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グルマン・ピュスのレストラン紀行


タイユヴァン(Taillevent)

実は初めて、「タイユヴァン」に食事をしに行くのって。席が取れなかったり都合が悪くなったりで縁がなく、そうこうしているうちに、彼の料理を食べに行くのはちょっと、、、というシェフになってみたり、まあ、いろいろあって、いわゆる“私のレストラン”ではなかった「タイユヴァン」。2年前の冬に、「レ・ゼリゼ」のシェフだったアラン・ソリヴェレスがシェフに就任してからは、落ち着いたらぜひぜひアランの料理を食べに行こう!と楽しみにしていた。「レ・ゼリゼ」で何度、豪快かつ繊細な、エッジの効いた極上南仏料理を食べさせてもらったことか、、、。思い出すだけでも胃液が分泌する。

落ち着いてから、と思いつつ、時間はどんどんたって今年の春。今度はなんと、「レ・ゼリゼ」でアランの横でこれまた極上のデセールを作っていた、アラン・ルコントが、夏から「タイユヴァン」のシェフ・パティシエになる、というニュースが飛び込んできた。パティシエアランは、2000年頃に私が溺愛した3人のパティシエの1人。他2人は、皆さんご存知ですね?はい、そのとおり。ロランとジルちゃんです。2人のアランの競演が、劇場を変えてついに再演!興奮に胸を躍らせ、寒い寒い秋の昼下がり、「タイユヴァン」の入り口に立つ。

夏に内装を新しくした「タイユヴァン」。秋口に、アランのお菓子を取材させてもらったとき、オーナーのヴリナじいちゃんが、嬉々として、上階のサロンや中庭を案内してくれた。彼のプライヴェートコレクションの絵画やオブジェが飾られ、クラシックとモダンが渋く組み合わされた素敵な雰囲気。いい店だよね、ここ。じいちゃん以下恭しいセルヴール氏たちの歓迎を受け、ボワズリー(木の家具や装飾)が美しいサロンの丸いテーブルに着席。シャンパーニュを傾け(ちょっとぬるめだったのはご愛嬌)、ついに実現した「タイユヴァン」の食事を祝う。

ごく簡素な作りのカルトを眺め、一行一行を、おいしい水を飲むように喉を鳴らしながらじっくりと読み込む。ああ、どれもこれもなんて魅力的なんだろう。アランの強い個性とじいちゃんのクラシックな味わいが、それぞれの自己を主張しながらも互いの魅力を認めていい具合に妥協をした、と言うのがよく見て取れるね、このカルト。可笑しい。「どの皿がマダムを喜ばせるでしょうか?」と注文を取りに来るメートルに、「全部!全部食べたいです!」と、ほとんど本気で答えたのだけれど、冗談としか受け取ってもらえない、、、。ち。断腸の思いで、アントレとプラからそれぞれ5〜6皿に別れを告げ、たった一皿ずつだけ選び出す。ああ、さよーならー、ブレス家禽のクネルちゃん、エプートル麦のリゾットくん。再会を夢見てるよ、サーモンくん、イノシシさん、、、。

これまたじいちゃんのプライヴェートコレクションもザクザク入っているワインカルトは、料理カルトと一体になっていて、非常に読みやすくて好き。あの、仰々しい皮表紙のワインカルトって、どうしても性に合わない。シェフ・ソムリエのマルコと、楽しいワイン談義をしながら、お酒を選ぶ。よし、作業終了。あとは、ちやほやされてかしずかれて、ひたすらにおいしいものを食べることのみに専念!

アミューズ。カリフラワーのヴルーテ。この黒いの、なんでしょう

?アミューズは「カリフラワーのヴルーテ」。いたってシンプルでオーソドックス、そして過不足なしにおいしい。老舗レストランの実力を、最初からガツンと見せてくれる。クリーム色に浮いている小さな黒い粒の正体が分からない。海苔系?でも海の匂いはしない。タプナード?ううん違う、もっとまろやか。連れは「大徳寺納豆みたい」と。なるほど、確かに。この間日本に行ってから、アラン(料理)は日本を気に入ったらしいので、案外本当に使ってたりしてね。

タイユヴァン名物、オマールのブーダン。白い泡はウイキョウ味、オレンジの泡はオマール味アントレは、この店のウルトラクラシックな皿、「オマールエビのブーダン仕立て、オマールソースとウイキョウソース」を選ぶ。オマールは甘味と力強い濃さが同居するエビだけれど、このブーダンには、オマールの優しい甘味だけが、ふんわりとしたテクスチャーのなかに封じ込まれている。強さは、殻を潰して作ったソースのほうに。ウイキョウの品のある爽やかさとオマールの甘味と強さがきれいに絡んで、ふむ、確かにこれは傑作だ。軽やかな料理だね。

