homeホーム

グルマン・ピュスのレストラン紀行


マーケット(Market)

凍えそうに冷たい雨と風に包まれたノエル(クリスマス)のパリ。日が暮れてから、「ジョルジュ・サンク」のサパン(もみの木)を見る。sapin雨上がりでしっとりと濡れた中庭にそびえるサパンを眺めるのも3回目。年とともに輝きが増している気がするなあ。いつもよりも少しだけ手を抜いているようなきがしないでもない花たちを眺めながら、「ル・サンク」へ。ちょうど居合わせたパトリスに、ノエルの御機嫌伺い。ちょうど居合わせなかったクリストフと会えなかったのは残念だけれど、すてきにおいしいピンク・シャンパーニュをごちそうになって(どこのドメーヌかはもう聞かない。聞いてもどうせ、「え?僕しらなーい。そこにあったのを注いだだけ、、、」に決まってる)、これまたいたって美味なグジェールをつまむ。気に入っているミニ・セルヴィエットをもてあそびながら、ふかふかソファに埋もれて、なんとも優雅なアペリティフタイム。

シャンパーニュとピアノに包まれてすっかりぬくぬくしているところに、
「ルギャルデ・キ・エ・ラ〜(誰がいるかみてよ〜)!」と、パトリスがニッコニコ顔で連れてきたのは、おやまあ、9月に「デュカス」で見かけた顔じゃない!もとは「ル・レジャンス」でパトリスたちと一緒に働いていた、“パン君”と私があだ名をつけたセルヴールだ。
「あっれ〜!移ったの、あなたも?」
「ウィ、そうなんだよ」
「やっぱ、彼がヤだった(笑)?」
「うん、いや、まあねぇ、、、」懐かしい顔合わせに笑い転げる、パトリス、Mちゃん、パン君改めロイックに私。懐かしいなあ、こんなだったよね。Mちゃんとふたり、「ル・レジャンス」で過ごした夜は。パトリスがボケをかましてディディエがフォローして、ふたりのクリストフが突っ込んで、ロイックがパンを運んでた。今度「ル・サンク」に来る時には、ぜひ3人がそろう日にしたいものだ。思いがけずに楽しいアペリティフの時間を過ごし、急ぎ足でシャンを下る。雨上がりの冷たい空気に、イルミネーションは一層輝き、ともすれば急いている私たちの足を止めさせる。正面には撤退の危機に瀕しているグラン・ルー(大観覧車)、後方には凱旋門。二つをつなぐ光のリボンと化したシャン・ゼリゼ。なんて美しいんだろう。ロン・ポワンの噴水で最後の足止めをくらい、たっぷり遅刻して「マーケット」に滑り込む。

「ボンソワー。ご予約のお名前は?」うっひゃ、すごい!完全にモデル体系の、漆黒の肌の女性が出迎えてくれる。待ちくたびれた友達にゴメンナサイする前に、思わず聞いちゃうよ。
「マヌカンだったの、前は?」
「ウィ、ジュ・レテ(ええ、そうだったの)」私の手首くらいの太さしかない二の腕を持つ元マヌカンにオーヴァーを預け、薄暗い店内を奥へと進む。サンパではあるが有能ではないらしいマヌカン姉さん。2度、3度とテーブルを代えさせられたあげくに、一番奥、中庭を臨む窓の横が今夜の席となる。

おおざっぱに言えばT字型の店内は、全部でキャパはどれくらいだろう?通りに面して2X10、中央中庭横の特等席が6〜8、奥のスペースが全部で40ほど?それにカウンターで5〜6席?トータルで70くらいかな。9時を過ぎて、あらかた埋まったテーブルの客層は、悪くない。かのジャン−ジョルジュがパリに開いたレストラン、と知って来ている人たちばかりと見受けられる。それにしても、みんな、あれ、なに食べてるんだろう?なんだか分からないプレゼンが面白い。食器も変わってるし、これがNY風なのだろうか。

アペリティフすらもなかなか取りに来てくれないセルヴールたちの1人をやっと捕まえて、とりあえずはカクテルでチン!今夜二度目のアペリティフ時間。ゴムで止めたなかなかおちゃめカルトには、ビザの欄があったりして気持ちユニークな構成。ガルニ(付け合わせ)の欄が独立して設けてあるのは、昨今のジェットセット系レストランのお約束?

