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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ル・マスカレ(Le Mascaret)

気持ちのよいシーツ(IKEA製なんだけどこれが妙に気持ちいいんだ。ほしいな)から抜け出し、ワーグナーのジークフリート・イドルとバッハ諸々にうっとりしながら、幸せな朝ごはん時間をたっぷり。お庭をゆっくりお散歩してから、フィリップたちのレストランへ。今日、この地方を案内してくれるジェラールと待ち合わせしてるんだ。

私達の夕食用の仔羊のフィレを持って、ジェラール登場。「よおぉ!元気だったかい?嬉しいねえ、来てくれて。これが今夜の肉だよ。あいにく、僕の仔羊たちは手ごろなのを屠殺してなくってね。知り合いのだが、これもまた極上だよ。まあひとつ、正真正銘のプレ・サレを食べてみてくれ!」文字では表現できない、ジェラール独特の、こもったような話し方というかアクセントと懐かしい再会だ。フィリップに、料理法をあーだこーだ指示しては、わーかったよ!わかったってば!とうるさそうにあしらわれてる。それにしても気になるのは、肉塊の大きさ。ジェラール、今夜一緒に食事するって言ってたよねえ?あんな小さな塊では、3人分には全然たりないのでは???

一抹の不安を抱えながら、フィリップとナディアに行ってきま〜す!して、ジェラールに案内してもらう、マンシュ旨いもん巡りへゴー。

昨日は、ノルマンディーがそれこそ世界にその名を誇る、カマンベールの工場見学をしてきた。工場というと、しょせん農家産より落ちるんでしょ?と思われがちだが、カマンベールのAOCを持つチーズは、ほぼ全て工場というかメーカー製になっているはず。工場というと聞こえが悪いけど、大きなアトリエという感じだった。はじめて見るカマンベール製作過程をフムフムフムと感心しながら案内してもらったあとは、試食。美味!

ノルマンディーの幸はカマンベールだけじゃない、というのを思い知った一日になる。マンシュ県は西に海を控えて、海産物の一大宝庫。昨日食べたエイに涙した興奮冷めやらぬまま、再び海産物に涙することになる。

折りしも今日は、カキ祭り。祭りと言っても、とっても規模が小さなフェアという感じ。仮設屋台でどんどんカキが剥かれ、土地の名品や食材のスタンドがチラホラ並ぶといった極々シンプルなもの。祭りに行く前に、フィリップ御用達のカキ養殖者の店というか養殖場というか卸し販売所を訪ねる。

ここで食べた小ぶりの生ガキは、カキがそれほど得意でない私が言うのもなんだが、人生最高のカキだ。これじゃあ信憑性がないね。カキ大好きなスピちゃんを、1個目で目を大きく見開かせ2個目で泣かせ、薦められるがままに10個くらい味見させた。味見している間中、スピちゃんは目を輝かせ、つたないフランス語でおいしさを最大限伝えてた。これでどうでしょう?そのたぐいまれなおいしさ加減が分るかな?

ヨード香がたっぷりあるにもかかわらず塩辛くない。カキの身本来の甘味がとっても強い。ミルキーなカキというのは、こういうカキに使われるべき言葉だ。そして口の中でハラリと溶けてしまいそうななめらかで優しい質感。うっひゃ〜、これが本当のカキの食感と味なのか、、、。ハマグリの小型版みたいな貝もこれまた美味。ヒモのコリコリ感がいいねえ。鮨にして食べたいな、これ。

いつまでも食べ続ける興奮状態のスピちゃんを、これから先もあるからさ、とたしなめて、ありがとうして、カキ祭りへ。ジェラールの知り合いがあっちこっちにいる。シードル飲んで、ものすごい年代もののカルヴァドス飲んで、ポモー飲んで(全部リンゴのお酒です)、ビスケット食べて、名前を忘れたリオレを焼いたようなノルマンディーの名物オヤツを食べる。

「んじゃ、お昼を食べに行こうかい?近くに、海辺で景色最高、味最高の魚介を食べさせる店があるんだ」とジェラール。え!?こんなにつまみ食い&つまみ飲みしたのに、お昼も食べるんですか!?夜には仔羊も待ってるんですけど。

パノラマになったレストランは、大盛況。カニやカキ、ツブガイ、エビなどの海の幸の盛り合わせを食べて、それも納得。とんでもなく美味なんだもん。もう二度と、ええ、もう二度と、パリで海の幸の盛りあわせ”は食べられない。100歩譲ってピンクエビとツブガイくらいだろう、食べてもいい、と思えるのは。

なんやかんやとむしゃむしゃむしゃ。ジェラールが取ったイカのポワレも味見させてもらって、その甘味ときめの細かい身の質感にこれもまた感動する。カキは食べなかったけど、スピちゃん曰く、先ほど味見したカキに勝るとも劣らず。いやもう天国!とのこと。