鹿。本当に死んじゃうかと思った。信じられないくらいおいしくてプラを食べながら。イジワルされたわけではなく、あまりのおいしさに感激して。季節もののシュヴルイユ(鹿)。シンプルにロティして、胡椒を効かせたオーソドックスなソースと、コワン(カリン)とマロンを添えた、本当にクラシックな一品の、信じられないおいしさに、体中が震える。サクンと歯の間で噛み砕かれる肉は、うっとりするくらいにジューシーで甘く風味豊かでしとやかな肉質。なんて!なんて!!なんておいしい肉なんだろう。まとったソースは、フランスガストロノミーの本質を突き詰めたようなできばえ。

マロンは炒って歯ごたえを残したまま、肉の上に散らしてある。珍しいね。横に、柔らかく火を通したのを添えることは多いけれど、こういう形でマロンがいるの、素敵だ。マロンの歯ごたえ、香ばしい匂いが、シュヴルイユにとてもいいアクセント。お約束の秋果物は、コワン。これがまた!下に敷いたフイタージュと共に気が遠くなるほどのおいしさ。このままこれを食べ続けていたら、あまりの幸福に気が狂ってしまうんじゃないか、、、と思うくらいだ。死にそうにおいしい、、、、。上手く言葉が足りなくて歯がゆい。

今シーズンは、もう他の店でシュヴルイユを食べられない。ありえないもん、これ以上の味なんて。シーズン中に、もう一度「タイヴュアン」に来られるといいなあ。この料理を食べに。大好きなシュヴルイユ。今まで食べてきた中で、最高の一皿になる。一生忘れないよ、この皿の味を。

めくるめく幸せを味わったあとは、アラン(お菓子)のおやつ♪この間取材に来たとき、4皿作ってもらったおやつを全部食べきったのは、カミーユ君の時と同様。あの時食べたおやつはどれもすばらしかったけれど、今日はやっぱり違うものを。で、洋ナシ3種。しみじみおいしい「ポワール(洋ナシ)のポシェ&フォイユテ」を選んでみる。ポワールもの、あんまり好きではないのだけれど、アランが作るんだったら、食べてみてもいい。

2種類のポワールを、どうしたらこうなるのか不思議なくらいにおいしく煮たのに、極薄にしたポワールを焼いたものが添えてある。それこそ、怖ろしくクラシックなおやつだけれど、味は抜群。添えてあるマドレーヌは全然つまらないシロモノだったけど。後日アランと話したときに、
「なに?あんなの食べたのか?ダメだよー。あれは、ムッシュ・ヴリナがどうしても欲しい、っていうから載せてあるだけなのにー」とアラン。
「そう?でもすばらしくおいしかったよ。あ、マドレーヌはイマイチだった。」
「ああ、あれはニュル!食べちゃダメ。」でもちゃんと、アランの代表作、オリーヴオイルのソルベとアランのサインオリーヴオイルのソルベは、おまけでもらった♪テクスチャーが、「レ・ゼリゼ」時代よりもっとソルベっぽく軽やかになっている気がするけれど、味はさすがだね。今でこそ、オリーヴオイルソルベを作るパティシエが増えてきたけれど、あの当時、アランが創ったこのソルベは感動的だった。

マルコが差し入れしてくれたモーリーをおいしくいただき、すばらしいランチの終わり。鹿とイノシシに、と、彼が薦めてくれたワインは、掘り出してきたばかりのワインで、まだカルトに載っていないものだった。メドックのクリュ・ブルジョワの1つだが、これがまた、ピターッとジビエに寄り添って、驚くばかりの見事な相性。薦められるがままに値段も聞かずに選んだワインだったけど、会計を見て、その安さに再びびっくり。こういうワインを薦めてくれるソムリエさんて、本当に素敵だ。モーリーもゴキゲンな味で、連れはその場で1本お買い上げ。最後まで残っていた常連さんと歓談しているじいちゃんに感動的な午後のお礼を告げて、じいちゃんの笑顔に見送られながら「タイユヴァン」をあとにする。

すばらしい!2人のアランがそろった時点で、すばらしいとは分かっていたけれど、想像していたよりも、ずっといい!サーヴィス、雰囲気、料理、お菓子、ワイン、全てが高レベル。各要素がここまでピッタリ同じレベルで決まる店って、とても稀有だと思う。長い歴史を持つ名店の、何度目になるのかは知らないけれど、間違いなく今は、「タイユヴァン」の黄金期の1つだ。感動をもらいに、また来ます!


mar.9 nov. 2004



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