じっくり検討して料理を選び、お酒の選択は友達にまかせて洗面所へ。「この下よ〜」と、マヌカン姉さんに案内された階段を降りたところで、思わず私は足を止め、洗面所のことをすっかり忘れてしまう。左手奥に広がる厨房。その手前には、大理石で作られた棚に様々なエピス(香辛料)。正面と右側にはずらりとボトルが並ぶカーヴ。それら全てを見渡すように、階段の横、リラ色のガラス越しに、ひとつだけしつらえられたテーブルに、目が吸い寄せられる。近すぎない距離で厨房を背景にした、いわばオープンキッチンを楽しむために作った、たったひとつだけのテーブル。tablechef後ろを足繁く行き来するセルヴールたちをうるさいと思うか、レストランという舞台の登場人物とみなすかは人それぞれだと思うけれど、後者に当てはまる場合、この席はとても魅力的だ。うっとりとデイジーをテーブルに向ける私に、
「写真?撮りましょうか?」とかわいいセルヴールくん。
「え?あ、いいです。テーブルを撮りたかったの。すてきねぇ、、。ここ、お客様、入れるの?」
「ビアンシュー(もっちろん)!ターブル・デュ・シェフ(シェフのテーブル)っていうんです」
「Table du chef ね。今度予約する時は、ここを頼むわ」テーブルを触っているところにMちゃんも現れ、これまたテーブルに賛嘆の目を向ける。とりあえず洗面所へ行った後で、改めてまたテーブルに近づいて二人してうっとり。と、そこへまた、先ほどのセルヴールくん。
「ほら、写真、撮ってあげるってば」じゃあ、せっかくだから、とMちゃんとテーブルにならんで、はい、チーズ。
「こいつ、うまく撮りました?きっとひどい出来ですよ」と、やってきた、こちらもナイスガイなセルヴールくんを今度はカメラマンにして、先のセルヴールくんとスリーショット。はい、よく撮れました。ちなみに、Mちゃんは先の、私は後のセルヴール君が、それぞれ好み。Mちゃんとは、レストランの好みはすばらしく合うのに、一度だって男の好みが一致したことはない、、、。

すっかり下で遊んでしまって、テーブルに戻るとすぐにアントレが運ばれてくる。marineジャン−ジョルジュのスペシャリテという「ハマチのマリネ」を、散々迷ったあげくに選んでみたけど、見た段階で、ちょっとがっかり。他の料理みたいに、プレゼンがかわいくない〜。Hamachiと書かれた魚を、フランス語でなんて言うの?と訪ねると、「Thon Blancです」とのお答え。トン・ブランじゃあないでしょう、シーチキンじゃあるまいし。いいや、あとで調べてみよっと。(で、当然のことながら、いまだに辞書を繰っていないのである、、、)いわゆるハマチの薄切りに、酸味の効いたドレッシング、それに、ガーリックトーストをそえただけの、いたくつまらない(味もプレゼンも)料理に、ちょっと興ざめ。あーあ、やっぱり串セットにすればよかったなあ。お二人様より、というこの串の盛り合わせが面白そうだった。たかつきのような皿に盛られたプレゼン、お箸と一緒に出てくる数種類のソース。しまったなあ、、、。南の白ワインを飲みながら、プラに期待を向ける。

saumon「ソモン(鮭)のロティ、キャベル、ジャガイモのピュレ」プレゼンはごく普通といえども、うん、これはなかなか。浅く火を通したソモンは、この季節ならではの脂がのって、口の中でとろけてゆく。甘く、歯ごたえを残したキャベツもまあまあ。オリーヴオイルで和えたピュレも結構いける。興味を惹かれて頼んだ、ポワ・シッシ(ヒヨコマメ)のフリットは、どうしてこんなにきれいに成形できるんだ?とびっくりするほど几帳面に直方体に形作られ、ブロックを積み上げたように皿にのってやってきた。このソモン料理はおいしいよ、とても。アントレがコケにコケていただけに、一層よく感じるよ。

