思ったよりもずっと早かったミシュラン速報を受けて、おめでとうございます!の電話を入れたのは数日前。毎年、なぜ今年も星がつかないのか?とささやかれ続けてきた「ステラマリス」が、ついに1つ星を取ることになった。嬉しいな、ちょうど食べに行くことになっていて。残念ながら、ご夫妻そろってかたや日本かたやイングランドと、店にいなかったけれど、幸せそうなスタッフの温かい歓迎を受けながら、おめでとうディナーを楽しむ。
シャンパーニュで店に乾杯し、フォーシーズンスかここか、と思ってるパリきってのグジェールをつまみ、アミューズその1は、ミニタルトフランベ。タマネギの柔らかな甘みと華奢で香ばしいタルト生地がひとつに溶け合って、美味極まりない。シャンパーニュが進むねえ、こういう料理って。アミューズその2は、牡蠣の青リンゴジュレかけ。牡蠣が好きならとっても美味しいのだろう。私は残念ながら、生牡蠣ファンではないので、いまひとつピンと来ず。そしてその3は、アワビにバジルを添えてパートフィロでまいて揚げたもの。ロビュション先生のラングスティヌのパートフィロ巻きを思い出させる。ちょっとアワビがゴム的だったのが残念だけれど、難しいものね、アワビの火入れって。ポワローとの組み合わせなど風味の点ではとても上出来。
アントレは、季節のトリュフ&ジャガイモサラダと、吉野シェフの傑作のひとつマグロ&ナスのテリーヌ仕立てを半分ずつ出してもらう。トリュフジャガイモは、んー、トリュフの風味が足りないのかジャガイモの種類がトリュフと合わないのか、今ひとつこう、ハッとする感動はない。美味しいけれど、ごく普通の美味しさ。
対するマグロとナスは拍手もの。魚の美味しさの表現法を知っているんだよなあ、やっぱり。テクスチャーといいソースの利かせ方といい、ナスの甘みとのぶつけ方といい、とても上手。爽やかですがすがしく、そしてエレガントな味にパチパチパチ。
プラは、こちらもシェフご自慢の3種のジビエのトゥールト。雉や鹿などのジビエの旨みと香りが、パイ生地の中でギューッと濃縮されて、強く華やかな香りを皿から勢いよく立ち上らせてる。フォアグラとトリュフでさらにアクセントをつけた力強い肉を、バターの風味もここちよいパイ生地と濃厚なソースが演出している。クラシックなフランス料理にこだわり続ける吉野シェフの会心の作品。彼の力をきっちり感じられる。寒さで骨の髄まで凍りそうな日々の中、野生動物の力で体が芯から温まる、冬料理の傑作だ。
赤ピーマンのクレームブリュレ仕立て、ご自慢のマロンケーキに舌鼓をうち、デセールはモンブラン。丁寧に作られた素朴な味が味覚をくすぐる。ショコラ&ノワゼットのお菓子を頼んだ友達が、もう食べられない、というので、快く引き受けてあげる。軽く香ばしいノワゼットがいい感じ。
プチフールとお茶を頼んで、さすがにもう、動けない。あれやこれやと、たくさん食べたねえ。どれもソツなく美味で、前から感じている、どう考えても1つ星の極上クラス、という自分なりの評価を再確認する。と同時に、政治的な問題でずっと星が取れなかったことに対する不条理と取れた悦びについて思いを馳せ、ミシュランという一料理ガイドブックが引き起こす、もろもろの喜怒哀楽について、考えてしまった。ミシュランがどう言おうと、「ステラマス」の料理は昔から、今と同じくらいおいしかったし、吉野シェフは誠実に一生懸命料理を作っている。名店、の名に恥じない1軒だと思う。
翌月のはじめ、星を祝してパーティーが開かれた。フランソワ・シモンをはじめとする大物料理ジャーナリストや古くからの常連客たちが集い、誰もが皆、吉野夫妻と彼らの店を祝福していた。ミシュランの星とは関係ないところで、多くの顧客に支持を得ている「ステラマリス」は、とても幸せなレストランだ。
ven.10 fev. 2006 Stella Maris