カキ棚が遠く浅い海から顔を出しているのを眺めて、更なる美味を求めて車をひた走らせる。シトロエンの小さなカブリオレに乗るのは、もじゃもじゃ頭を風になびかせるジェラール、いつものヴァカンス帽子をかぶった私、ピエール・エルメのラボの制服の1つである白いキャップをかぶったスピちゃん。ヘンな取り合わせだ。

その名もビスケットの家”というビスケット屋さんを訪ねる。午前中、カキ祭りにもスタンドを出していたところで、ノルマンディーの上質なバターをたっぷり使ったサブレやクッキーを作っている。ものすごく田舎で何にもない場所にあるのに、店は超満員でひっきりなしにお客様が訪れる。とても有名店なんだって。併設のサロンドテでお茶をごちそうになりながら、サクサクビスケットに舌鼓。粉とバターのおいしささえあれば、ビスケットは本当にどこまでもおいしくなれるものだ、と再確認。

裏のアトリエで職人気質で作るビスケットは、ガレットもサブレもヌガーメレンゲもココナッツ味もチョコチップ味も、なんでもかんでも美味。フィナンシエだけ、普通かな。もともと私、フィナンシエがあんまり好きではないから。積極的に愛するフィナンシエは、クリストフ・ミシャラクのものだけ。これには参った。あつーくて濃いカフェと一緒にいただくクリストフのフィナンシエはすごかった。あとは、ギリギリでカミーユ君が作るものかなあ。パリに出せばいっきに火がついて売れまくりだろう、と思うけど、パトロンは、そんな話に興味なし。パリに卸すほど数は作れないし、この地元でみなが買ってくれるだけで十分満足だ、と。大きな箱や袋をたっぷり買い込んで、車の後ろに詰め込む。ミルクショコラをかけたサブレが絶品だ。パリに戻って3日後に食べきってしまう。また買いに行きたいなあ。

粉引き風車小屋を訪ねて粉挽きの様子を見学。この風車で挽いたソバ粉をゲット。パリに帰ったらこれでガレットを焼こう。ベーコンと卵入りがいいな。

ジェラールの畑で摘んだばかりの何種類かのミントとルコラそしていよいよ、本日のメインイベント、ジェラールの畑訪問だ。家に寄ってまず、羊番犬スティングと羊チェック用の双眼鏡を車に詰め込む。ついでに、10種類近くあるタイムを見せてもらって、匂いをクンクン。オレンジ味のが好きかな、私は。

畑到着。プ〜ンと、畑ならではの匂いがする。トマト畑の横のスペース、今はぐしゃぐしゃだけど、夏前にきちんと片付けて、バーベキューが出来るようにするんだって。
「最高だよ。自分で好きなトマトや野菜をもいだり摘んだだりして、そのまま焼くんだ。仔羊もまだおいしい時期だしな。今度こそ、僕のを食べさせてやるよ。夏にまた来いよ。今度はもっと汚い格好して。フィリップんちみたいにセルヴィエットもないけどさ。手づかみで食べる肉の汁で手が汚れたら、なめちまって最後はジーンズで手をふきゃあいいさ」。思わず生唾を飲み込む。絶対来ます、夏にまた!

ジャガイモをはじめとする春野菜。ハーブたちは、その辺にかって気ままに映えている。ふまれるのをまぬがれたロケットをつまむ。新鮮でダイナミックな土の香りが口内を制覇する。ああこれだ、夕べ、フィリップのところで食べたロケットは。靴を汚しながら土を踏み固めた道をどんどん奥に進み、放牧場へ到着。と言っても、人見知りが激しい羊たちは、そっと近づいても、おどおどと遠くへ遠くへと移動してしまうので、顔の表情まで確認するには双眼鏡のお世話になるしかない。ロバと犬を使って、羊を集めるんだそうだ。夏は放牧場に出っ放し。冬は夜になると毎日小屋まで連れて行くんだって。高飛びチャンピオンのスティングが大活躍するのだろう。(スティングは1メートル半くらいある金網をピョンと飛び越えられる。)ミントやヴェルヴェンヌ、セロリなどをたっぷりオミヤにもらって、フィリップたちにとロケットとタイムを摘んで、店に戻る。

あの摘んだばかりのルコラをあしらった、夕食のアントレ、いやはや、、、、。おいしさは想像してくださいさあ、夕食です。仔羊を堪能したいから、と、アントレはスピちゃんと半分こ。ジェラールはもちろん一人前。海の香りのブイヨン、ジェラールの野菜とディップを楽しんだあとのアントレは、昨日のアワビに負けない感動的な味。1人分丸ごと食べてもよかったかも〜。