chocolatデセールの「柔らかチョコレートビスキュイ、グラスミエル(ハチミツアイスクリーム)添え」を食べ終わる頃には、お客様のあらかたが引き上げている。はっやいなあ、まだ12時になるかならないかでしょう?このクラスの、いわゆるジェットセット御用達レストランでこんなに客の引けが早いのもめずらしい。ノエルという日の問題もあるのかな。

横のテーブルに集う、賑やかな6人連れと話をしていたマヌカン姉さんが、こちらに話し掛けてくる。
「ここ、禁煙席なんですけど、あちらのお客様たちが煙草を吸ってもかまわないですか?って尋ねているんですけど、、、」。さすがNY上がりのレストラン。
「どうぞ、もう食事も終わってますし。 それに多分、彼も灰皿がほしいんじゃないかしら」と、Tくんに目を向けると笑顔が返ってくる。

控えめな煙草の煙を感じながら、「マーケット」での数時間を振り返る。料理。当たりはずれが大きいのかなあ。それにしても、これだけの値段をつけているんだから、全体的にもう少しおいしくてもいい。aretareマグロのタタキも味付けが全然足りなかったし。プレゼンはだいたいいい感じ。ラーメンのどんぶりみたいな形のお皿は、パリでは新鮮。セルヴィス。みな、サンパだけれど使えない、という感じ。ま、おいおいうまく回っていくことを期待しましょう。まだ出来たばっかりだからね。少なくとも、サンパな態度である以上少しは期待が持てるもの。雰囲気。これはOK。問題なし。ミニマムのテーブルデコ、かなり暗めの照明、中庭だけはもう少し明るくてもいいと思うけど?暗くてどんな庭だかよく分からない。アヴニュー・マティニオンに面したテーブル席の通りに面した窓ガラスを、カーテンなどで覆っていなくて、外からレストランの中が見えるようにしてあるあたり、かなりパリではめずらしい。パリのレストランは、外から中が見えないのが原則だ。これもNY風なんだそうだ。かかっている音楽もいいんじゃない?数ヶ月もすれば、この系統のレストランの例に倣って、コンピラシオンCDも出るんだろう。

手前のはじの方に積みあがったちっちゃな小箱が気になる。なあにあれ?気になることは、すぐに聞いてみよう!何人もいるかわいいセルヴールくんたちの1人を捕まえてさっそく質問。
「ケ・ス・ク・セ(これなあに)?」マッチ箱のような箱の中身は、クローブなどのエピス(香辛料)。おいおい販売していくそうだ。エピスリーも兼ねたレストランというのも、最近のお約束のひとつだよね。

最後に、マヌカン姉さんとメートル氏と、バーで立ち話。オープンから2ヶ月。話によると、しっかりはやっているらしい。そりゃまあ、みんな期待するよね、ジャンージョルジュのレストランだもの。でも、いろんな批評に書かれているように、料理のレヴェルは決して高くない。お酒込みで130ユーロを出すなら、私は「ノブ」に行きたいな。思い切りおまけをつけてもらったら、「ル・サンク」にも行けちゃう。「ジャマン」でムニュを頼んで食事を楽しむ値段だよ。行っとくけど、二つ星だよ、「ジャマン」も「ル・サンク」も。やっぱりちょっと高すぎる。みんなサンパで居心地はいいし、なんてったって地下のターブル・デュ・シェフは素敵だ。今度来る時には、ゴハンでなくて、アペリティフと串セットをつまむとか、そういう楽しみ方をしたいかな。ま、想像していた通りのレストランでしたね。


mar.25 dec.2001



back to listレストランリストに戻る
back to list8区の地図に戻る
back to list予算別リストに戻る


homeA la フランス ホーム
Copyright (C) 1999-2002 Yukino Kano All Rights Reserved.