を感じながらいただくイチゴちゃんたちと、今日のイチゴちゃんは、全然違うものだ。残念、、、。

マカロン、ショコラ、その他諸々のおなじみプチフールたちをお茶と一緒にいただき、お腹いっぱ〜い、死んでしまう〜。

全体的な感想を言えば、おいしかったけど、いつもほどの感動はない、かな。野菜ディップの勢いのなさ、ホタテの大味、デセールのでき、そして、この店が誇るパンの一部がイマイチだった、と言うのが大きい。(クリのカケラをそのまま入れた栗パン、エプートル小麦のパンは美味でした。)普段、欠点がほとんどないだけに、たまにこうやってイマイチな部分が見えちゃうと、つい、がっかりしちゃうんだよね。期待している水準がものすごく高いだけに。ブロッコリーソース、仔牛のソース、リゾットの味付けは完璧だったし、サーヴィスも雰囲気も、相変わらず極上であることは確かだけれど。

そういえば、横のテーブルに静々と運ばれいった、氷に埋もれた大きなカヴィアの缶、それに続く、体中が嗅覚になってしまったか!?と思うようなすばらしい匂いを発するアルバトリュフを使った料理(料理が何かは分からない。トリュフの匂いが饒舌すぎて)が、すごかったなー。ああいう注文を、私もピコちゃんちでしてみたいなあ(笑)。

テーブルに乗った、首をかしげるピコちゃんは、相変わらず愛らしい表情を私に向けている。うちのピコちゃん、ここんちのピコちゃんたちに比べると輝きが鈍くない?磨いてあげなくちゃダメかな。ピコちゃんと同じように、いつも変わらない輝きを、皿の上に再現するというのは、本当に難しいことなんだよね、としみじみ。逆に、ほぼいつもあれだけの感動をくれるチェルッティーさんとそのチームの力を、改めてすごいなあ、と感じる、そんなお昼ゴハンになる。

広場を渡ってお向かいのホテルにできた、ロビュションさんのレストランを見学し、丁度モナコに来ていたロビュションさんとボンジュ〜!愛弟子クリストフ・キュサック(溺愛した「ラ・レゼルヴ・ドゥ・ボーリュー」の元シェフ)を充実な愛犬のごとく従えたロビュションさんは、東京で会ったときとはまた別の、柔らかでチャーミングな笑顔で楽しい話をたくさん聞かせてくれ、ついつい時間がたつのを忘れてしまう。

そして私は、生まれて初めて、飛行機に乗り遅れるという体験をしたのでした。

※食事中はデザート時間まで基本的に写真はダメなので、料理の写真はなし。ザンネン!特に、アミューズの野菜スティックはかわいことしきりだったのに。
lun.1er nov.2004



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