ポワローの白い部分でカニの肉を包んだものとホタテのグリル、口を開かせた貝、そして野菜たち。カニの甘く繊細な肉とポワローの香り、ツヤツヤしたホタテの凝縮された甘味、プックリと完璧な歯ごたえの貝からは至高の汁が流れ落ちる。そしてインゲンやアスパラ、さっき摘んだばかりのロケット。フワリと軽く風味豊かなソースとあいまって、もう本当に至福の味の一皿だ。

いたいけなプレ・サレ。いや〜。美味でしたそして仔羊ちゃん!1年も前から、この店で仔羊を食べるのを夢見てきたのが今日ついに叶った。骨をつけたままシンプルに焼けよ、とジェラールはフィリップに散々言っていたのに、そのご意見を無視してフィリップはちょっと技術を使って料理人的に仔羊を料理した。ジェラール、軽くおかんむり。
「あれほど、骨をつけたまま焼け、といったのに。料理人はいろんなことをやりたがるから困るんだ。チッチッチ、確かに旨いけど、これじゃあダメなんだ。待ってろ、夏には俺がアニョーを焼いてやるからな」。待ってます、首をなが〜くして待っています。

で、アニョーちゃん。香りがほんのちょっぴり控えめかな、という気はするものの、歯で噛んだときの肉の質感は、史上最高。文句なしに、と言いたいところだが、数年前の初夏、「トロワグロ」で食べたアニョーの質感も忘れがたかったからなあ。両者双璧、とでも言っておきましょう。サクリというかサクンというか、細い細い繊維が歯の間でハラハラとちぎれていくのが分るというかなんというか、、、。なんだかとっても崇高な食材を味わっている気になる。焼き加減も完璧。ひどくシンプルなジュ(汁)がまた、限りなく繊細な肉にピッタリ。怖ろしくおいしい。強いて言えば、香りがもう少しだけ肉についていればよかったかな。フレッシュなタイムの香りとともにいただく仔羊に、とろけてしまうよ。

それにしても、案の定というか危惧していた通りと言うか、量が足りない。たった5切れだもん。倍量食べたかった。せめてジェラールがいなかったらあと3切れ食べられたのに、と、フィリップたちとともに今夜の夕食に招いてくれたジェラールに、薄情な思いを抱く。

コロコロマカロンとガナッシュクリームオヤツはマカロン♪一昨日の味が忘れられず。昨日のオヤツについていた、こちらもかなり上出来なガナッシュクリームを添えてくれる。昼間のカキ食いがたたって、もうお腹いっぱい〜というスピちゃんのクリームまで平らげる。おいしい(ここがポイント)オヤツを相手にまわしていまだ敗北を喫したことがない私。余裕を持ってスピちゃんのクリームを平らげ、丸々としたマカロンをパクパクパク。うむ、美味。

ラデュレのような繊細さも、ピエールのような存在感もないけれど、肩の力の抜けた素敵な口当たりと押し付けがましくない味を持った、これはこれでとっても質の高いマカロンだ。6月に、はじめてのマカロンコンクールがパリである。審査員の面々に、ここのマカロンのおいしさも伝えておこう。

ハイビスカスの香りを楽しむ水タバコというかハイビスカス蒸気水タバコの要領でハイビスカスの花のエッセンスを詰めた蒸気を吸う。極楽。「今朝、録音してきたのよ、聴いて!」とナディアがセルヴィエットにパンを包むようにして持ってきたMP3には、海の音。果てることなくひいては打ち寄せる波の音に風に舞うかもめの鳴き声。目を瞑って音に没頭すると、まるで海に漂っている感覚になる。この音をパリに持って帰りたい、、、。

おみやげ。リディアお手製のジャムは朝ゴハンの時にも出てきたもの。左の箱には、オレンジケーキとニンジンケーキ続いて赤と緑の風船が登場。「スミレの香りを閉じ込めてあるの。お土産よ」とナディア。どうしてまあ、彼女はこんなにも優しいんだろう。一昨日からずっと、おもてなし、歓迎と言うのは、こういうことなんだ、というのを、身をもって教えてくれるナディア。彼女が私たちに与えてくれたものは、形になるものと形にならないものを取り合わせて、この3日間つきることなく私たちを感動させてくれた。愛情満ち溢れたナディアの歓待に、ただただ感動するばかりだ。ナディアに限らず、フィリップもジェラールも、そしてシャンブル・ドットのロベールとリディアも、どうしたらこんなに優しくなれてどうしたらこんなに人を喜ばせてくれるんだろう?と、不思議なくらいのホスピタリティーを、私たちにくれた。

飛び切りのおいしさとかわいい羊たち、ピュアで原始的な雰囲気が残る最高の景色に加えて、彼らの最高のおもてなし。極上の、本当に極上のプチヴァカンスを味わえた、マンシュでの春ヴァカンス。夏にもまた、この地を訪ねられることを心から祈る。

jeu.5 mai 2005



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