homeホーム

グルマン・ピュスのレストラン紀行


Le Tanjia

くうぅ、ちょっと薄着しすぎたかなあ。あったかなオーヴァーを通して、真冬と見まごうようなツンと冷たい風が突き刺してくる。フランクランでシャン・ゼリゼに出たところで、思わず空を仰ぐ。うっそぉ、雨まで降ってきたよ、、。降りはじめの冷たい雨に体を縮め、足早にリュ・ポンシューに向かう。

重い木のドアを開け、暑いカーテンをくぐると、辺り一面にバラ、バラ、バラ。全くここは、バラ館だわね。「ル・タンジア」にやってきました。怪しく華やかに咲きほころぶバラが霞んでしまうくらいに、ゴージャスなおねーさん達囲まれてコートを預け、受付すませて、今日はレストランへと入り込む。

truパテオ風のサルのまんなかには白い噴水。大ぶりのピンクのバラが何十本も生けられている。北アフリカの乾燥した空気を思い出す、白と薄茶で作られたサルを抜け、ステップごとにおかれたろうそくが素敵な階段をトントン。下のサルを囲むようにしつらえられた上のテーブルに着席。「ジュ・ヴ・スエット・トレ・ボンヌ・ソワレ(とっても楽しい夜をね)!」優しいおねーさんの言葉に送られて、「ル・タンジア」の客人となる。

沈む込むような赤に包まれた空間。地下のバーよりは明るいといっても、これはこれでかなりいい感じの暗さ。テーブルには、バラの花びらが散らされ、赤い光をこぼすろうそくの光が幻想的。この店、いったい何本のバラが使われてるんだろう?受付、レストラン、階段、バー、レストルーム。全て合わせて、300〜400本は飾られてるよねえ。すっごく素敵なバラたち、どこからやってきたのかしら。

これだけはいつだってフランス的な、シャンパーニュのフルートを傾け、エキゾチックな雰囲気に包まれる。

tru「ビオ(バイオ)野菜のクスクス」をオーダー。大き目のスミュール粉が盛られた皿の上に、数種類の野菜。ふむ、これがビオものなのだろうか。ちょっとお味見。ふん、これがビオか。よく分からん。大きな器に入れられてきた野菜のブイヨンを注ぎ、ポワッシッシやレーズン、アリッサを加えて、いただきます。麦のように歯ごたえのある大粒のスミュールに、柔らかく煮込まれた野菜とあったかなブイヨン。ポ・ト・フの変形みたいな、クスクス、たまに食べたくなるよね。

エキゾチック情緒漂う、めっちゃサンパなお兄さんが勧めてくれた、モロッコのばら色したワインをすすって、クスクスを食べ、truデセールは、「ブリックで包んだ柔らかなチョコレート、ミント風味の緑茶のグラス」。エリックさんのところで使っているのと同じガラス皿を使ったデセール。油が染みたサクサクブリックの中に、ねっとりチョコレート。悪くない。アイスクリームもまーまーだ。なんせ暗くてよく見えないけど、お皿全体に振られた粉砂糖がきれいじゃない?周りに飾られた数個のフランボワーズを一つずつ食べる毎に、ひょっとしてこれだけソルベになってるかもしれない!なんて、つい期待しながら口に運んじゃうのは、「エル・ブジ」に影響されたせいだよ、絶対。

「お茶はどうする?」とサンパにーさん。
「出来れば、バーで飲みたいな。出来る?」
「んー、聞いてくる。待ってて!」タタタタタ、軽く足音を立てて階段を駆け降り、程なく、トトトトト、とこれまた軽やかに上に戻ってくる。
「OKだって。どうぞ下に。あ、でも、会計別だから、ラディシヨンだけしてってもらえると嬉しいなっ」
「ダコー」

ごちそうさまして、下に向かう。バーへ降りる階段の横に飾られた、これ見よがしに美しいバラたちに賞賛の眼を投げて、アラビアンナイトの住人となる。靴を脱いで深いソファに座り込み、おっきなクッション抱えて、甘く煮出したミントティーをすする。松の実なんかを齧りながら。そういえば、チュニジアで飲んだミントティーには、松の実が入ってたっけ。

天井に無数の光を作っているこのランプが欲しいなあ。このろうそくたてもいいわよ。あのクッションも欲しいなあ。あのバラなんか、花瓶ごと持って帰りたい。と、みんなして欲しい欲しい症候群にかかりながら、なんとも居心地のいい怪しい空間を楽しむ、11月の雨降りの寒い夜でした。


dim.19 nov.2000


back to listレストランリストに戻る
back to listカフェ、サロン・ドゥ・テ、バーに戻る
back to list8区の地図に戻る
back to list予算別リストに戻る


homeA la フランス ホーム
Copyright (C) 2000 Yukino Kano All Rights Reserved.