ほんとはヤニック&カミーユのところでごはんをしたかったのだけれど、知らないうちに、月曜日も休みになってた。週休2日半か、、、。ギーちゃんの所と同じだ。予約取りにくくなるなあ。まあでも、客席が30もない上に週休3日になった「ラストランス」よりは、まだいい。常に安定した質の料理やお菓子を提供するには、シェフたちもゆっくり休んでリフレッシュしないとね。ゆっくり休んで、またおいしい料理とおやつを作ってね!
で、どこに行こうかなあと迷いあぐね、まだ試したことがない一応話題のAを、ドキドキしながらも予約。大丈夫かなあ、大丈夫だよねえ?となんとなく不安な気持ちでいる前夜、「2〜3日前に試したけど、最悪でしたよ、A。食べられなかった、、、」という知り合いの感想。神のお告げ、とばかり、迷いをふっきりAをキャンセル。当日、一縷の望みにすがって電話をした「タイユヴァン」に運よくテーブルを確保できて、ホッと一安心。受話器を置く間もなくアランに電話。「今夜ごはん食べに行くよー。デセール、楽しみにしてるね!」
夏のように暖かな夜。昼間みたいな日差しの中、ヴリナおじーちゃんの館に到着。既にほぼ満席。従業員がキビキビ動き回り、その隙間をおじーちゃんがエレガントに歩いては、ゲストに暖かな微笑を向けている。今夜のテーブルは上階のサロン。はじめてだ。上って、全部個室なのかと思ってた。
美しい階段を上ったところにある、5〜6テーブルを備えたシンプルで品のよいサロン。こぢんまりとしていていい感じ。ほどなく、おじーちゃんがご挨拶にやってくる。おじーちゃんのひざが悪くなり、階段をのぼることが出来なくなったとき、このサロンは閉じられるのだろうか?と、ふと考えが頭をよぎる。暖かで素敵なヴリナおじーちゃんの歓待の言葉を受け、カルトを渡される。
「日本語も用意しているんですよ」と得意げなおじーちゃん。
「誰が訳したんですか?」
「もちろん私ですよ。話すことは出来ないけど、読み書きは完璧なんです」と、フホフホフホと茶目っ気のある笑顔。横で、おじーちゃんと同世代のメートルが、
「ええ、そうなんです。ムッシュ・ヴリナの日本語書きの才能は、ただことではないのです」としたり顔でうなずく。
シャンパーニュ&グシェールを楽しみながら、アランその1の料理考察。プラは即決。愛すべきブレス鶏の丸ごとロティ。アントレ、どうしようかな。鶏のクネルが食べたいけど、鶏&鶏もなんだしね。オマールブーダンも大好きだけど、やっぱりキノアのリゾットかなあ。アランその1が「レ・ゼリゼ」にいた頃、私は彼のキノアリゾットをひたすら愛した。3月に来たときもリゾット食べたけど、ま、いいや、好きなんだもん。ワインは、シェフソムリエのマルコにおまかせ。マルコの選択はいつも面白くってソツがなくて、任せておくと、素敵に楽しいワインを発見させてくれる。
海の幸のヴルーテみたいな、すーばらしいアミューズを楽しんで、アントレの時間。南米大陸が原産らしいキノアはコリコリというかプチプチと言うか、なんとも形容しがたいテクスチャーを持つ穀物。これでつくるリゾットはアランその1のスペシャリテで、昔から、エビ入り、キノコ入りなどいろんなものを作ってたっけ。
上質なフォンを使って煮込んだリゾットに、今日はニンニクで風味をつけたカエルさんのポワレとパセリを揚げたのが乗っている。カエルさんがそれほど好きでないのにわざわざこの料理を選んだのは、ひとえにこのリゾット本体が好きだから。モリーユでも出来ますよ、と言われたけれど、カエルさんと同じくらいのレベルでしかモリーユも愛せないので、カエルさんにしてみた。フォンがしみこみ、たっぷり混ぜ込んだパセリの香りをまとったリゾットは、いつ食べても美味美味美味。アスパラガスとかソラマメとかセップでつくってもらえるといいな、今度は。コンガリ焼いたリ・ドゥ・ヴォーを乗せるのもおいしそうだねえ。
お口直しに、ピンクシャンパーニュと赤い果物のグラニテ。シェフパティシエであるアランその2は、ほんっとにアイスクリームやシャーベットがおじょうず。「レ・ゼリゼ」時代には、シナモンアイスクリームやオリーヴオイルシャーベット、シンプルなヴァニラ・アイスクリームで幾たび私を感動させてくれたことか。サーヴィスのトップにいた、とても優しいアランその3に、毎回のようにお代わりをねだったっけ。懐かしいなあ。
丸々と肥えたブレス鶏がなんともいえないいい香りと焼き色をまとって、鋳物の鍋に入ってやってくる。おお、なんと美しい腿!去年、ブレスまで、この鶏を取材しに行ってから、もともとブレス鶏のファンだった私は、一層ブレスに傾倒するようになった。広々とした湿気の多い平原で、鶏たちは地中の虫や飼料を与えられて育つ。血気盛んで雄々しくたくましい雄鶏たちは、喧嘩好きで、しばしば死に至ることもある。筋肉が発達して味わい深いこの鶏は、フランスが世界に誇る名鶏。鶏唯一のAOC取得種だ。
走りの新ジャガのねっとりしたおいしさ、かぐわしいニンジン、トロンととろけるピキロスと呼ばれる小さな赤ピーマン(アランその1は南西部出身で、この土地のものをなんやかんやと使いたがる)などの野菜の味と馴染んだブレス鶏の胸肉は、肉汁豊かで甘く、どこまでも繊細なテクスチャー。噛み締めるほどに味わいが口の中に広がっていく。鶏と野菜から出来上がった焼き汁がこれまた見事。ブレスみたいな鶏は、いろいろソースを添えるんじゃなくて、こうやってごくシンプルに、じっくりと時間をかけてロティしたのを食べるに限るね。
骨をとられた腿は、やや甘めのソースに絡められて、サラダと一緒にやってくる。腿、大好き。栗の皮の色を彷彿とさせる濃い色の腿は、胸の繊細さに比べ、より饒舌でよりダイナミックに、この偉大な鶏の威厳を存分に味合わせてくれる。最高!あー、ブレスに行きたいなあ。
肉にも魚にもあうように、とマルコが選んでくれたブルゴーニュのお酒は、名前、忘れちゃった。あんまり聞いたことがないアペラシオンだった。どこかの有名なアペラシオンのすぐ横にある区画で、作り手はコント・ラフォンなのは覚えてる。まだ若の赤は、それはそれは見事なルビー色に輝いて、色気たっぷり雰囲気たっぷり。ワイン好きの同席者は、どうしてもこのワインが欲しい、と言う。あとでマルコにお願いしてみましょう。
アランその2におまかせしたデセールは、羊のフロマージュベースのクリームを薄いクレープで巻いたのにフレーズデボワを飾ったものと、薄いパリパリショコラでキャラメルムースとショコラムースを挟んだものと、オリーヴオイルとトリュフのソルベの3種デギュスタシオン。かわいくってあいらしくってそしておいしいおやつたち。レストランのデセールは、こう盛り付けなくてはね。傑作ショコラを含む、素敵なプチフールの盛り合わせも、またたく間に平らげる。
デセールに、とマルコがご馳走してくれたプロヴァンスのヴァン・キュイがこれまた絶品。甘い中にいい感じでスパイス香が漂い、複雑で魅力的な香りを持つデセールワインに仕上がっている。このワインもぜひ分けて欲しい、と同席者。
「えー、これー?生産量がすごく少なくて僕のところにもようやく入ってきたばかりでしかも数がちょっとしかないんだよ〜」と、ちょっぴりしぶるマルコを、目をパチパチしてお願いモードで陥落し、チップを弾み、めでたく1本分けてもらうのに成功。掘り出し物のレア物ブルゴーニュと最高級のヴァン・キュイを手に入れて、ホクホクの同席者。よかったですね。
「このサロンは、まだこの館に人が住んでいた頃のダイニングルームだったんですよ」と、お茶の時間におしゃべりに来たおじーちゃんが教えてくれる。このサロンで「タイユヴァン」の食事を楽しんだ、歴史に名前を残す人々の名前を挙げながら。名士を案内するときも、私たちみたいな普通のお客様を案内するときも、常に最上級の歓待の体でゲストを迎えてくれるおじいちゃん。2人のアランの料理とデセールを楽しむためなのはもちろんだけど、この館と「タイユヴァン」というレウストランの歴史を感じ、そしてクロード・ヴリナという人間に触れたくて、私はこの店に電話をするんだろうな。
素敵なデセールをありがとうアラン。おいしい料理をありがとうアラン。楽しくエレガントなサーヴィスをありがとうございます、セルヴールさんたち。ワインを分けてくれてありがとうマルコ。極上の雰囲気を作ってくれてありがとうございますヴリナさん。すっかりお客様の引けた店内を一巡しながらおじーちゃんのモダンアートコレクションを楽しみ、この店のあらゆる人たちに、深い感謝の念を抱く。
lundi 2 mai 2005